(21)協力者⑱
カイルは、この問題に一番正攻法に近い解決策を選んだ。
それはセオディア・メレ・エトゥールとファーレンシアに意見を求めることである。
シルビアと共にメレ・エトゥールの執務室に向かい、緊急の面会を申し込んだ。ファーレンシアにも同席を頼む。
専属護衛達を人払いしてもらってから、カイルは布に包んで連れ込んだ、小さくなったウールヴェを執務机の上に下ろした。
「トゥーラではないか」
メレ・エトゥールはすぐに子犬の正体を見抜いた。
「なぜ、小さくしたんだ?」
「勝手に小さくなってしまったんだ。ディム――天上のメレ・アイフェスのウールヴェがトラブルで、小さくなってしまった。その影響を受けたらしい」
「まあ、かわいい」
ファーレンシアは小さくなったトゥーラを抱きあげ、はしゃいだ。
そのまま、ぎゅっと胸で抱き締める。
――僕 このまま 小さくても いいかも
「おい、こら、待てや」
カイルの殺気がウールヴェに飛んだ。
予想に反して、メレ・エトゥールはあっさりとした反応だった。
「なるほど。婚約の儀に関するアイリの指摘も、もっともだが、たいした問題ではない」
「そうなのか?」
「てっきり、別の問題かと思ったから、拍子抜けだ」
「どんな問題を想定したのさ?」
「侍女と関係をもったとか、隠し子がいるとか、妾をとりたいとか――」
「僕はそんな不誠実な人間じゃないよっ!メレ・エトゥール!!」
「そうだな、妹に対して不誠実な人間だった場合は、どうしてくれようかと思ったが……」
「どうなったわけ?」
セオディア・メレ・エトゥールは、カイルを見て嗤ったが、カイルは悪魔の笑みという比喩がどのようなものか、初めて学んだ。
「ヘタレなカイルが、そんな高等技術をできるわけありません」
「シルビア、それ貶しているの?褒めているの?」
「さあ、どちらでしょう」
「だいたい隠し子とか、妾とか、高等技術なの?」
「では、貴方にできますか?」
「………………できません」
「そういうことです」
「で、できたら、私が困ります」
顔を真っ赤にして、ファーレンシアが抗議する。
「ファーレンシア様、そのときは私か侍女に相談してくだされば、対応します」
「……どんな対応だよ」――
カイルはぼやいた。
「メレ・エトゥール。僕はこの手の王族の風習を要求されるのかな?」
「要求しないから、安心するといい」
「よかった。で、これの解決方法はないかな?」
カイルはファーレンシアの腕の中の獣を指差した。
「精霊獣は世界の番人の領域だ。世界の番人に尋ねればいい」
カイルはものすごく嫌そうな顔をした。
「嫌なのか」
「嫌だ」
「相変わらずだな」
「嫌なものは嫌だ。できるだけ接触は回避したい。何か他に案は?」
「そうだな――」
メレ・エトゥールは思案した。
「以前シルビア嬢が指摘したのは、ウールヴェが思念喰いだということだ。急成長した時のような状況にすれば、いいかもしれないが、あの時のように長期間の意識不明は困る。婚約式に影響が出るのは、本末転倒だ」
「癒すのは、いかがでしょう?」
ファーレンシアは首をかしげて提案する。
「カイル様ならトゥーラを通じて、ディム様のウールヴェを癒せるのではないでしょうか?」
――僕 は 姫 に 癒して もらうのが いい
「まあ」
ウールヴェの可愛いおねだりに、ファーレンシアは顔を綻ばせたが、その瞬間、カイルは己のウールヴェをファーレンシアの腕からやや、乱暴に取り上げた。
「カイル様?」
「シルビア、ファーレンシア、聖堂につきあってくれないかな、癒しを試してみたい」
「はい」
シルビアはカイルに囁いた。
「ウールヴェに嫉妬とは、いささか情けないですよ?」
「ムカつくものは、ムカつくんだ。この点はトゥーラと話し合って、躾ける必要がある」
「ウールヴェとの絆は、どこにいきました?」
「間違いなく絆以前の問題だ」
カイルは真顔で返した。




