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004 東照凱人04

 さて、剣とは斬る武器だと思うが実際に使う場合になってわかることがある――剣は刺すこともできる。

 城からでてすでに数日がたった。現在は森のなかにある川の近くの開けた場所で過ごしているわけだが、この数日でわかったことをいい加減まとめなきゃいけないな。

 まずは予想通り俺がいなくなったことで追手が少なくともこの魔物がでる森にくることはない。この森で比較的安全なのが川や湖の周辺で人間がいるならそこと考えて探索するのは普通だからだ。俺もそこで暮らしているわけだからな。

 だが、そんな平穏の世界に近づいてくる音が聞こえた。森の木々をガサガサという音が――。


「はぁ……はぁ……え? 東照君?」

「…………」


 目の前に現れたのは阿多野愛菜だ。だが、その体はとても特徴的な違いがあった。

 が、そんなことよりも先に確認しておくことがある。


「なんでこんなところに来た? それもそんな力も多くなさそうな体で人一人背負って」


 阿多野は一人クラスメイトを背中に抱えていた。


「いろいろあって……というか、はぁ……」


 完全に息が上がってるな……まあ、追手ではなさそうだ。


「とりあえず、この辺は安全だから休んで行け」

「え? ……う、うん」


 とりあえず俺は阿多野に草のベッドを貸してやった。別に休むには寝るのが一番とかそういうことじゃない。クラスメイトを降ろすにはここは川の近くで小石が転がってる。

つまりはそこにクラスメイトを降ろして寝かせるためだ。


「東照君は……こんな所でなにを、ていうか今までどこにいってたの?」

「ここ数日がここにいた。もう少し遅かったらいなかったと思うがな」

「そうなんだ……あ、ありがとう」


 俺はとりあえず飲水を渡してやった。ついでに焚き火の近くに座るよう促しておいた。


「こちらから質問してもいいか?」

「え? う、うん」

「とりあえず……大雑把でいいから何があった」

「えぇと、お城でなんだけど。私たちの中の何人かが突然いなくなったの」

「俺含めてか」

「うん、そうだね。そのうち数人は目撃例があったんだけど……やっぱり、みんなの様子がおかしくて」

「どういうことだ?」

「なんていうか、友達がいなくなったのに妙に落ち着いてるっていうか王様――ううん、あれは王女様の言うことはすんなり聞き入れちゃってた」

「…………」


 魅了の魔法だな。だが、条件がわからん――信頼以外にも何かあるのか? いや、まて早まるな。


「王女のことは最初から疑っていたのか?」

「最初はなんとなく勢いに飲まれて信じちゃってたけど、2日ぐらいたってやっぱりおかしいって思ったかな。そもそも戦争に参加することには最初から反対してたんだよ、私」


 勢いでも信じていたということは魅了の条件は当てはまっている、もしかするとそこまで高度ではない魔法かもしれないな――まて、阿多野のさっきの姿を考えれば人間もしくは人族に絞った魅了と考えれば辻褄は合うか。


