そばぼうろ・1
どこに行っても「カメラさん」と呼ばれるカメラマンの僕。
僕には秘密の(でもないけど)専属モデル(68)がいる。
日常の中の深いところ。おやつのお供にどうぞ。
カメラを買ってあげると言うと、彼女は振り返った。
歳を重ねた少女?だろうか。どきっとさせられるものがある。
しかし彼女はもう七十に近くて、束ねられた白い髪や首の皮膚に見る皺にはそれだけの歳を重ねた年月が見受けられる。
それにも関わらず彼女はまだ裏若い娘のような、はかなげな少女の佇まいをその身に宿していた。
老婆なんて言葉は、彼女には全くの異物だった。
「ほら、咲子さん、スマホ持ちはじめて写真撮るようになったから。どうせならいいものが撮れた方がいいかな、って。」
咲子さんは、古いオーク材の食器棚を閉じて、いいもの……いいもの……と逡巡している。
アンティークの振り子時計がぼーんぼーんと三時を告げる。
丁寧に選ばれ磨かれした部屋は、雑貨ひとつ取っても咲子さんらしさが滲み出ていた。
どこをとっても絵になる部屋の主たる咲子さんは、首を捻りながら考えているようだった。
「いいものねぇ……ねぇ、それってどんな写真かしら」
僕は最新のカメラの話をした。画素数の定義や撮像板への技術の向上。
レンズ交換式の一眼レフもいいけど、やっぱり咲子さん、軽い方がいいだろうからミラーレスなんてどうかな?
そんな内容だった。
僕から尋ねておきながら彼女はどこか上の空で、相づちも心持ち軽すぎる。
何の気なしに提案したものの写真好きを増やしたい欲目が混ざってしまったのかもしれない。
自分の想いを言葉にするのは得意な方じゃない。
僕はもう一度、どうかな?と投げかけた。
「ありがとう、俊ちゃん。でもね、私、いいものってどんな写真だか、どんな風に切り取るものなのか、まだ知らないのよ」
御歳六十八の「まだ」という言葉のひっかかりも、彼女の中の少女が中和していた。少し考えるわ、と彼女は締めくくった。




