試されるもの⑧ ~どこかで見た点数~
「よし、早速だが昨日の学力調査を返却する」
翌日、教壇の上に立つなりライラ先生がそんな言葉を言い放つ。ちなみに俺以外は自信満々な顔をしているあたり、最悪の未来しか見えないのが本音だ。
「の前に」
いつも通りタバコに火をつけ始めるライラ先生。いつもと違う所があるとすれば、次の発言までに丸々一本吸い終えた所だろうか。
「……お前らに期待した私が馬鹿だったよ」
タバコを揉み消しながら吐き出した言葉は、試験の結果を如実に表していた。一気に青ざめるクラスメイト達、表情の変わらない俺。そうだよね流石俺達Fランク、華々しい試験結果なんて夢のまた夢というか。
「じゃ、まずは満点の奴から」
「あれ!?」
満点? いるの、この中に? 期待して無かったんですよねどうしてそんな事言えるんですか。
「ディアナ」
「はい!」
嬉しそうに立ち上あるディアナ。そっか上がり症ってだけだもんな、落ち着いた環境ならこんなものか。
「と、ファリン」
「ふふん」
少しだけ口の端を曲げた、得意げな顔をして答案を受け取るファリン。そういえば筆記だけは凄いんだっけこの子。
「と、シバ」
「よしっ!」
拳を高く突き上げながら、シバが大きな声を出す。そっかシバもかぁ。シバも満点かぁ。
「と、エミリーだな」
「当然であるな」
――いやおかしいだろ。
「先生、満点多くないですか?」
思わず聞き返してしまう。ディアナとファリンとシバはまぁわかるとして、エミリーも満点? 嘘でしょ絶対答案にブラックナントカサンダースラッシュとか書いてるでしょ。暗黒何某迅雷斬みたいなのが。
「いいかアルフレッド」
ライラ先生は二本目のタバコに火を付ける。いつもよりペースが早い当たり、相当苛立っているのだろう。
「この試験はな……普通に生きてりゃ満点なんだよ」
あ、はい、最早一般常識ですらない、常識を問う様な試験だったんですね。つまり満点以外は恥と。言い切りますねこの人。
「で、普通に生きてないお前ら三人」
あ、はい、我々ですね。普通に生きていない連中の試験結果はといいますと。
「全員33点か……お前ら本当、期待だけさせて……」
返却される、というか零れ落ちた答案用紙には仲良く33が並んでいた。うーんどこかで見た点数だな、なんて言葉を漏らそうならきっと殺されるに違いない。
「補習は40点以下だからな……ったくこれの補習なんて前代未聞だぞ」
「ごめんなさい……」
ため息をつく先生に平謝りする俺。自分の試験を見直してみると、なんかもう普通に間違えまくっていた。
「ば、馬鹿な……妾の完璧な答案が……」
「イヴ、お前は途中から官能小説になってたぞ。生徒指導室行きだからな」
ちらっとイヴの答案を横目で見れば、ちょうど三分の一は正解で埋まっていた。そこから先は何かもう解答欄を無視した文字列で埋め尽くされている。
「あ、オレ! オレの答えは!」
「エルは単純に字が汚いんだよ……古文書か何かかそれは」
そっちも覗いてみれば、成程確かに字が汚い。もっとちゃんと書けていれば正解があったかもしれないが、これを判別しろというのは酷な話だ。
「俺は」
「お前は普通に馬鹿だ」
「はい」
ごめんなさい。
「うわぁアルくん……一問目から間違えてますね」
「本当だね、まさか子供でも知ってる事を間違えるとは……普通間違えるかい、この一問目」
「ククククッ……我が盟友よ、もっと常識を勉強しろ」
「これはひどい」
いつの間にかやってきたクラスメイト達が、後ろから俺の答案を覗き込みながら勝手な感想をそれぞれ漏らす。間違えてるのは事実なので最早返す言葉はない。
「で、どうするお前ら。満点が四人って事だが……それぞれコイツをこき使うか?」
先生がタバコで俺を指しながらそんな事を言い始める。そういえば俺景品でしたね、四人だから四日も人のいいなりかぁ。
「あー、何か流石に可愛そうな気も……しますね」
俺のバカさ加減に呆れたのか、目線を逸らしながらディアナがそんな事を言い出す。それに頷いて同意する他の三人……今はその優しさが微妙に痛い。
「ところでライラ先生、次のお休みって」
「ああ、馬鹿三人の補習だな」
そう言ってライラ先生とディアナは壁に掛けられたカレンダーに目をやった。
「あ、それなら」
そう言ってディアナは残り三人を集めて、小声で何やら相談を始める。直ぐに全員頷いてから、皆笑顔でこっちを向いた。
「三人とも、補修の後って時間あります?」
「まぁ、多分あるけど……」
「じゃあ次の補習、楽しみにしてくださいねっ!」
次回更新は7月4日(土)の20時となります。




