005 東照凱人05
姉ヶ崎には悪いが念の為に1日休み、早朝に出発した。
「……大丈夫か?」
「大丈夫ですよ」
向かうのはカルドアル王国から北西へと向かった先にある街だ。
カルドアル王国の東には人族の国が数多く存在している。そして北西には獣人族の国や多種族国家、そして西には魔族国家だ。
おそらく魔族領土の東の国とカルドアル国家の西の間にある、かなり広い荒野が現在戦場になっているのだろう――詳しく聞いてないため予想にすぎんが。
南は俺がいったことがなく調べたこともないため知らん。
「数日は歩くことになる、駄目なら言え」
「優しいんだね」
「倒れられたほうが効率が悪いだけだ」
街まではだいたい3,4日かかる。今は阿多野が姉ヶ崎を背負っている。男の俺が背負うほうが早いと考えたが男に女の子を背負わせる訳にはいかないそうだ。
毒は1日範囲外にいれば抜ける程度のものだから明日には歩けるようになるだろう。
それにしても話が続かない。阿多野は今年で16だったな。つまり俺の年は順調に言っていれば今年で18だから2歳差か――こんなに会話が続かないものなのか。
いや、待て。そもそも俺は昔から誰かと話していたか――思い出せん。
ルルムと悪態を付き合っていた、あいつの恋仲に関わることでそいつと何故か話していた。情報屋のあいつらに妙に気に入られて話していた――全員年が離れてるな、一番近くてルルムだ。
「ごめんね、話し上手じゃなくて」
こいつはエスパーか。
「いや……まあ……大丈夫だ」
駄目だ。騙すわけでもないというか話の内容が存在しないのだから嘘も真実も何もない――返答に困る。
「お前は……妙に落ち着いているな」
「そうかな?」
「あぁ、俺が初めてきた時は――」
ものすごい落ち着いていた気がするな。両親が死んだ時からか妙に自分の立ち位置に悩んで金に逃げたのを覚えている――高校にはいったらバイトをしようとか考えていたな。
「すまない、落ち着いていた」
「まあ東照君は落ち着いているしね、それに数年前ってことは早ければ小学生でしょ」
「……阿多野、お前には教えておいてやろう。どうせ今後高校に戻れる保証などないようなものだからな」
「何かな?」
「俺は今年で18だ。どこかのフィクション作品のようにこの世界で過ごした時間は元には戻らず本来だったら高2の3月を過ごしている時に現実世界に戻ることになった――そして無理やり受験を受けてあの高校に入ったわけだ」
「……年上というか落ち着いた雰囲気はある人だって思ってたけど本当に年上だったんだね。納得したよ」
「とはいえたった2つだ……むしろお前の落ち着きのほうが俺には予想外だ。思春期の女子など精神はブレる時期と思っていた」
「私以外の女子はみんなこんな行動はできなかったんじゃないかな。おかしいとも思わずに従っちゃってるけど現実を見ればパニックを起こすと思う」
こいつの精神の頑丈さ――いや、考え方はある種、異常じゃないか。人情を感じる性格ではあるがその考え方は現実を観察した上でだしている。
「でかい地震で阿鼻叫喚だったからな」
「そうだね……東照君――さんのほうがいいかな?」
「今までどおりでいい」
「そっか、じゃあ東照君……街についたらちょっと話があるんだけどいいかな」
「気が早いな……まぁ、話くらいなら聞いてやる。聞いてやるだけだが」
「うん、それでいいよ」
俺はこの阿多野という人間をどうにも掴みきれなさそうで――ある意味天敵かもしれないと思ってしまった。
その夜、野宿をしている時に姉ヶ崎は目を覚ました。
「よう、起きたか」
「えぇ……なんで東照君がいるのかしら?」
「説明してやるからとりあえず起きて、そこにある飯でも食え」
姉ヶ崎の雰囲気は冷静とかそういうことだろう――高校では病弱少女的な立ち位置にいたやつだ。後はいつもはポニーテールにしていたロングの髪はおろしてある。
そして一番俺に絡んできたやつだ――罵倒などもしてきたがある意味で俺的には話しやすい部類だったのかもしれない。
「夜に経験のない男の前で寝てしまっている状況を作るなんて私もまだまだね」
「寝起きからそれか」
「えぇ……それで、説明してくれるのよね?」
「どこからだ」
俺はわざとその質問をする。ただ単に少しイラッときたからだ。
「私が夜にあなたの近くで寝てしまっていたこと、私がここにくるまでの経緯ね」
「広いな……とりあえずお前がここに来るまでの経緯はいってしまえば阿多野のせいだ」
「阿多野さんの……どこにいるの?」
「そっちで寝てるぞ」
俺は阿多野が寝ている場所を指差す。焚き火からは少し離れた場所で寝ている――光が強すぎる場所だと眠りにくいらしい。
「そう、後でお礼を言わないとね」
「そうしろ」
「それで、あなたがいる理由は――厳密に言えば私が寝ていた理由ね。森の近くからの記憶が曖昧なのよ」
「阿多野が連れてきたその森で俺は安全のために“人間”には安全な毒をまいてたがなんらかの原因でお前はそれを受けて体調を崩していた。国の近くから人気がある場所に移動することにした。現在はその移動中で夜の野宿――これでいいか?」
「十分よ……そうなのね」
姉ヶ崎の顔が少しうつむく。
「らしくないなぁ、姉ヶ崎。お前はいつも俺に罵倒、悪態をついてきていたじゃないか」
「そうね……でもこんな世界に突然連れてこられるなんて。夢だったら良かったわ」
「まあ、そうだな」
それは即座にそう返した――本心では戻ってこれたと思っていたがこいつらには関係ないからな。それと同じようにこいつらが巻き込まれてきたのは俺には関係ない。
「これからどうなるの、私たちは……」
その声は震えていた、こんな姉ヶ崎は初めて見たかもしれない。
こいつはこんなに弱かった――と頭によぎるがすぐに考えを改めた。こいつが普通なのだ。俺も最初は落ち着いていても恐怖はもちろんあった――勝手な想像だが阿多野にも恐怖がないことはないだろう、じゃなければ森に来たあの時、あそこまで必死になることはなかったはずだ。
「さぁな……とりあえず街までは連れて行ってやる」
「……東照君は落ち着いてるのね」
「いろいろあってな……」
「そう……」
特に聞かれなかったため元勇者だとかそういうことは言わないでおいた。