(33)閑話:商人護衛
リルに専属護衛をつけるにあたっての騒動ネタ。
シルビアが堪能している和菓子は、仙台銘菓の喜久福あたりをご想像ください(美味しい)(抹茶、クリーム、ずんだ)(ほうじ茶もあるよ)
リルはきょとんとした。
「専属護衛?」
最近のリルは城のメレ・アイフェス専用の談話室で、エトゥールの妹姫と銀の髪のメレ・アイフェスの二人と度々お茶を飲む機会に恵まれる。
昔のリルなら緊張で卒倒していたに違いない。慣れとは恐ろしいものだ、とリルは思った。
当初、作法の授業の一貫だったお茶会は、リルがシルビアに対して東国の隠れた銘菓を手土産にしてから、完全に習慣化されてしまった。
そんなのどかなはずのお茶の席で、婚約の儀が間近に迫ったファーレンシア姫から不可解な打診を受けた。専属護衛を選ぶように、と――。
「意味がわかりません」
「リル、貴方に専属護衛をつけることにしたんですよ」
シルビアがお茶のお代わりはいかが、みたいなノリで解説をする。おそらく、彼女の関心はリルが持参した銘菓に向けられている。
一口、食べたシルビアの顔がほころぶ。
「まあ、美味しい」
「お口にあいましたか?いろいろな味がありますから、次回にでも」
「どんな味があるのですか?」
「基本は餡なんですけど、蒸し製緑茶の粉末を用いたり、クリームだったり、枝豆をつぶしたものに砂糖を加えたものとか――」
解説にシルビアの目が子供のように輝く。
「……次回、お持ちします」
「代金の精算はアイリからもらってください」
「それでは手土産になりません」
「リル、手土産とは別に数を増やした分を精算すればいいのですよ。シルビア様の顔にいっぱい食べたいと描いてあります」
ファーレンシアが解決案を提示する。
「あら、そんなにわかりやすい顔をしてました?」
「はい、とても」
銘菓の話題に、専属護衛の話は有耶無耶になるかと思えば、急に話題は戻された。
「それで、リルの希望を聞きたい、と思いましたの」
「希望ですか?」
「ええ、カイル様は神経質じゃない人、シルビア様は女性という要望でしたわ」
「私は貴族じゃありませんよ?専属護衛など分不相応です」
「私も貴族じゃありません」
シルビアが東国の菓子をつつきながら、答える。
「シルビア様は賢者です」
「リルは賢者の養い子です。専属護衛をつける十分な理由になりますよ」
「護衛ならサイラスもいるし――」
リルの返答に、ファーレンシアとシルビアは予想していたように視線をあわせた。
「――専属護衛が必要な事態になったのですか?」
「本当に貴方は聡い子ですね。カイル様がおっしゃる通りだわ」
姫と賢者の間に自分のことがが話題にのぼったと知って、リルは赤面した。
「貴女が人質に取られる危険がでてきたの。正しくはカイル様の周辺の人間で、私達も含まれます。サイラス様が不在の時も考える必要があるのですよ」
「……でも平民に護衛は不自然です。東国じゃあるまいし……」
「リルに特に希望がなければ、第一兵団の商家出身の兵をあてがうこともできますよ」
「商家出身?」
「店員として働きつつ護衛の任についてもらえば、とカイル様が」
「……さすがカイル様ですね……そんな発想、ありませんでした」
シルビアはリルを見つめた。
「もちろん店員としての給料は不要です。おとくな人材派遣だと思いますが」
「あの……リンカも護衛の対象にできませんか?私と一緒に行動することも多いし」
ファーレンシアは微笑んだ。
「もちろん可能です。アッシュの身内ですよね?」
「はい。アッシュ様も安心するかと」
「手配しましょう」
だが、まだ大きな問題があった。
「腕があるか試すに決まっているじゃないか」
リルの予想通りに養親は言いつのった。こうなると過保護は止まらないこともリルは経験上、理解していた。専属護衛候補に立ちはだかる難問は、異様に過保護なメレ・アイフェスだった。
「あのね、サイラス、第一兵団で商家出身なんて、数が限られるの。腕があるかどうかは二の次にしてもらいたいの」
「それじゃあ、護衛の意味がないだろう」
「ごもっともなんだけどね?それより商売の店員を兼務できるの方が最優先事項」
「じゃあその専属護衛候補達を鍛える」
「サイラス」
「アッシュもつきあえ」
「私がですか?」
場に居合わせた話題を振られた専属護衛のアッシュが無表情でこたえる。乗り気じゃないのは明らかだった。
「近衛隊と第一兵団の軋轢を生み出しそうですね」
「リンカの護衛も兼ねるんだぞ?」
「存分に鍛えましょう」
第一兵団専属護衛候補用、地獄のトレーニングコースが誕生した。




