(18)協力者⑮
アッシュが気絶したリンカを抱き上げ、リルとサイラスの案内ですぐ近所のリンカの家にむかった。そのあいだ、カイルとシルビアは店の片付けをしているアイリを手伝った。
昔は、このような手伝いを申し出ると、アイリもミナリオも頑なに拒否したが、最近では諦めたらしく、あっさり受け入れるようになった。
その判断基準は人目があるか、ないからしい。
取手が歪み、売物にならなくなった調理器具をアイリは残念そうに眺めた。
「……捨てることになるのなら、安く譲ってもらおうかしら」
シルビアがピクリとその言葉に反応した。
「アイリ、もしかしてここにある調理器具類があれば、さらにレパートリーが増えるとかアレンジが可能になるとか――ですか?」
「え?ええ……まあ……」
「買取りましょう。リルが帰ってきたら交渉します」
シルビアは即、懐から布財布を取り出した。
カイルはシルビアを呆れたように見た。
「ねぇ、シルビア、どうして甘味がからむと、君の性格が変わるのかなあ?」
「糖分の補給は頭脳労働には必要です」
「それ、建前だよね?」
「当然です」
「アイリのお菓子がなかったらどうするの?」
「世の中は絶望の闇に包まれて、私はのたうち回ります」
真顔で答えるから、始末が悪かった。カイルはシルビアを相手にすることを諦め、専属菓子職人率の方が高くなりつつあるアイリを振り返った。
「アイリ、君の作るお菓子には、麻薬成分でもあるの?アイリのお菓子が関わると、シルビアの暴走ぶりがひどいんだけど」
「まあ、カイル様、それは最高級の褒め言葉ですわ。感激です」
「ああ、うん、褒めてるけどね……」
「でも、私の顧客はシルビア様とトゥーラだけですよ?」
「え?なんで、トゥーラまで……」
「知らなかったんですか?」
シルビアがやや非難するような視線をカイルにむけた。
「あの子はいつでもオヤツの時間だけは正確に現れて、食べて去っていきますよ。飼い主の躾が足りないのでは?」
とんてもない意地汚い逸話に、カイルはショックを受けた。
トゥーラは一方では、何も食べてないようなふりをして、カイルからもアイリの菓子を強請っていたのだった。
「騙されたっ!!なんて食い意地が張っているんだっ!!」
「それについては同意しますけどね。そういえば最近きませんね」
「――」
なんかこのパターンは前にもあった、とカイルは思い出した。
しばらく姿を見せないと思ったら、あの時は、勝手にディム・トゥーラのところへ行って、チップを運んできたのだ。
カイルも最近、トゥーラの姿を見かけてないことに、ようやく気づいた。
「最近、婚約式の準備で忙しくて放置してたな……」
「まあ、カイル、案外薄情ですね」
「言わないでよ。呼んでみよう。ちょっと嫌な予感がする」
「トゥーラ?」
名前を呼んでも反応はなかった。
「トゥーラ、ここにおいで!」
風が起こって、いつものように純白の狼に似たウールヴェが颯爽と――現れなかった。
代わりに白いちょっと大きめのボールが現れたように見えた。サイズは子供がよく遊んでいる蹴り玉ぐらいだった。
ぼてっ。
無様に着地した毛玉はそのまま、ころころと転がる。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
カイルは壁まで転がってようやく静止した白い毛玉を、拾いあげた。
子犬のぬいぐるみ――と思ったが、それは生きていた。
「……………………」
カイルはぬいぐるみ生物を顔の高さまで持ち上げ、視線をあわせた。ぬいぐるみ生物は、しょんぼりしていた。
「……………………何が、どうして、どうなったら、そうなるんだ?」
――巻き添え
意味不明の返答をトゥーラはした。




