2.お嬢様の秘密②【メリィ】
メルダ先輩とお話をしていると、いつの間にかメイス様のお部屋の前に到着していました。
扉の前にはこの日メイス様の身の回りのお世話担当になったメイドの先輩方4人が立っていました。
みなさんの表情がいつもより強ばって見えるのは私の見間違えでしょうか? それに何度も何度も服装を確認しています。
それにつられて私も緊張してきました。胸の鼓動が速く、大きくなっています。もうバックンバクンです。初めてこのお屋敷に入った日以来かもしれません。
私とメルダ先輩がメイス様のお部屋の前に到着したタイミングで、4人のメイドが手を打ちながら廊下の奥から現れました。
赤毛のメイドを真ん中にし、彼女に従うように3人のメイドがついてきます。彼女たちの胸元には花びらを象った銀色のバッジを身につけています。
それは自分が専属であることの証です。かっこいいなあ。
専属とはメイドの役職のようなもので、私たちのように担当をローテーションせず【ブラインドムーン家】のどなたか1人のお側にずっと控えるのが仕事です。
身の回りのお世話担当になったメイドは、その方の専属を務めているメイドの指揮下で雑用をするのです。
ちなみに専属メイドが就くのは女性の方、このお屋敷ではアメリア様とメイス様のみで、男性の方にはそれぞれの仕事の補佐役を兼ねて従事する執事が数名就いています。
メイス様専属メイドを率いていた赤毛のメイド、エイラ先輩が扉の前に立つと私たちは彼女と向かい合うように横一列に並びます。
エイラ先輩は私たちを見渡すと軽く頭を下げ、私たちも返すように頭を下げます。
「みなさんお揃いですね。では仕事を始める前にもう一度身なりの確認を。髪に寝癖はついていませんか? 顔はちゃんと洗いましたか? お化粧は派手すぎませんか? 服に埃や糸くずはありませんか?」
私たちはエイラ先輩に言われた箇所を二人一組でお互いに目視します。私もメルダ先輩と向かい合い、お互いに身なりをチェックします。
メルダ先輩は汚れひとつない、バッチリなお姿でした。さすがです!
「メリィ、肩に糸くずが着いてますよ」
「ふぎゅう……」
一通りの確認を終えたあと、私たちは再び専属メイドの方々へ向き直り、背筋を伸ばします。
「よろしいですね。では本日も一層気を引き締めて参りましょう」
『はい』
返事をする先輩方の声が少しだけ上ずったような気がしました。
……ごめんなさい。私も上ずってました。
エイラ先輩は扉の方へ踵を返すと大きな深呼吸をひとつし、扉を3回ノックします。
「お嬢様、エイラでございます。入ってもよろしいでしょうか?」
『はい、どうぞ』
ノックから一拍おいて、扉の向こうから鈴の鳴るようなきれいな声で返答がありました。
その返答を受けて、エイラ先輩はドアノブを回します。そして、専属メイドの方々を筆頭に私たちも部屋に入り、整列します。
メイス様は天蓋のついたベッドの上に腰掛け、スッと背筋を伸ばして私たちと向かい合っていました。純白のルームウェアを身にまとったメイス様は、まるでお伽噺に出てくるようなお姫様のようでした。素敵です。
「メイスお嬢様、おはようございます」
「「おはようございます」」
私たちはメイス様に深々と頭を下げ、朝の挨拶をします。
「ごきげんよう」
まだ朝早いというのに、メイス様は柔らかな口調で私たちに返事をお返しになります。さすがはメイス様。
もし領お屋敷にお仕えする前の私だったら寝ぼけまなこで不機嫌に返していたでしょう。心の持ちようが違いますね。
「早速ですが、お召し替えを手伝わせていただきます」
「はい。よろしくお願いしますね」
メイス様がベッドから腰を上げると、メイス様専属メイドの方々を中心にお着替えが始まりました。
ルームウェアを脱がれると、そこにはお下着姿のメイス様が!
一切シミのない純白のお肌。
上質なシルクのように滑らかなブロンド色の髪。
そして細身でありながらお胸とお尻が存在感を主張されていて。
これは同性の私でも気持ちが昂ぶって……はあ、はあ。
「メリィ、ヨダレが出てますよ」
おっと失礼。
メイス様は淡い水色を基調としたドレスへお召し替えを進めていきます。
同時進行でお化粧をしたり、髪を梳かしたりと、慌ただしく、それでいてテキパキと朝の支度を進めていきます。
私もメルダ先輩と一緒にベッドメイキングをします。洗濯するシーツを畳むときにフローラルないい香りがしました。きっといい入浴剤を使っているのでしょう。
いや、自分から嗅ごうとしたのではなく、これは不可抗力でして!
「――ご昼食のあとはグランエット卿婦人によるダンスの稽古、3時からはヘンメル卿・ユライスト卿のご令嬢方をお迎えしてのお茶会となっております。5時からは……」
お召し替えと同時に、エイラ先輩が手帳を開いてメイス様の今日一日の予定を読み上げていました。
聞いているだけでご多忙だということがわかります。
正直貴族の方々は毎日のんびりと過ごせていいなあ、なんて思っていましたが、お屋敷で働く中でそれが誤解だということがよくわかりました。ごめんなさい。
「――以上が本日のご予定です」
「わかりました」
「なにかご不明なことはございませんでしたか?」
「いいえ。いつもながら簡潔で明快、完璧な説明。お見事の一言に尽きます」
「お褒めのお言葉、身に余る誉れにございます」
メイス様にお褒めの言葉をいただき、エイラ先輩は感謝の言葉を口にして頭を下げます。
チラッと見えたエイラ先輩の表情はプレッシャーから解放されて少しだけ安堵していたように見えました。
そうこうしているうちに、メイス様の身支度がすべて終わり、私たちメイドはメイス様の後ろに横二列で並びます。
「では参りましょうか」
『はい』
メイス様の一言を合図に私たちは返事をして深々と頭を下げます。
メイス様専属メイドの一人が部屋の扉を開けると、メイス様は涼やかな佇まいでお部屋を出られます。そして私たちもメイス様の後を付いていきます。




