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04.新たな徳妃

 朱万姫が廃妃となり、朱家に送り返された数日後、新たな徳妃に選ばれたのは(ヂュウ) (フア)だった。朱家当主の第三夫人の娘であり、僅か三歳で後宮入りとなった花はなにもわからない様子であった。


 その為、賢妃である玄香月の玄武宮に預けられ養育を受けることになる。


 ……なぜ、私が。


 香月は不満であった。


 徳妃を廃妃にと皇帝に囁いたのは香月だ。その責任と将来産む子供の世話の予行練習だと言われてしまえば、断るわけにはいかなかった。


 香月は子どもと接する機会がほとんどはなかった。


 そのため、子どもは未知の生命体でもあった。


「徳妃。使い終わった玩具は片付けること」


「まだ遊んでいます」


「床一面に広げて遊んでいるのか」


 香月には子どもを育てた経験はなかった。


 しかし、今後のことを考え、与えられた機会だった。


「徳妃」


 香月は花の名を呼ばない。


 しかし、徳妃として敬意も払えない。


 李帝国における四夫人は平等だ。平等に守護結界を維持するための生贄だ。


 内功があるかどうかもわからない子どもを渡されても困るのだ。守護結界の亀裂は収まったが、修復されたわけではない。


「あなたは李帝国の徳妃だ。学ばなければいけないことが山のようにある」


「学ぶのは好きではありません」


「受け答えはしっかりできるのだ。頭もいいだろう。最高峰の知識が得られる機会だ。しっかりと学ぶといい」


 香月は広がった玩具を箱の中にしまっていく。


 花はそれを止めなかった。


 花は三歳でありながら賢かった。精神年齢が高いのだろう。賢妃である香月が保護者としてつけられた意味を悟っており、勉強は避けては通れない道だとわかっていた。


「教養を身に付けられよ」


「わかっています」


「そうか。今日は武術の基本を教えよう。動くのも嫌いではないだろう?」


 香月の言葉に花は露骨なまでに喜んだ。


 勉学を学ぶよりも香月の動きを真似するだけの運動の方が好きだった。



* * *



 あれから瞬く間に十年の歳月が流れた。


 二十六歳になった香月は第一公子、第二公子、第一公女の三人の子宝に恵まれ、次の皇帝は第一公子に内定をしている。


 香月の立場は安泰だった。


 だからこそ、同盟国の宋国か第二公主が皇后という立場を与えられても、香月はなにも思わなかった。


「賢妃! 見ましたか! あの鬼を連れた皇后を!」


 十三歳になった花は興奮したように茶会の席についた。


 その場にいる淑妃と貴妃には礼儀正しく挨拶をしていたというのにもかかわらず、育ての親である香月には容赦がなかった。


「鬼を連れていましたね」


 香月は皇后謁見の場で見た驚きの光景を口にする。


「宋国ではそういう風習があるのでしょう」


「ありませんわ! そんな汚らわしい!」


「落ち着きなさい、徳妃。鬼とはいえ悪鬼ではなく、感情を理解する得体のしれない者でしょう? 結界に害を及ぼすとは思えないわ」


「貴妃は自分の迷惑にならなければいいだけでしょう!」


 花は感情的な子どもに育った。


 香月の子どもたちは落ち着いている性格が多いため、生まれ持った気質だろう。朱家の激しい気質は育った環境には関係がないようだ。


「わたくしは賢妃である玄香月こそが皇后にふさわしいと思っていますのよ!」


 花は高らかに主張する。


 それは誰もが思っていることだ。


「四夫人は皇后にはなれません」


 香月は否定した。


 それから花が好きな菓子を取り分けてやる。


「賢妃。徳妃を甘やかさないでちょうだい」


「ごめんなさい、淑妃。癖で」


「悪い癖が見についたものね。来たばかりの貴女とはずいぶん変わったわ」


 雪梅に注意をされ、香月は苦笑する。


 十年ほど子育てをしていると人は変わるものだ。


「公子が時期の皇帝に選ばれただけでも充分です」


「それは当然のことでしょう! 子に恵まれているのは賢妃だけなのですから!」


 花は堂々と言い切った。皇帝の寵愛を受けるのは香月だけだった。


 それは後宮の意味がなしていないと自覚していないのだろう。幼い頃から玄武宮に皇帝が来るのが当然だった花にとって、悪いことと良いことの差が見についていない。


「後宮の意味を考えたら、賢妃、まだまだ頑張って産まないとね」


「冗談でしょう。三人の子育てで手一杯です」


「大丈夫よ。乳母がいるでしょう」


 雪梅に言われ、香月は肩を落とした。


 子どもを産むのは命がけなのだ。その間、悪霊を見落としやすく、狙われやすい。今までは香月が積極的に悪霊を祓っていたものの、再び妊娠をすればそういうわけにはいかなくなる。


 怪異は日常茶飯事だ。


 守護結界の亀裂から入り込んでくるのだろう。


「悪霊祓いは皇后陛下の得意分野だそうよ」


「鬼の力を借りているということかしら」


「噂ではね。ずいぶんと小さい方なのに生気がないわけだわ」


 美雨の言葉に雪梅は同調した。


 異形のものの力を借りる代償は寿命だ。


 李帝国では常識であるのだが、宋国では違うのだろう。


 ――再び、波乱に満ちた気配が四人を覆っていた。


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