6 育成用ダンジョン
「このダンジョンではスライムは出ません。他とは変わったダンジョンということで、最初は研究用のダンジョンとして国の管理下に入ったんです。ですが、今は研究用よりも育成用のダンジョンといったほうがいいかもしれません」
ダンジョンの中を歩きながら今多さんが説明する。ダンジョン内部は洞窟状だが、発光する石からの光で明るい。
「石が光って、どこまでも明るい……」 水戸さんがつぶやく。
俺はそれを無視して、育成用、ですか? と今多さんに問い返す。
「あ、来ましたね。ここ地下一階層ではブラックラビットが出るんです。大宮さん、撃ってください」
見ると黒いウサギが三羽凄い勢いで跳ねてくる。
俺は持っている銃をウサギに向け、トリガーを引く。パパパパパパーンという音がした。BB弾が連射されたのだろう。
先頭の今多さんが跳ねてくるウサギを木刀で軽く打ち付けたように見えた。いや、見えたような気がする。早かったので、よくわからなかったのだ。
見ると、ウサギはすでに腹を見せて横たわっている。
「水戸さん、出番です」
水戸さんがぬっと出て、レイピアで一羽ずつ、念には念といった感じで、二度突きしていく。
顔を見ると、表情という表情がない。魂が抜け出た人のようだ。機械の如く、三匹のウサギのとどめを刺した。
レイピアを受けたウサギはキラキラ光る粒子になって消えた。跡にはパチンコ玉ほどの小さな黒いクリスタルが残った。
今多さんがそれを拾い上げながら、こんな感じでこの先もお願いします、そう言ってまた、歩き出した。
水戸さんはレイピアを持ったまま、立ち尽くしている。
俺はトリガーを引くだけで、当たっているかもわかっていないのだが、彼女はレイピアで、とどめをさしているのだ。
おそらく、生まれて初めて自分の意思で、生き物らしい生き物を「殺した」のだろう。魔物とはいえその衝撃、こころが受ける負担は、俺には想像ができない。
先を歩いていた今多さんが戻って来た。けれども、声はかけなかった。
俺も声がかけられない。
三人の中を、静かで透明な時間がゆっくりと流れてゆくーーー
どのくらい経ったのわからない、やっと我に返った水戸さんが俺を見る。
目が潤んでいるのがわかった。
俺はなんと声をかけていいか、わからず、うなずくことしかできなかった。
水戸さんは潤んだ瞳のまま、小さく微笑んでうなずいた。
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