「それで逃げ出してきたと」

「うん、いなくなった人も全員最初反対してた少数派の人たちばかりだったからね。それで私と姉ヶ崎さんも今日の早朝に逃げ出したの」

「そうだったか……」


 俺がいなくなったこと関係なく城はパニックになりかねない状況になったわけか。だが魅了がきいていない人間がいないなら王としては都合がいいと考えているかもしれないな。

 どうでもいいが。

 そもそも魅了は洗脳ほどの力は持っていない、あくまで意見を受け入れやすくなるという魔法だ。ボロがいつかはでるだろう。


「それでなんでここに?」

「わからないかな。とにかくその場から離れるのに必死だったから人の話を聞く余裕はなかったの」

「そうか……まあいい。それじゃあもう一つ質問だ。さっきのはお前の特殊能力か?」

「うん、そうだね……みんなには誤魔化してたけど」

「加速……だったか」

「うん、加速って言ってた。だけど本当は違うんだよ」


 今は普通の姿に戻っているが、ここに来た時の阿多野は――猫耳に尻尾が生えていた。


「獣人化――っていうのが一番しっくりくるのかな? ほら、昔から日本でも人狼とかそういう伝承はあるでしょ」

「化け猫とかだな」

「そう。足の速さは多分猫の俊敏性で上がってるんだと思う。その他にも着地とか跳躍力もかなりあがるからね。ただ腕力が少し上がり過ぎな気もするけど」

「まあ、特殊能力ゆえのあれかもしれなければ“猫じゃない”可能性もあるから俺にも何も言えん」


 とりあえず、簡単に聞きたいことは聞けた。


「それじゃあこっちからも聞きたいことがあるんだけどいいかな」

「ん? なんだ」

「とりあえず、まずは君が逃げた理由かな」

「人殺しをさせられるなんてごめんだからだ――それに何故、俺たちが戦争に参加しなければいけないのか理解できん」

「うん……それじゃあ次に、その妙に悟っている理由かな。もしかしてこの世界人で逆に私たちの世界に来たことがあるとか?」

「正解で間違いだ。俺は数年前に勇者として召喚されたことがある。今回は二度目だ」

「……随分、さらっと言っちゃうんだね」

「いう必要がないから言わなかっただけで隠す必要もないだろう。あの王と王女以外にはな」

「それじゃあ最後に――姉ヶ崎さんの症状の原因はわからない?」


 どういうことだ。背負われてきたクラスメイトの姉ヶ崎莉乃あねがさきりのはたしかに顔色が悪く起きる気配もない――が、これの原因だと。


「……いつからこうなった」

「この森に入った時からかな」


 そうか――となると。


「こいつの聖剣か特殊能力は?」

「不明、どうしても姉ヶ崎さんのは条件がわからなかったみたい」


 可能性としては十分だな。


「おい、阿多野。ここまできたから無償で教えてやる、顔見知りだからな」

「うん、どういうことかな?」

「この世界には獣人族と魔族がいるのは一応知っているな」

「うん、そうだね」

「その他にこの世界には魔物も存在している」

「魔物……うん、とりあえず続けてくれると嬉しいな」

「俺はこの森のここから一定範囲内に魔物が近寄りがたく魔物が入れば体調に不調をきたす毒をまいてる」

「……もしかして」


 クラスのアイドル的存在だが意外と察しがいいな。いや、これはただの偏見か。


「多分その予想であっている」

「姉ヶ崎さんの能力もしくは聖剣は――体と魔物が関わっている――という可能性のことだよね?」

「その通りだ」


 とは言え俺があったことのある勇者にそんな能力のやつは見たことないから確実じゃあないんだが。


「それで……その毒ってすぐになくせるの?」

「なくせはするが……この場所の安全性が大幅に落ちることになるな」


 湖と川が安全な理由は湖にいる主のおかげだ。そして主は湖に入ることがなければこちらに手を出してくることはない――が、他の魔物はそれを恐れて湖にもあまり近づかないのだ。

 川にこないのは有用性にかけてるからだろう。魔物の飯としては川にいる魚程度では物足りないにも程があるらしいからな。実際にどうなのかはわからん。

 とはいえこないわけではない。それこそ水を飲みに来る魔物はいるし人間の気配でくるようなやつもいる。

 だから俺は森からでるまでの道とこの場に魔物が近寄りがたいように毒をまいてたのだ。


「うーん……命には影響ないんだよね?」

「まあないな」


 魔物は進化する可能性が高いといったが、その原因の多くは環境か命の危機に関するものだ。だから、毒への耐性をむやみにつける可能性のあるようなまきかたはしない。魔物を殺すときには確実にやれる状況を作る必要があるわけだ。


「それなら仕方ないね……少し休んだら移動することにするよ」

「…………」


 妙にあっさりとしている――なんてものじゃないな。あっさりしすぎている。クラスでは誰かれ構わず話をするというそれこそアイドルのような人間だったとおもっていた。だからこそ、このような状況でここまで落ち着いてその上で行動に移せるのがこいつだとは思っても見てなかった。

 俺の予想の外にいるのは勝手にしろと言いたいが……顔見知りが目の前で去っていった上で死ぬ確率が高いなんてのは寝覚めが悪いか。嘘はつくが別に俺は悪じゃない。


「おい、まて」

「……何かな?」

「休んでいくのは構わんし出て行くのも構わんが、これから行くあてはあるのか?」

「全く無いよ」

「それじゃあ、少なくともこの世界の事情をそれなりに知っている俺に頼るという方法もあるんじゃないのか」

「頼った所で助けてくれるの? 何より一人で出て行ったことを考えれば君が素直に“助けてくれる”とは思えないかな」


 阿多野の感が鋭いのか俺が露骨なのかわからなくなってきたな。


「まあ、確かにそれは否定出来ないな」

「……否定しないんだね」

「あぁ、だが肯定もする気はない。人間は気分に左右されるんだ。そして俺も人間だ」

「私も人間、姉ヶ崎さんはどうなのかな」

「人間だ。いいか、魔物はあくまで魔物でしかないのと同じで人間はどこまでいっても人間なんだよ」

「それじゃあ一応聞いてみるけど、私たちを助けてくれる?」

「NOだ」


 何故俺はNOと言った――金にならないからだ。

 ではさっき何故寝覚めが悪いと考えた――こいつが知り合いだから。

 つくづく思考っていうのは矛盾の塊だな。


「俺はお前たちを助けない」

「それならここにると姉ヶ崎さんも――」

「が、俺と一緒に助けはしてやろう」


 阿多野が言い切る前に俺は言う。


「どういうことかな?」

「俺は俺自身が今、ここで長居してはさすがに死んでしまうから街に移動して助かる必要がある、俺は俺を助けなければならない。そのついででなら助けてやる」

「……屁理屈だね――でも、それならついででいいから助けてもらってもいいかな」

「…………ついでにな」


 正直、今、俺は何を言っているのか自分でも詳しくはわからなかった。

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