15 決心
その日の帰り道、電車の中で俺は水戸さんに考えていたことを告げた。
「あの仕事、やってみようかと思っているんだ。今まで自信が持てなかったけど、今日ちょっとだけ、俺にもできるんじゃないかって思えて、それで決心がついた」
いつも電車の中では話しをしない。気まずいなにかがあって、お互いスマホをいじっていることが多い。今日も水戸さんはスマホを見ていたが、俺の突然の報告に顔をあげた。
「いいと思うよ。なぜかはわからないけど、きっと大宮くんなら、できると思う」
え? いきなり、くんづけ、ですか? どうして? それを聞きたいが……
「水戸さんはまだ保留中?」
「……うん。私には荷が重いような気がして……もしかして人を……って考えると、ね」
「俺もそこは自信ないよ」
「そしたら、なんで?」
「うーん、そうしない方法ってきっとあると思うんだ。まだまだ先だけど、そうしないですむような、まだわからない、未知の方法が見つかるような気がするんだよ。まぁ、カッコよくいえば、未来の俺が必ず解決するってことかな」
「未来の自分が解決、ね。ずいぶんお気楽ね。あ、私、ここで降りるから、またね」
電車が停まって、ドアが開く。会話に集中していたので、水戸さんの降りる駅に気づかなかった。
「それじゃあ、また明日」
手を振って別れる。
いつもはちゃっちゃと改札に歩いて行くのに、今日は閉まるドアの前で、手を振りながら見送ってくれた。
俺も手を振りながら、今日の電車の水戸さんは真面目な人だった、と思った。
まぁ、そうだよな。内容が内容だし。自分の生き方が問われる、みたいな選択だし。深く考えすぎかな。
もっと簡単に考えていいんだよ。やってみたいからやる、でいいんじゃない?
俺は自分に言い聞かすように、そう思った。
翌日、免許センターに集合して、研究所までの車の移動中、俺はわざと移動中に、今多さんに決心を告げた。
内容は、ヒューマンキラー対策の仕事、やってみたいです、だけだ。
大切なことだとわかっていたけど、だから、逆に、このときに話したかった。自分でも理由はよくわからない。
「水戸さんはその決心、知っていたの?」
それが今多さんの第一声だった。
「昨日、帰りの電車で聞きました」
「そう……よく考えたのね……わかりました。水戸さんは水戸さんでゆっくり考えて構いませんから。大宮くんが結論を出したからって、急いで答えを出す必要なんて、ありません。むしろ大宮くんの決心が早いくらいなんです」
「はい……でも、私も、ヒューマンキラー対策の仕事をしたいです」
え? なにそれ? 昨日と違うじゃん……
俺は水戸さんの顔を見た。水戸さんは運転している今多さんの後頭部に視線を向けたままだ。
今多さんは驚きのあまり後ろの水戸さんを見てしまったーー
今多さん、前、前! 運転中! 前、見てください!
事故を起こさなくてよかった……
「二人とも…………わかりました……その決心は対人戦を経験するまで…………ううん、訂正、夏休みの終わりまで、保留にしてもらってもいいですか?」
「対人戦、ですか」
またあらぬ、意外なことばに驚いて俺は反射的に尋ねた。
「えぇ、八月八日に対人の模擬戦をする予定が入ったんです。相手は以前ダンジョンですれ違った男女の二人組。覚えているかしら? いろんな意味で、ちょうどいい対戦相手になるということで、昨日決まったの。今日二人に話そうと思っていたのですが、まさか、こんな状況で伝えることになるとは……。あ、勝つ必要はありませんから。対人戦を経験しないと、この仕事はわからないと思うので組んでいるだけです」
「勝とうね」
小さな、小さな声だったけど、聴こえたよ。
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