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ネコの日SS

 俺の名前はグスタフ。

 前世も今世もグスタフだ。おそらく来世もグスタフだろう。

 

 なぜ生まれ変わっても同じ名前なのかって?

 それは俺の今の主人、モリアにでも聞いてくれ。俺はただの家猫であり、飼い猫なのだから。

 

 ネコにはたったの9生しかないのに、同じ主人の元へと行くなんて馬鹿だと同じネコ達から散々罵られた。

 確かに俺も一度は野良のネコとして自由気ままに生きる1生を送りたいと願ったことはある。

 だがモリアが心配で生まれ変わっても彼女の様子を見に来てしまうほどには前世の暮らしが気に入っていたのだ。

 そして何より、モリアの家族や夫同様、俺はあの子のことが気に入っているのだ。

 モリアは少し、いや結構鈍感で、その上自分の魅力にすら気づいていないほどではあるが、それが余計に愛らしくて、危なっかしくて目が離せないのだ。

 

 


「お父さん、イーディスが花瓶割っちゃったみたい」

「俺がハーヴェイを呼んでくるから、ルカはイーディスを見ててくれ」

「わかったよ」


 歳をとり、今世は俺にも妻と子が出来た。

 だがやはり1番に気になるのはモリアとその子どもたちである。

 特にモリアの娘、次女イーディスは顔だけでなく、性格までもモリアによく似たのか、おっちょこちょいで、しょっちゅう花瓶を割ったり皿を割ったりしている。

 

 まるであの子の幼い頃をもう一度世話しているようだった。

 

 

「ハーヴェイ、こっち来てくれ」

「グスタフさん、どうしたんですか?」

「いいから早く」

 

 俺がこの屋敷に来てからもう10年近くが経つが、相変わらず人と直接話せないことを歯痒く思うこともある。だがモリアとハーヴェイには大体言いたいことは伝わる。

 前世と今世合わせて30年近く共に暮らしているモリアはともかくとして、ハーヴェイという男は大層察しがいいのだ。

 今だってハーヴェイの足をポンと叩き、尻尾を振って誘導すれば彼は一旦、他の仕事の手を止めて俺の後について来てくれる。

 

「イーディス様、お怪我はありませんか?」

「大丈夫」

 イーディスの膝の上で当たり前だと鼻を鳴らすルカ。

 その様子は完全に俺譲りだとモリアは言う。俺自身はあまりそんな気はしないのだが、彼女が嬉しそうに笑っているのならそれでいいのだろう。

 

「ルカさん、グスタフさん、ありがとうございます」

 俺がフンと鼻を鳴らすと同時にルカも鼻を鳴らす。

 

 ……やはり似ているのを認めざるを得ないのかもしれない。

 

 ルカは兄弟の中でも一番イーディスのことを気にかけていて、1日のほとんどを彼女と共に過ごす。

「だって付いていないと心配だろう?」と言った彼は正しく前世の俺そのものだった。

 

 そろそろイーディスのお目付役は正式に任せてやってもいいかもしれない。

 

 

 そんなことを思いながら、屋敷を巡回していると玄関の方角から耳にすっかり馴染んだあの子の声が耳に届いた。

 間違えようもない、モリアだ。

 

「ただいま、グスタフ」

「今帰った」

「お帰り、モリア、ラウス」

 久々の買い物デートをして帰ってきたモリアとラウスに駆け寄って、そしてモリアの足をポンポンと叩く。

 

「ただいま〜」

 すると彼女は俺を抱き上げて、俺のもっちりボディに顔を埋めるのだ。

 

「お帰り、モリア」

 モリアの頭をなでてやると彼女は嬉しそうに笑う。

 

 この笑顔は昔から全く変わらない。

 それに捕らわれたカリバーン家も俺も同じ仲間みたいなものだろう。

 だからこそ初めて会ったその日からカリバーン家の人間には親近感のようなものを覚えている。

 

 だがこの場所だけは、モリアの腕の中だけはルカにもラウスにも譲ってやらない。

 

 ここは俺だけの特等席なのだから。


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