006 東照凱人06
その日は俺は徹夜で見張りをした。また一夜だけ耐えてもらい毒でもまいておけばいいかと思ったが――あの姿を見て俺の少ない良心が働いたんだろう、らしくもない。
「もしかしてあれがそうなのかしら?」
「もしかしなくてもそうだ」
道中は順調に進み2日後の昼には街が見える距離まで近づくことができた――と言ってもあくまで見えるレベルだが。
「この距離ならあとどれくらいかな?」
「よっぽどの邪魔がなければ夕方に到着だ」
「見えてもあと4時間ちょっとはかかるんだね。遠近法でミニチュア以上に小さく見えるわけだよ」
「今までは本当にあるかすら、私たちからすれば定かではなかったのだからいいじゃない」
この2日でわかったが、阿多野と姉ヶ崎は仲が良いらしい――仲が悪かったらそもそも一緒に脱走などしないか。だが、俺は現代にいる時にはこの2人は真逆のタイプと思い込んでいた上で教室で話してるような光景を見たことがなかったから、そう思うのはしかたのないことだ。
「でも街道も見えるけど追手を考えて使わなかったけど魔物に出会うこともなかったね」
「そもそも魔物が街道にでないかなんてわからないんじゃないのかしら?」
「まあ、他よりは危険が低いだけで襲ってくる奴らはいるな」
この2人は文学作品ではあまりヒロインとは言われない2人じゃないか――とか、どうでもいいことを俺は考えていた。
正直、魔物の襲撃が一度もなかったのは予想外で思考も体も暇を持て余していたわけだ。
「ちょっと待って!」
「どうかしたの?」
「……なにか来る」
阿多野はその特殊能力のせいか聴覚と嗅覚も人間よりは良くなっていた。
「足音……4つ?」
「4足歩行なら1体、2足歩行なら2体だ」
「私たちにできることはあるのかしら……?」
「……魔法で牽制程度だろう。1ヶ月、魔法の修行してたなら別だが」
俺はこいつらを背に前に出て自分の聖剣を取り出す――手を上に上げればその手の中に収まるように聖剣は現れた。
「それは……聖剣なの?」
「禍々しいわね――紫色って」
聖剣は念じればどこからともなく手の中に現れるわけだ――というか何故俺は今まで取り出さずに閉まっていた。
「いいか、サービスで教えてやる。先行投資だ……矛盾してるじゃねえか」
「いや、知らないよ」
阿多野に冷静に突っ込まれた。真正面からやってきたのはイノシシ型の魔物だ――俺どころか数ヶ月経験を積んだ冒険者程度でも十分一人で戦えるようになる程度の危険度の。
「お前らが今後どうするかは知らん――あいつらを助けるために戦争に行くのも王国をおそうのも、この世界で普通に暮らすのも構わんが、聖剣については知っておけ」
「東照君、きてるわ」
「まず聖剣全ては折れない特性を持ってる――それともう一つは特殊能力と同じようにそれぞれ特異な力が――あるっ!」
イノシシが射程に入った瞬間に俺は屈んで膝蹴りをアゴにかました――身体能力の上がっている召喚された人間ならコツさえわかれば誰でもできる。
「……姉ヶ崎、大丈夫か」
「何がかしら?」
「顔色が悪い」
「怖いからに決まってるでしょ」
クールな表情でそんなことを言われても困るんだが。
「とりあえず、力を使って生きていくなら魔物に対する恐怖だけは克服しろ」
俺はそんなことをいいながら浮き上がって目の前に現れたイノシシの腹に聖剣を突き刺した。
『フゥゥゥゥ!!』
「まだ生きてない?」
阿多野が身構えながらそう言う。
「俺の聖剣はさしたら勝ちだ」
影になっていて俺からしか見えないが刺した場所から血とは違う液体が傷口からでる。
『プギ!? プギィィィ!!?』
「な、なに? 何したの東照君」
何故か少し近づいてイノシシの様子を見る阿多野――度胸がありすぎる気もするが気にするところじゃない。
おそらく俺からはよく見えんが苦痛の表情で逃れようと視点が右往左往した後に泡を吹いて死んだんだろう。
「“アナフィラキシーショック”って知ってるか?」
「たしか蜂とかのやつだよね」
「あれと同じような毒をすぐに体に反応する量傷口から直接つっこんだ――厳密にはアナフィラキシーショックじゃないんだがな」
「……うわぁ」
剣を引き抜いたらつっかえ棒がなくなったように地面に伏せた。
「死体とかってどうするの?」
「食わないなら放って置けば腐るか何かが食われる」
「じゃあ今回は放っておくの?」
「あぁ、街道なら別――!?」
今、なにか聞こえたぞ。何の音だ。
「もう終わったならいかない? 普通にいって夕方だと日が暮れちゃうわよ」
「そうだね、とにかく今は街に――えっ?」
阿多野も少し遅れて気づいたようだ、注意力がまだできてないなら仕方ないとはいえ俺も迂闊だったか。仮にも俺の中で仕事としてこいつらを護衛してるのにな。
「姉ヶ崎、伏せろ」
何故こんな時まで叫ばずいつものテンションなのか俺はというツッコミは阿多野にまかせておく。
「えっ?」
俺は姉ヶ崎の方へと走っていく――その視界の先には姉ヶ崎とそれをきろうと、今現れた巨大な昆虫魔物――現代でいえばクワガタ型。
さっき聞こえたのは羽音だ。
「急になにっ――!?」
俺は乱雑だが姉ヶ崎に頭を掴んでむりやりふせさせた。そしてそのまま突っ込んでくるクワガタの大顎の間に剣を振り入れた。
『……!!?』
クワガタは自分の勢いを止めることもできず自分から剣に斬られていき真っ二つになった――が、その体からでた体液を俺と姉ヶ崎は浴びてしまう。
「……毒はないな」
「あ、ありがとう」
姉ヶ崎はそう言うがその声は震えていた。姉ヶ崎をみれば体も震えている。
そこに阿多野も駆け寄る。
「大丈夫!?」
「へ、平気……っ」
「姉ヶ崎さん?」
「うっ……」
まあ、虫の血なんて浴びたら吐き気もするか――と、思っていたんだが、予想外の反応が目の前で起きた。
姉ヶ崎は意識を失ってしまったのだ。
「姉ヶ崎さん? どうしたの? ねぇ!」
どういうことだ、毒はなかったはずだ。精神的ダメージが限界にきた……にしては急すぎるしその直前までに自我を失うような限界状態でもなかったはずだ。
「……急ぐぞ」
「えっ? でもっ」
「俺が担いでいく。あの街には医者の知り合いが生きてればいる」
「わ、わかった」
俺は姉ヶ崎を肩に担いでその街へと急いだ――何故、ここまでするのかは俺自身わかりもしなかったわけだが、今は先行投資ということにして置くことにする。




