試されるもの⑥ ~それぞれの戦い方を~
――とか言って勉強に身が入ったら苦労しない。
試験まで残り三日、結局大した勉強もしないまま時が過ぎた。だが恐ろしい事に今日も今日とて自習時間、全員が机に向かっていた。あくびしてるの俺だけですね、怖いわ。
「全く、毎日それぐらい自習してくれれば助かるんだけどな」
頬杖を付きながらタバコの煙を吐き出すライラ先生。この人は本当変わらないなぁ。特に勉強する素振りもない俺を睨んでくるあたり。
「あー……」
凄い睨んでくる。いやでもね、やる気をどうやって保つかというのは学生にとって大事だと思うんですよ。というわけで。
「先生! 他の人の勉強方法参考にしたいので歩き回っても良いですか!?」
「あ、ああ……邪魔はするなよ」
「もちろんです!」
若干気圧される先生を尻目に席を立つ。さて誰から見るかな……まずは近場のディアナから行ってみよう。
「アルくんとデートアルくんとデートアルくんとデート」
なんか唱えてますね、ノート覗き込んでみよう。
十時、校門前で待ち合わせ。絶対制服。十時三十分、学生街へ。文房具屋、本屋、パン屋の順で回る。十二時、公園で買ったパンを二人で食べてそのまま散策。夜は夜景の見えるレストランでディナーとしてそれまでどうしよう? どうしよう!?
ちなみに教科書を盾にして観光情報誌を眺めていた。はい勉強してないですね。
じゃあ次のスジャータ、じゃなくてシバ言ってみよう。うん無言だね。
拝啓愛するスジャータへ。新緑の季節が過ぎ去り、長く暑い季節が巡って来たね。けれど君を想うこの胸の熱さだけは、夏の女神すら恐れおののく事間違いなしさ。そう言えば親友アルフレッドの事なんだが、何と君の魅力を伝える絶好の機会がようやく訪れたんだ! 折りを見ては君の美しさを讃えているが、僕の拙い言葉では君という存在の万分の一も伝えられない事が悩みだったんだ。ああスジャータ、今すぐ君に会いたい! 君の姿をひと目見れば、アルフレッドに時間を取らせる事もないというのに!
うん、俺も会いたくなってきたな色んな意味で。あとやっぱりスジャータだったね。
次はファリンだけど、うん教科書を立てて背筋を伸ばして寝ているね。器用だなぁ。
エミリーは何か自分のキャラに悩んでたね。
「邪神と魔王がクラスにいるとか想定してなかったし……眼帯駄目、一個じゃ足りない? それかもっと小道具的な物を……」
何かを書き込んでいるなと思ったが、なんて事はないただの落書きだ。全身が映る自分の絵に何やら書き足している。包帯増量とか肩に変な宝玉乗せるとか、ティアラがどうとか書いてるけどうん、両目に眼帯はまずいんじゃないかな。危ないよね色んな意味でさ。
イヴあたり見ておこうか。教科書を閉じて腕を組み、うんうんと首を縦に振りながらぶつぶつと呟いていた。
「ダメッ、ダメですよクロード先生……これでも僕は生徒会長なのだから。そう言って抵抗するマリオンの首筋にクロードは小さくキスをした。初々しさの残るその反応に、思わず嗜虐心が埋めいた。ああ、本当に君はダメだねマリオン……生徒会長失格だ」
何呟いてるんだこいつ。というかその情事は色々問題だろう、登場人物が特に。
最後はエルか、エルかぁ。何か無言でノートに書き込んでるんだよな、ちょっとその熱意が怖いっていうか。あ、うんでも教科書を移してるね。重要そうな語句とか年号とかそういうの、凄い一番ちゃんと勉強してるけど……。うん、文字が凄い汚いね。いや汚いというか達筆、なのか? 色々通り越して読めないですね。
つまり総合すると。
ディアナはデートプランを立てていてシバはラブレター書いててファリンは寝ていてエミリーは落書き中、イヴは変な妄想していてエルは字が汚くて読めない。
全員勉強してなかったわ。全く焦って損をしたぜ、したり顔でやれやれと言いたくなるな。それでもそれをグッと堪えて、そのまま自分の席へと戻る。
「何だアルフレッド、もう良いのか?」
「ええ、そうですね」
思わず不敵な笑みが漏れる。どうやら俺がすべき事はもう決まってしまったらしい。
「先生……今回の試験『勝ち』に行っても良いですか?」
「うるせぇ自習してろ」
活動報告でキャラクターラフ公開中!今日は残りの二人とライラ先生です。
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