第38話 真実、そして絶望へ
「くそっ、くそったれさ! 一体何が起こってるのさ!」
《魔術師》は髪をグシャグシャと掻き毟りながら不満を盛大に叫んだ。
「あいつらを殺すんじゃなかったのさ! 捕まえるじゃなかったのさ! 何で死ぬのさ!」
事前に聞かされていた情報と全く一致せずますます泥沼へと飲まれていく。
《魔術師》の腹の虫が悪くなるばかり、そんな彼女を見ては周囲の人が離れていく。
彼女もイライラしてか人気のない場所を求めた。このままだと誰構わず殺すと思ったからだろう。
彼女は路地裏に足を運んで壁にもたれかかる。腕を組んで冷静になろうとするも歯をキリキリさせて余計に苛立った。
そんな路地裏に不似合いな足音がする。彼女はチラリと視線を向けた。そこには《運命の輪》が立っている。
「随分とご乱心だね。そんなに台本通り進まなかったのが気に入らないの? これが台本なのに」
「消えろ、くそ餓鬼。あたいは今最高に気分が悪いのさ」
「・・・アルカナ計画」
その言葉に《魔術師》の足が止まった。
「君なら全部教えてもいいよ。アルカナが何をしようとしてるか」
《魔術師》は聞く気もなかったが、何故《女帝》や《女教皇》が死んだのか知りたい気持ちがあった。黙って《運命の輪》の目を見つめた。
「結論から言うよ。アルカナの目的は白猫と黒狐の強化だ。抹殺でも捕獲でもない。」
「何?」
「アルカナが秘薬の研究をしてるのは知ってると思う。でもそれはまだ完全じゃない。何故不完全なのか? それは元々秘薬自体が彼女達を元に作られたから。そして、彼女達が不完全だったから当然秘薬も不完全となる。けど、彼女達が完全体になる前に脱走してしまった。だからそれすらも利用して彼女達を強くさせるのが目的。それがアルカナ計画」
「・・・1つ聞きたい。あの子達は何者なんだ? たかが人間が最初からあんな能力を持つはずないさ」
すると《運命の輪》は彼女の目を見ながら長い間をあけた。
「キメラ」
狭い路地の奥で不気味に嘲笑うカラスの声、鼠が蠢く音、風化した建物が崩れる。
《魔術師》は言葉を失って固まってしまう。
「彼女達は《世界》によって生み出された合成獣だ。あらゆる生物の血が混ざり、高名な人間や魔術師の血も含み、あらゆる薬を投与され、《愚者》から産まれた双子の姉妹。それが彼女達だ」
「なん、だって?」
「それともう1つ教えてあげるよ。ボク達はアルカナに引き入れられたけど、《世界》《審判》《死神》以外はこの事実を知らないし、それ以外の幹部は全員駒だ。幹部の役目は彼女達を強くする。その為にその命をもって戦い死ぬ。或いは彼女達を混乱させ動揺させ目的を悟られないように動くこと」
「な・・・!」
「《女帝》と《女教皇》が自殺したのは彼女達が首都で起こした事件の真相に気付いたんだ。自分達は《審判》に利用されている。最初から意味のない戦いをさせられていた。秘薬を飲んだ時点で命を散らすのが役目だった」
すると《魔術師》はいよいよ堪忍袋の緒が切れて壁を思い切り殴った。魔術で力を込めた風圧は壁に大穴を空ける。
「ふざけるんじゃないさっ! だったら、だったらあたいらは何の為にアルカナに入ったのさ! 死ぬ為にあいつらに利用されてたのさ?!」
「そうだよ。ボク達に価値なんてない。完全な秘薬を手にする為だけの材料なんだ」
「あたいはっ! あたいは・・・あたいを馬鹿にした魔術学校の生徒の奴らを見返す為にアルカナに入ったのに・・・。才能や天才の一言で片付ける生徒共を黙らす為に、規律や秩序を叫ぶ馬鹿な教師共を見返す為に、『創造』の力で・・・」
《魔術師》は語気が弱くなっていき覇気がなくなっていく。アルカナに囁かれた新たな力は彼女にとって魅力的だった。だがそれは体裁だけの甘い言葉だけだ。
「物語はもうすぐ完結する。黒狐が力を取り戻した。《審判》と《世界》は完全な人間となる。結末はすぐそこだ。こうなるのは決まっていた。今更驚きもしない」
《運命の輪》がポケットから拳銃を取り出して銃口を自分の頭に向けた。
「お、おい。あんた・・・」
「あいつらに利用されるくらいなら死ぬ。どの道、こうなるのが運命だったんだ」
乾いた銃声の音が1つ響く。路地裏に新たな死体が1つ増えた。
再び空虚な時間に戻る。《魔術師》は思考が追いつかなかった。数々の情報を整理するには時間が必要だった。信頼性のある真実かも分からない。
けれどそれ以上に目の前で勝手に死なれた《運命の輪》を見て舌打ちをする。
「くそっ。どいつもこいつも勝手にポンポン死にやがって。もう何もかもウンザリさ!」
《魔術師》は《運命の輪》の死体を抱っこして路地裏を飛び出した。
街中を走り回る。彼女は自分でも何をしているのか分かっていない。何をそうさせたのかも分からない。ただ運命という束縛に最大の憤りを感じるだけだ。
「おまえっ、《魔術師》!」
そんな彼女の目の前に《力》と《恋人》を姿を見せる。それには《魔術師》は大袈裟に舌打ちをした。
「きさまっ、《運命の輪》に何をしたっ!」
《力》が怒りを露にして《恋人》が目を逸らす。
「どけ。あんたらの相手をしてる暇はないのさ」
「質問に答えろ!」
既に《力》は拳を握り締めて応戦体勢に入っている。そんな彼女の肩を《恋人》が掴んだ。
「待ってください、フレイル! 何か事情があるかもしれません」
「離すんだ、レナ。こいつは無関係の命を簡単に巻き込む。そういう奴だ」
それを聞いて《魔術師》が鼻で笑う。その通りだった。そういう風に生きてきた。
今更誰かに認められるはずもない。そう選んだのだ。
それでも。
「頼む、退いてくれ。あたいは、この子を助けたい」
《魔術師》は両膝を折って頭を下げていた。今まで誰かにそうしたことはなかった。
彼女自身も何故自分でそうしてるか分かっていない。ただそうしなければならない気がした。
《力》は若干の不信感を抱きながら戸惑う。すると《恋人》が前に出て穏やかに微笑む。
「行ってください。あなたの誠意を信じます」
《恋人》に言われたら《力》も渋々道を開けた。《魔術師》は顔を上げて立ち上がった。
だが彼女の視界にゴミ袋を被った大男が視界に映る。手にはガトリング銃を手にしている。
狙いは《力》と《恋人》だった。《魔術師》は慌てて『創造』の力で透明の壁を作り出し銃弾を弾く。
急な物騒な銃声に彼女達も気付いて後ろに下がった。
「ちっ、ここで《戦車》がくるなんてタイミング悪いさ」
「・・・ここは私とレナが抑える。お前は早く行け」
「何言ってるのさ。あの武器人間に素手で勝てると本気で思ってるさ?」
「行けって言ってるんだよ!」
《力》の怒号に《魔術師》が怯んだ。間髪いれず彼女は続ける。
「命を救う気持ちに善も悪もない。ただし、手遅れになったら絶対にお前を殺す」
「はっ、上等さ」
《魔術師》は創造で鷹を呼んでそれに掴まり即座に飛んで行った。《戦車》の照準が彼女に向くも《力》が神速で動いて腹を蹴飛ばした。
「貴様の相手は私だ。処刑人」




