0.私のお仕え先
はじめまして。私の名前はメリィです。
神聖暦2087年5月21日生まれで、今年18になります。
好きなものは野ウサギのミートパイ。あのジューシーな肉汁とサックサクの歯ごたえが堪りません! あ、生きてるウサギも大好きですよ。かわいいから。
嫌いなものは生のトマト。あの酸っぱい感じと、中から出てくるドロっとしたのがどうも苦手で……。でも、残すとお母さんの怖いお仕置きが待ってるので、頑張って食べます。
趣味は部屋に飾っている花たちを育てること。日々大きくなっているのを実感したとき、ちょっぴり幸せになります。
チャームポイントは栗色の長い髪と、左目の下にあるほくろ。特に髪は毎晩欠かさず時間をかけて手入れをしています。そのせいで大体寝不足気味。
スリーサイズは確か上からきゅうじ……
え、私のことはもういい?
ちょ、そんなつれないこと言わないでくださいよ!
みなさんに私のことをもっと知ってほしいんですから!
わ、わかりました!
あともう少しだけ、これまでの経緯だけ話させてください! 本当に簡単に終わらせますから! 長くなりませんからお願いします!
ゴホン。
私はとある農家の長女として生まれました。
上に兄さんが1人、下に弟と妹が1人づつ。合わせて6人家族。
私の家は農家と言ってもとっても広い畑を持つ裕福な家です。おかげで、家族がたくさんいても食べることに不自由しない、平凡で幸せな子ども時代を過ごしました。お父さんとお母さんに感謝です!
私が16の誕生日を迎えた日の夜。
簡単なお祝いをし終えた後に、お父さんからあることを言われました。
「メリィ、お前は来月から領主様の館で給仕見習いとして仕えることになった。心して働きなさい」
別段驚きましませんでした。
領民の娘が領主の館に給仕見習いとして雇われることは特別なことではありませんから。前々からお母さんにそれとなく話も聞いていましたし。
それに館仕えは領民にとっていいことばかりです。
一生懸命働けば、見習いであってもそれに似合ったお給料を頂けます。仕事をしながらいろんなことを勉強することもできます。
もし働きぶりを館の方々に認められれば正式な給仕としてより高待遇でずっと雇ってもらえますし、館から離れても大きな農家や商家などに高給で雇われることもあります。
嫁ぎ先にも苦労しませんし、運が良ければ貴族様に目をかけていただくことも……。うふふ。
出発前日、家族だけでなく村の人達総出でお祝いをしてくれました。館に召し仕えるということはそれだけ名誉なことなのだそうです。
次の日の朝、最低限の荷物だけを手にしてお迎えの馬車に乗り、館に向かいます。一給仕見習いのためにここまでしてくれるとは、なんと太っ腹な領主様なのでしょうか。
家族のみんなが私に手を振って見送ってくれた姿を見て、少しだけ涙が出ました。別に一生の別れになるわけではないけど。
私の仕える主様方は【ブラインドムーン辺境伯家】の方々。
【ブラインドムーン家】は【ルアティアーズ帝国】の南側に大きな領土を持っている貴族様です。その領土の中に私の実家もあるということですね。
ご当主様はアガルンド・ブラインドムーン様。
身長は190センチ以上もあります。白い髪をオールバックにした口元の髭がかっこいいダンディなおじさまです。
あ、誤解ないように言っておきますが、実際の当主様は太っ腹ではなく、とってもスマートですよ。背筋もびしっとしてて、とても71歳を超えているとは思えない。お父さんにも見習ってほしいものです。
奥様はアメリア・ブラインドムーン様。
ブロンド色の髪が素敵な、小柄な女性です。
今年で60歳を迎えるそうなのですが、見た目は40代そのもの。歳下のお母さんより若く見えてしまうのが不思議ですね。
その上、物腰が柔らかく、いつもニコニコされています。私みたいな下っ端メイド(この館では給仕のことを『メイド』と呼ぶようなぜか当主様からきつく言われています)にも優しい口調でお話されるほど。なんとも恐れ多いです。
絶対口には出しませんが、第二のお母さんと思っています。
当主様と奥様の間には2名のご子息と3名のお嬢様がいらっしゃいます。
長男で【ブラインドムーン家】の次期ご当主様であらせられるアレル様。今年で35歳になられます。
当主様を若くして髪を黒くしたようなお姿で、その風格はご当主様に負けず劣らずといった感じ。
いつも寡黙で、一見気難しいそうに見えますが、実はお優しい方で、私たちメイドにも気を使って頂けます。
『アレル様に見初められたい』と密かに思っているメイドも少なくないとか。
アレル様と6つほど離れた次男のレイス様は、お兄様と違い、気さくで明るいお方です。どちらかといえば、奥様に似ておられるのかもしれませんね。
幼い頃から剣術に優れておられ、現在は帝国中央で近衛騎士団に所属されています。
ちなみに、メイドの中ではご当主様派とアレル様派、レイス様派があります。特に対立してるわけではないですが、たまに控室でどなたが一番素敵なのかを言い争っている姿を見かけます。
え? 私ですか? そこは乙女の秘密ということで。
アレル様とレイス様の間に長女のクリス様がいらっしゃいます。
高身長でスマートな体型をされていて、切れ長な目が素敵なお方です。
レイス様と同様に剣術を嗜まれていて、その腕を見込まれて2年前まで皇女様付きの騎士様をされていたそうですが、現在は帝国の東側に領土を持つ【アサムート公爵家】に嫁がれています。
三女のユリス様は今年で16歳になられます。
クリス様が『綺麗』というなら、ユリス様は『かわいい』といった感じ。
身長150センチという小柄な身体に、小動物を連想させる幼気な容姿。その愛嬌のあるお姿は私たちメイド全員の心を射止めてしまいます。
クリス様は幼い頃から芸術に目覚められ、特に音楽の才能は帝国内外でも名が知られているのだとか。
1年前に館を離れ、帝都にある【アルア芸術学院】に特等生として入学され、その腕を磨かれています。
そのせいで中々お顔を拝見できないのがすこし淋しいです。
そして、次女のお嬢様のお名前がメイス様です。
お歳は私と同い年の18歳。しかし、そうとは思えないほど大人びたお嬢様です。奥様譲りのブロンド色の髪に愛嬌の良さ、ご当主様譲りの品格。まさにお二人のいいとこ取りといった存在。同性の私でもつい見惚れてしまうほどです。
奥様のように物腰が柔らかく、私たちにも優しく接してくださいます。
博識な一面もあり、メイス様直々に私たちメイドに礼儀作法や読み書き・算術などの教育をされることもあります。その教え方もお上手で、勉強が苦手だった悪い私でもスッと理解できるほどです。
なので、私たちメイドにとってメイス様はお仕えする主様であり、いろんなことを教えてくれる先生でもあります。
こんな感じで私がお仕えする【ブラインドムーン家】の方々はみなさんいい人ばかりです。
お仕えし始めてから2年ほど経ちますが、本当によかったと心の底から思っています!
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ただ【ブラインドムーン家】には少しだけ、いや本当に些細なことなのですが、決して外に言うことのできない秘密がありまして……。
この話はまた今度に。




