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10話 聖女、国王陛下と謁見する

 謁見の間で、アステリア王レオリオ陛下は玉座に座り、キース王子と私を待ち受けていた。

 私たちは頭を垂れて跪く。

 緊張の一瞬。

「表をあげよ。キース、そして聖女アルナ」

 私は震えながら顔を上げた。

 精悍な面立ちの壮年の男性がそこにいた。

 王冠を被り、ゴージャスな刺繍の施された優雅なローブをまとっている。

 彼がレオリオ陛下……。


「わが息子キースよ。変わりないか」

「ええ、お父様。お陰様で加減は良くなり……儀式にも無事復帰できました。アルナのおかげです」

「聖女アルナ。礼を云うぞ。神官や巫女のお告げはたしかなものだったようだ。我が国の結界は長きにわたり王族が守ってきた。キースは三兄弟の中で最も優れた護国の結界の術を使う。

 彼を今後も助けてあげて欲しい。もちろん、その上二人が魔の息吹を溜めた場合は、彼らも」

「お父様!」

 キース王子が高い声をあげた。

「アルナを僕専属にしてよ。僕が一番彼女を欲しているんだから……兄様達にまで魔力供給を行う必要はない。あの二人は結界術を使った後も元気じゃないか」

 レオリオ陛下は額を抑えてため息をついた。

「また嫉妬か。アルナ殿、すまん。末息子は独占欲が強くてな。気に入ったものを独占して手放そうとしないのだ……あの、ぬいぐるみのチャーリーのようにな」

「チャーリーは、お父様が何度も厳しく云うから今日は部屋に待たせてきたんだよ」

 腕を組んで顔を背けて不機嫌そうなキース王子。

「僕はそんなに独占欲が強いってわけじゃない、正当な権利を主張しているだけだ。当面アルナは僕専属で魔力供給をしてもらう。僕の体調は万全とはいいがたいし。

 もしお兄様達が必要になったらその時にまた考えればいいでしょう」

「良い良い……確かにエドワードとジェシーに今すぐ魔力供給は必要ないようだ。魔の息吹の影響をそこまで受けていないからな。

 しかしキース、あまりわがままを言わないようにな。

 聖女アルナ。どうか我が息子――ひいては我が国アステリアを頼む。

 日々強くなる魔の息吹の対抗の切り札は、そなたしかおらぬのだ。護国の結界術の成功はそなたの力にかかっている。

 処女神リーンに選ばれし聖女よ。

 我が国を頼む」


 ◇◇◇◇◇


 謁見の間を下がり、私はキース王子と従者の二人とぼんやりと回廊を歩いていた。

 私がアステリアを守る切り札……。

 すごく重圧を感じる。

 責任重大すぎる。

 本当に聖女の努めが私に出来るんだろうか?

 今のところはキース王子に魔力供給をするだけだけど……握手で。

 護国の結界術……アステリアの平和を守る儀式の成功が私にかかっている。

 急にめまいがしてきた。

 私は足を止め、その場にしゃがみこんでしまった。

「アルナ!?」

 驚くキース王子。

 私の横にしゃがみ、背中をさすってくれる。

「どうしたの、緊張しちゃったの?」

「いえ、なんだか緊張が解けたのか、プレッシャーを感じてしまったのか、どっと疲れが……」

「今すぐ宮廷医師を呼んで参ります!」

 従者が走り出した。

 集まってくる正殿を守る兵士たち。

 うう、恥ずかしい。大騒ぎになっちゃった。


 やってきた宮廷医師とビアに、自室に戻って診察を受けるように言われた。

 ふらつきながら立ち上がり、部屋に戻ろうとすると、ずっと側に寄り添ってくれていたキース王子が私の体を強引に引き寄せ、抱き上げた。


 え、え??

 これは……お姫様だっこ……?


 あの細身のキース王子のどこにそんな力があるのか、彼はすいと私を抱き上げてしまった。

「キース王子!お、降ろしてください、重いでしょう、大丈夫です私歩けますから」

「僕の事、ひよっ子だと思ってる?」

 キース王子の端正な細面に見下される……とても真剣そうな表情の彼。

 胸がドキンと高鳴る。

「君を抱き上げるくらいの力はあるから。部屋まで僕が運ぶ」

 そういってキース王子はスタスタと回廊を歩き始めた。

 周囲の兵士や医師、ビアは引き止めたり自分が変わりに、と申し出るが、キース王子は無視して私の借りている部屋、白百合の間まで歩き続けた。

 キース王子の胸の中。

 あったかい。

 後半はちょっと苦しそうに眉をひそめ、息を切らし、歯を食いしばっている様子だったけど。

 彼の胸に抱きかかえられていると、その鼓動が聞こえてきそう。

 私の頬が熱くなり、赤くなっているのを感じる。

 

 キース王子は、私を大事に自室のベッドまで運んでくれた。

 

 私を小鳥のようにそっとベッドに降ろし、ふうと一息。

 彼の青白い頬は赤く火照り、額には汗……やっぱり体が頑丈ではない彼には、大変だったんだろうな。

「しっかり休んでね、アルナ」

 そう言って、キース王子はベッドに横たわった私の髪を優しく撫でてくれた。

 ちょっと苦しそうな様子を隠したキース王子の優しいほほえみに、私の心臓がきゅんとなる。

 ああ、胸が苦しい。

 キース王子、優しい……。

 なんで、まだよく知らない私に対して、こんな優しくしてくれるんだろう?

 これじゃだめ。

 どんどん好きになっちゃう。

 今後、握手だけで抑えられるんだろうか……。

 私、キース王子に抱きかかえられて甘い感覚に包まれて……幸せ感じちゃった。


 って、ダメダメ!

 モテない歴年齢の人生を二回送っている私が、推しの王子様にキスなんて考えちゃダメ!

 大人しく聖女の努めをこなして、アステリアを守ることを考えなくちゃ。

 

 キース王子は私に休むようしっかり言い含めると、従者と部屋を出ていった。

 少し腰を抑えて辛そうにする姿が、閉まりかけた扉の隙間から見えた。

 あああ。やっぱり細身のキース王子に私は重かったか……ごめんなさい。

 

(続く)

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