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偽りの私と二番目の君は、真実の恋をする。  作者: 福与詩檻


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1話 婚約破棄

 私は今日ジューン・ブライド第二王子に婚約を破棄される。以前から遠回しに彼を慕う女性達から私の婚約についての話を聞くことがあった。細かな日程を言われたのは一昨日で衝撃的な出来事ではない。


「そろそろ時間かな。でも、もう少しだけここにいたい」


 窓の外を見て私は涙が出そうになる。遠くに見える廃屋で彼と私は出会った。彼はオリタビア王国の第二王子で当時は非常に真面目な方だった。私のような庶民にも優しく接してくれて頭を下げてくれたのを覚えている。身寄りのない子供の為に王国が運営していた学校を庶民にも認めさせるよう働きかけた。度々私と話をしてくれた彼の優しい表情を今も思い出す。


 昔の光景を頭に浮かべようと目を閉じていると扉が開く音がした。暗い表情の女性が部屋に入ってくる。以前彼女は彼と何か話をしていたが内容までは覚えていない。


「今行きます」


「……サクラギ・クラゲさん。大丈夫なんですか?」


「大丈夫ですよ」


 全身が重く感じて歩く度に吐き気がしてくる。手が真っ白になって頭も痛くなってきた。


「休みますか?」


「大丈夫です。行きましょう」


 食事をほとんど取っていないことも原因かもしれない。更に最近寝不足なのも体調に影響を与えている。初めて話す彼女に心配をかけてしまったようだ。


 扉を開けるとパーティーが開かれていた。大勢が談笑している前で私が精一杯前に進むが誰も気にする様子はない。彼の周囲には多くの女性がいて私を見る人もいたがあからさまな態度に出すことはなかった。


「サクラギ・クラゲか。待っていた」


 王国中の女性から慕われるほどの容姿を持つ銀髪の王子は冷たい目をしている。出会った当初の笑みなど消え去っていた。


「婚約を破棄する」


 僅か六歳の子供だった私は彼に救われた。尊敬していた彼の為にも優秀な成績で学校を卒業して、正式に婚約が発表される時も喜んでくれていたのを今も思い出す。


「わかりました」


 元々決まっていた話を淡々と私を含め周囲の人間に伝えているだけだった。少し大人に成長した彼は六歳当時のような優しさは感じられない。日本での生まれ育った記憶のある私からした彼は年下だったが、随分としっかりしている印象だった。


「言い残したことがあるなら聞くが」


「いいえ。ないです」


 彼の隣に立つマリン・ガーネットは興味がなさそうに自分の爪を見ている。ブライド家と関わりが深い彼女のほうが相応しいとフェイブ・ブライド国王が決めたと聞く。元々王子が勝手に決めた婚約を国王が望んで破棄するのを決定させた。


「マリン・ガーネットを正式に婚約者にする」


 強気に振る舞っていたが心の内側は複雑な感情で上手に表すことはできない。


「そうですか」


 十二歳で私と婚約した彼は他の女性と度々抱き合うようになった。まるで私に見せつけるような態度の変化に当初は困惑していたが、飢えに苦しんでいた私を救ってくれた彼の恩義から黙ることにしていた。いつかは私へ向けられる愛情だと信じて今日まで生きてきたが、十六歳になっても変わらず彼は私以外の女性と仲良くしていた。

 

 この場から立ち去りたいと思って拳を握ると足音が聞こえてくる。振り向くと国の英雄エイプリル・フールがやってきた。セテロレビ帝国との戦いで多くの味方を犠牲にして英雄となったが、強力な力を持つ彼を国は持て余していると聞く。


「必要ないなら私がもらおう。私は彼女を愛してる」


 その低く落ち着いた声を聞き、一瞬だけ明らかに戸惑った様子を見せたが王子は頷く。


「ああ……そうだな。よろしく頼む」


 整った顔の彼は黒髪を揺らして鋭い目つきで近づいてくる。長身の彼はいるだけで全員が圧倒されて王子さえも言葉に気をつけているように思える。数々の戦いで王国に貢献した彼の話は恐ろしく、女子供を残虐に殺したことや死体の山で敵の頭から出る血を飲んだ話などばかりだ。他にも剣を振り下ろしただけで山が割れた話などもある。


「困ります」


 英雄と呼ばれる彼と向き合って困惑する。こんなにも直接的に愛を伝えられたのは初めてだった。


「愛しているんだ。君のことを」


 話で聞くような恐ろしさはなく、優しく微笑む彼が私の顔を覗き込む。それまで冷静さを保っていた彼の顔が変わり、怒りや悲しみが混ざったような焦りが見えた。


「顔が真っ青だ。体調悪いのか?」


「大丈夫ですよ」


 彼は少し倒れそうになる私の手を取る。


「休んだほうがいい。私は君の力になりたいんだ」


 不意に王子を見たが彼は無表情だった。


「……はい。そうですよね」


 六歳で王子と出会いって七歳で王国の支援で学校に入った私は貴族達の嫉妬も気にならなかった。入学時に王子が言ってくれた『十二歳になった時に私から迎えに行く』という言葉を胸に努力を続けてきた。そうして十二歳で私達は婚約を発表して想いが通じ合ったと感じていた矢先に彼は私の前で堂々と他の女性とキスをする。その行為を問いただすこともできたが許してしまった。あの頃に指摘していたら関係は変わったのだろうか。


「愛している人に無理はさせたくないんだ」


「はい……もう疲れました。何もしたくありません」


「さあ、行こうか」


 私を抱き寄せる彼の腕の中で目を閉じる。自然と良い匂いがして落ち着く。久しぶりに感じる彼の優しい言葉に心が揺さぶられる。


 目を覚ますと見知らぬ土地にいた。大きな部屋には彼以外見当たらない。


「よく眠れたか?」


「はい」


 ベッドの上で起き上がって背伸びをする。


「元気そうで良かったよ」


「ありがとうございます。あの……私はどうなるのでしょうか。今まで王国の支援で私は貴族と同等の生活を送ってこれました。学校を卒業してから私は国の為にすべてを捧げるつもりで生きてきたのです」


「安心して暮らせるようにしよう。大丈夫だ。任せてくれ」


「それなら私にも手伝わせてください」


「もっと元気になったらね」


「元気ですよ」


 彼が手を伸ばす。


「お腹空いてる?」


「ええ、まあ」


 その手を取ってベッドから離れると豪華な個室へと連れていかれる。テーブルに並べられているのは様々な料理で私は困惑しながら椅子に座った。心地良い音楽と椅子から伝わる温かさに癒やされる。最近体が冷えていたのが嘘のように思えてしまう。


「これは王国では手に入れるのが難しい果実を使ったジュースだ。少しの酸味にとろけるような甘さが舌の上で弾けるぞ」


 喉を通っていく果実特有の甘さが全身を巡っていく。


「美味しいですね。あまり食事も取っていませんでしたから……本当に美味しい……」


 私の顔を見て笑顔になる彼とテーブルに並べられている料理を食べていく。優しい味付けのスープに入っている魚は貴重で扱いが難しいものだった。王子と一緒に食事をした時の私はこんな美味しい料理を食べたことがない。


「鮮やかな色をしたゼリーは野菜や肉と魚を固めたものですね。とても……美味しくて私……」


 頬を伝う涙を隠せずに私はうつむくしかない。


「どうして私にこんなことをしてくれるのですか?」


「愛してる。それだけじゃ足りない?」


 静かな空間で自分の心臓の鼓動だけが聞こえる。顔が少し熱くなってきた。部屋が暖かいのかと思い彼を見るも平然としていた。

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