陰キャでも異世界に行きたい
異世界に行ったら何をしよう。
ダンジョンに潜って、伝説の財宝を手に入れる?
強いモンスターを仲間にして、無双する?
それとも‥‥パーティーメンバーの女冒険者と、良い雰囲気になったりして?
ーーなんて、どう考えてもありえない妄想を、
今日も俺は頭の中で繰り返していた。
現実の俺は、どこにでもいる高校二年生。
名前は藤崎 蓮
友達は一人。彼女?そんなもの、いたことがない。
クラスではほとんど喋らないから噂で聞く、"陰キャ"というやつだ。
だから陽キャラは大の苦手だ。
高校生活なんてもんは、ほとんどが暇つぶしみたいなもので、
昼休みに親友の翔と購買のパンをかじるのが日課だ。
家族でも少し浮いた存在だが、唯一の妹だけが「お兄ちゃん」と笑って話しかけてくれる。
‥‥俺の、世界はまぁそれだけだ。
だけど、もしーーもしも本当に異世界に行けたらなら。
俺は、きっと変われる気がするんだ。
現実じゃダメでも、異世界なら‥‥俺でも"何か"ができるかもしれない。
‥‥そんな他愛もない妄想が、現実になるなんて。
その時はに俺は、まだ知らなかった。
***
放課後の校門前。
空はオレンジ色に染まり、部活の掛け声とボールの音が遠くで響いていた。
俺。藤崎蓮は、いつものように親友の神谷翔と、妹のひなと三人で下校していた。
妹は俺の通う高校を受験するつもりらしく、最近はこの三人で帰るのが日課になっている。
「なぁ、異世界に行けたら、やっぱり魔法使いとかがいいよな!いや‥魔剣士もありか」
「また始まったよ、蓮の妄想トーク。」翔が笑う。
「いいじゃん。夢くらい語らせろって。俺はな、魔王軍と戦って、名声を手に入れてさーー」
「どうせモテたいってオチでしょ?」
ひなが呆れた顔で言う。
「‥‥まぁ、否定はしない」」
「ほらね〜」
三人の笑い声が、夕焼けの坂道に響いた。
そのときだった。
「‥‥え?」
俺の視界の端で、何かが光った。
歩道のすぐ脇、アスファルトの上にーー
複雑な紋様が描かれた魔法陣が、淡く輝いていた。
青白い線が、まるで生き物みたいに脈打っている。
「な‥‥なに、これ?」
俺は無意識に、そっと近づいた。
「おい蓮、やめとけって!また変なもん拾う気か!?」
「だって、これ‥‥触ったら何か起きそうだろ?」
「起きそうだから危ないんだよ!」
「お兄ちゃん、ダメっ!!」
止める声を振り切って、俺は手を伸ばした。
指先が、魔法陣の光に触れた瞬間ーー
バチッと音を立てて眩しい閃光が弾けた。
「うわっーー!?」
視界が真っ白に染まり、体が宙に浮く感覚。
「蓮っ!!」
「お兄ちゃん!!!」
翔とひなの声が、遠ざかっていく。
伸ばした手が、届かない。
光に包まれた俺の体は、ゆっくりと魔法陣の中に染み込んでいった。
音も風も、全部消えた。
そしてーー目を開けたとき、そこはもう、見知らぬ世界だった。




