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『元・食品開発研究員ですが、異世界の食材を「科学」で極上ディナーに変えたら、王国中から美食家が押し寄せてきました』  作者: チョコ大福
第1部(辺境の村編)

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第6話:湿気でベタベタの「高級スパイス」は、「科学(ロジック)」の【絶品シチュー】で旅人の商売を救う

第6話をご覧いただきありがとうございます!

今回は、王都からやってきた行商人・レイヴンが持ち込んだ「湿気でベタベタになり、酸っぱく固まってしまった高級スパイス」がテーマです。

売物にならなくなった絶望の食材を、エドワードが「香気成分の解放」と「水分活性・乳化のコントロール」という食品科学の理論を使って、極上のスパイシー・シチューへと鮮やかに蘇らせます。

村の外へと広がる新たな出会いと、美味しい奇跡のドラマをどうぞお楽しみください!

それでは第6話、どうぞ。

「頼む、エドワード殿……! このままではわしの商売はおしまいだ……!」

ある日の昼下がり、辺境の村には似つかわしくない、仕立ての良いコートをまとった男が、青ざめた顔でエドワードの調理場に駆け込んできた。

彼の名はレイヴン。王都から馬車を走らせてやってきた行商人だった。

レイヴンが差し出した木箱の中には、かつては王都の貴族たちに高値で取引されていたという「高級スパイスのブレンド」が入っていた。しかし、長旅の途中で馬車が雨に見舞われ、湿気を吸ってしまったらしく、サラサラだったはずの粉末はドロドロに溶け、乾燥してカチカチの岩の塊に変貌していた。

「見てくれ、このざまだ……! 湿気を吸って固まっただけならまだしも、嫌な酸っぱい臭いがして、とても売り物にならん。この仕入れのために全財産をはたいたというのに……」

レイヴンは頭を抱え、その場に崩れ落ちそうになった。

遠野から噂を聞きつけてやってきたというガルドやバルトも、岩のように固まったスパイスを覗き込み、「こりゃあもうダメだな」「石ころみたいだぜ」と顔をしかめる。

だが、エドワードは落ち着いた手つきで眼鏡を押し上げると、固まったスパイスの塊を少しだけ削り取り、香りを確かめた。

「……なるほど。確かに湿気によってデンプン質が糊化(α化)し、さらに一部で望ましくない発酵や酸化が進んでいますね。ですが、レイヴンさん。諦めるのはまだ早いです」

エドワードは穏やかに微笑み、きっぱりと言い放った。

「水分と温度、そして香気成分の性質をコントロールすれば、このアクシデントを逆に利用して、村人たちも驚く『絶品スパイシー・シチュー』に生まれ変わらせて見せましょう」

① 吸湿と結晶化、そして「香気成分の解放」

エドワードはまず、カチカチに固まったスパイスの塊をすり鉢に入れ、適量の温水と上質なオイルを加えて丁寧にすり潰し始めた。

「スパイスの多くは、油に溶けやすい『脂溶性』の香気成分を持っています。湿気を吸って固まったからといって、香りが死んだわけではありません。水分によって閉じ込められてしまった香りを、油脂の力で引き剥がし、再び表面に解放してやるのです」

エドワードの巧みな手つきによって、ドロドロだった塊はみるみるうちに滑らかなペースト状へと変わっていく。

調理場には、閉じ込められていたスパイスの複雑でスパイシーな芳香が、ふわりと立ち込めた。

「お、おい……さっきまでの酸っぱい臭いが消えて、すげえ良い匂いがしてきたぞ……!」

ガルドが思わず鼻をひくつかせ、レイヴンも「信じられない……!」と目を見開く。

② 水分活性のコントロールと煮込みの理論

次にエドワードは、村で手に入った旨味の強い肉の端肉と、先ほどの冬の根菜を鍋に放り込み、先ほどのスパイスペーストをたっぷりと投入した。

「食品の保存や調理において重要なのは『水分活性』のコントロールです。今回は保存食ではなく、その場で最高の状態を味わうための料理。スパイスに含まれる辛味と香りを、じっくりとスープ全体に行き渡らせ、肉の臭みを完全にマスキングしつつ、旨味を何倍にも跳ね上がらせます」

鍋がコトコトと軽快な音を立てて煮詰まっていく。

スパイスの黄金色の油膜がスープの表面を覆い、水分が絶妙なバランスで乳化していくことで、ただのスープが極上の濃厚ソースのような輝きを帯びてきた。

「お待たせいたしました。『王都の特製スパイス香る、極上の旨辛シチュー』の完成です」

③ 絶望から至福への大逆転

エドワードが深く温かみのある木製の器に、具だくさんのシチューをたっぷりとよそい、レイヴンと村人たちの前に差し出した。

レイヴンは恐る恐るスプーンを手に取り、黄金色のスープを口に運んだ。

「…………っ!? なんだ、この奥行きのある味は……っ!!」

レイヴンは目を見開き、ガタガタと震え出した。

湿気でダメになったはずのスパイスが、エドワードの科学的アプローチによって嫌な雑味が完全に消え去り、ピリッとした心地よい刺激と、野菜や肉の旨味を引き立てる最高の「香りの爆弾」へと進化していたのだ。

「うまい……! 失敗したゴミだと思っていたこれが、王都の高級レストランで出されるどんなスープよりも美味い……!」

レイヴンは夢中でスプーンを動かし、あっという間に器を空にしてしまった。

ガルドたち村の男たちも、スパイシーな香りに額に汗をにじませながら、「うめえ! 体の芯から熱くなってきやがる!」「最高だぜ!」と歓声をあげている。

レイヴンは、感動のあまり涙を浮かべながらエドワードの手を強く握りしめた。

「エドワード殿……! わしを救ってくれて本当にありがとう! これだけの料理に生まれ変わるなら、このスパイスは失敗作どころか、我が商会の『最高傑作の特製ペースト』として、むしろ高く売れるぞ……!」

「ふふ、お役に立てて何よりです。素材や状態がどうあれ、正しい理論セオリーさえ踏まえれば、どんな食材も必ず最高の表情を見せてくれますからね」

エドワードは爽やかに微笑み、眼鏡を光らせた。

遠方からの旅人をも巻き込み、日用品や調味料のトラブルすらも極上のご馳走に変えてしまうエドワードの食品科学。

辺境の小さな調理場から広がる美味しい奇跡の波は、いよいよ村の外へと確実にその名を轟かせはじめていた。

第6話をお読みいただきありがとうございました!

今回の科学のポイントは、

水分によって閉じ込められてしまった「脂溶性の香気成分」を、油脂の力で再び引き剥がして解放する

適切なペースト化と煮込みにより、嫌な酸味や雑味を消し去りつつ、香りをスープ全体に行き渡らせる

オイルと水分のバランスを整え、シチューとしての「乳化」と旨味を最大限に引き出す

というフードサイエンスの技法でした。

商売道具を失いかけて絶望していた旅人が、エドワードの理論によって救われ、むしろ新しい価値を見出す展開となりましたがいかがでしたでしょうか?

村の中だけでなく、外からの客をも魅了していくエドワードの料理革命、次回はついに甘いおやつ(デザート)が登場します!次回もぜひご期待ください!

「おもしろかった」「お腹が空いた」と思っていただけましたら、ぜひ【ブックマーク登録】や【評価(☆☆☆☆☆)】で応援をよろしくお願いいたします!

それでは、また次話でお会いしましょう!

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