(32)エピローグ
エトゥールの姫の婚約の儀が3日後に迫り、街中は市が立つなどお祝いムードに盛り上がっていた。
カイルは渋るメレ・エトゥールを説得して、お忍びで街に出る許可をもらった。お祝いごとがある街の様子を見るのは社会勉強――と、もっともらしい理由が功を奏した。
胃炎が完治したミナリオとアッシュを専属護衛として同行させることがメレ・エトゥールの出した条件だったが、カイルは喜んで承知した。第一兵団を同行させろと言い出すかと思っていたからだ。
カイルが初めて市を訪れたのは、エトゥールの戦勝を祝っての催しだったが、今回は雰囲気が違った。どの屋台にも、必ず花が飾られていた。
「花がずいぶん多いんだね」
「婚約の儀ですから。花をたくさん飾ると、祝福に訪れた精霊の気を引くことができると言われています」
「気を引くとどうなるの?」
「祝福が大盤振る舞いされます」
ミナリオは少し笑いを漏らした。「精霊」の言葉に顔が引き攣る主人の反応が相変わらずだったからだ。
「今回は精霊の姫巫女の婚約の儀ですから、さらに大盤振る舞いされることでしょう」
「花か――女性に送る風習はある?」
ミナリオは面白そうな顔をした。
「ありますが、恋人以外には送らない方がよろしいかと」
「そうなの?」
「はい、誤解されますから」
「……それは三曲目の風習と似たものかな?」
「はい」
「……気をつけるよ」
カイルは散策を楽しんだ。
途中、吟遊詩人が巫女姫と婚約する賢者について歌っているのに遭遇したが、話は五倍以上に盛られていた。
野生のウールヴェを単独で倒したことになっていたし、知らない国で活躍していた。
そんな優秀な賢者がエトゥールに永久就職するなら、確かに民衆は盛り上がるだろう。
カイルは経歴詐称詐欺を働いている気分に陥った。
子供達はご祝儀で無料で振る舞われている焼菓子の屋台に群がっていた。
人が笑顔で過ごしている。
どこを見ても、活気と平和に満ちた光景だった。
大災厄後、この光景を取り戻すのに、いったいどのくらいかかるだろうか?
カイルの表情が曇ったのを、ミナリオは見逃さなかった。
「カイル様……」
「……うん」
「何を考えているか、わかりますが……」
「……うん」
「大丈夫、取り戻せますよ」
カイルはミナリオを見つめた。
「何せエトゥールは導師が多数いますし、世界の番人も「御友人」だそうですし、ね」
ミナリオが片目をつぶってみせ、カイルはその言葉にため息をついた。
「メレ・エトゥールは、そんなことも言いふらしているんだ?」
「はい、二回目の専属護衛の選抜試験はそれはもう、凄まじいもので――」
「なんだって?」
「専属護衛、近衛隊、第一兵団のみならず、第ニ兵団からも希望者が殺到して、調整が大変だったようです」
カイルは、ぽかんと口をあけた。
「なんで、そんなことに」
「当たり前と言えば、当たり前ですね。特に第一兵団、第二兵団の選抜試験へかける意気込みなどすさまじく――クレイ団長あたりが、面白おかしく語ってくれますよ」
「――」
カイルは腕を不意に掴まれた。
専属護衛達が構えるより早く、空間が歪んだ。
瞬間移動――サイラスとかが得意としている能力だった。
カイルが息をつくより早く、世界は再構成された。見慣れた光景はエトゥールのものだったし、市の賑わいが耳に届く。ほんの短距離の移動に違いない。
カイルは背後に立つ元凶の人物を首をめぐらせて見上げた。
カイルはその人物をよく知っていた。
「アードゥル……」
フードを目深に被った初代のメレ・アイフェスが、カイルの腕を強く掴んでいた。
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最近投稿時間が一定せずに申し訳ありません。あと一週間ほどは、こんな感じの投稿になりそうです。(パソコンが絶不調につき、スマホ投稿絶賛実施中!(吐血))
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