↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【第4章連載中】『元・食品開発研究員ですが、異世界の食材を「科学」で極上ディナーに変えたら、王国中から美食家が押し寄せてきました』  作者: チョコ大福
第4章:海洋都市トライデント・魚介編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
59/62

第59話:「硬くて開かない深海の貝類は、『熱ショックとコハク酸の科学』で【濃厚貝のワイン蒸し風】に変わる」

登場人物紹介

エドワード:主人公。元・大手食品メーカーの食品開発研究員。気品ある紳士的な物腰で、科学ロジックを駆使して食材のポテンシャルを解放する。

レイラ:エドワードの相棒となった商人見習いの少女。勝気な性格(「~よ・~わ」口調)。流通の視野を持ちつつ、最高の食レポで読者のヨダレを誘う。

フィリア:おっとりとしたエルフの薬学少女。三人旅のレギュラーとして科学と薬膳の知識で調理をサポートする常識人。

オルト:海に生きる翠海人(すいかいじん)の長であり、ベテランの魚介専門料理人。エドワードのロジックに感服し、新しい技を貪欲に学ぼうとしている。

前書き

第59話をご覧いただきありがとうございます!

海洋都市トライデント編、第5弾です。今回は、市場で「調理が面倒すぎる」と敬遠されがちな、鉄壁の殻を持つ深海貝がテーマ。

こじ開けようとすれば身が砕け、無理やり火を通せばゴムのように硬くなるこの難敵。エドワードは、筋肉を瞬時に弛緩させる「熱ショック」と、旨味を最大限に引き出す「コハク酸」の化学反応で、この難題に挑みます。

伝統的な力技の調理法を、科学のロジックがどう覆すのか。どうぞお楽しみください!

それでは第59話、どうぞ。

「くそっ、また殻が割れた! これじゃ身まで粉々だぞ!」

トライデントの調理場。翠海人の料理人オルトが、真っ赤な顔をして、重いナイフで深海貝の殻をこじ開けようと奮闘していた。しかし、その貝の殻はまるで鋼鉄のように硬く、少し力を入れれば中の身まで傷つけてしまう。

「深海の貝は圧力が高い環境で育つから、殻の閉じる力も半端じゃないんだ。開こうとすれば力技になるし、無理やり熱を通せば今度は貝柱のタンパク質が急激に収縮してゴムみたいになる。……この貝を扱うのは、トライデントの料理人にとっても長年の悩みなんだよ」

オルトの苦悩に、エドワードは眼鏡をクイと押し上げ、静かに歩み寄った。

「オルトさん。力ずくで開く必要はありません。筋肉の性質を理解すれば、貝は自ら『降参』して口を開いてくれますよ」

「はぁ? 貝が降参だと?」

「ええ。**『熱ショック』**のロジックです」

① 科学ロジックの導入と調理の開始

エドワードは熱々に熱したフライパンに、貝を一度に投入した。

「貝柱の筋肉は、急激な温度変化に対して反射的に弛緩する性質があります。これを『熱ショック』として利用し、同時にワインと少量の果実酒を注ぎ込んで蓋をします。アルコールの揮発によって香気が一気に拡散し、同時に貝の中に含まれる旨味成分――コハク酸とグルタミン酸を、蒸気と共に身の奥まで循環させるのです」

「なるほど、蒸気圧で強制的に殻を開かせるんじゃなくて、筋肉を緩ませて開かせるのね!」とレイラがポンと手を叩く。

フィリアも手際よく香草を準備する。

「貝から出るコハク酸は、加熱によってさらに旨味が増します。アルコールの香りと混ざり合えば、臭みも消えて極上のソースになりますわ」

② 五感と化学変化の実況(圧倒的アロマの解放)

ジュッ、と勢いよく立ち昇る蒸気。フライパンの中では、先ほどまで固く閉ざされていた貝たちが、次々とパカりと口を開いていく。

鍋の中からは、白ワインの芳醇な酸味と、磯の香りが混ざり合った、かつてないほど濃厚で食欲をそそるアロマが広がった。

オルトはナイフを放り出し、その様子を食い入るように見つめる。

「……信じられん。ナイフ一つ使わずに、全部開いたぞ……」

③ 絶品!【濃厚貝のワイン蒸し風】の完成

――【濃厚貝のワイン蒸し風】の完成である。

オルトが恐る恐る一つを皿に取り、身を口に運ぶ。その身は一切の収縮を感じさせず、驚くほどふっくらとしていた。噛むごとに、濃厚な出汁がジュワリと広がり、舌の上で溶けるようにほどけていく。

ゴムのような硬さは微塵もなく、まるで極上のクリームのようにとろける身。ソースとして残った出汁には、コハク酸が最大限に引き出された深いコクと、バターの香りが溶け合っていた。

「……旨い。今まで力任せに開いていたのが、嘘みたいだ。旨味が……汁の一滴まで、全部ここに凝縮されている。身が硬くならずに、こんなに柔らかく仕上がるなんて……!」

オルトは目を見開き、感嘆の声を漏らした。

④ 価値観の崩壊と、オルトの感動

レイラが嬉しそうに笑う。

「これなら、下処理に時間がかからないから、一皿を早く提供できるわ! 商売としても大成功ね、オルトさん!」

オルトは深く頷き、エドワードにグラスを差し出した。

「あんたのロジックには脱帽だよ。力技だけが料理じゃないってこと、ようやく身に染みてわかった気がするよ」

海洋都市の夕暮れ、エドワードたちの科学が、また一つ市場の常識を覆した。

後書き

第59話をお読みいただきありがとうございました!

今回は「熱ショック」で貝の筋肉を弛緩させ、「コハク酸」で旨味を最大化する調理法でした。

長年苦労していたオルトも、これでまた一つ、エドワードの技術に心を開いてくれたようです。

次回の第60話では、脂が強すぎてすぐに劣化してしまう青魚を、「塩締めと酢によるタンパク質変性」で美味しく食べる【海の香草マリネ】に挑みます。

それでは、次回の話もお楽しみください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。