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第39話 暗く、重苦しい議会室 上

 聖王星テレンティアでの任務を終えた鳴鳥達を乗せた戦艦ニーヴァレインは、惑星アストリアの起動エレベーターにあるドックへ入港する。

 任務中、鳴鳥は地球と共に亡くしたと思っていた人物、想い人であった久城と再会を果たした。

 だが、彼は以前の優しい彼ではなく、明らかな殺意を鳴鳥に向けてきた。

 一時は自分は久城に対して死を以って償うべきだと言っていた鳴鳥であったが、ジルベルトに過去の罪を告白し、そしてこれからどうするべきなのかを彼に諭され決意を新たにする。




 


「皆さん、ご苦労様です。皆が無事なようで何よりです」

「みんな、お疲れ~!」


 ドックで鳴鳥達を出迎えたのは星団連合議会の議長、ミリアムと彼女の身辺警護の兵士数名と、星団連合本部直轄ARKHED(アルケード)研究機関、通称SARの所長であるカルラと、そして鳴鳥が見知らぬ大柄で初老の男性であった。

 カルラにぎゅうっと抱きしめられてふかふかの胸に埋められていた鳴鳥。

 彼女がどうにか身じろいで目線を向けた先、鳴鳥には初対面である初老の男性を見ていると、彼の元にアリーチェが駆け寄る。

 大きな身体できらびやかな衣装に身を包み、ライオンの様な頭をした彼は笑顔でアリーチェを抱え上げた。


「ただいま戻りましたわ! お父様!」

「よく無事に帰ってきた! 我が娘よ!」

「バルニエールの名を語るからにはこの程度の任務、余裕ですわ!」


 危機的状況があったにも拘らず、アリーチェは事もなげに言う。

 その様子に満足なのか、初老の男性はガハハと大声で笑った。

 その後誰に宣言しているのか、我が娘は宇宙一の器量だとか何とか、愛娘の自慢をしていた。

 その光景が初見なのは鳴鳥一人だけのようで、皆は各々に挨拶を交わしていたり、身体を休めようと宿舎に向かおうとする。


「あら? ナトリちゃんはあの親馬鹿と初対面?」

「あ、はい。カルラさんはご存じで?」

「ええ、ARKHED(アルケード)の研究と兵器開発は縁があるからね。もう分かっていると思うけどあの人はアリーチェの父親でバルニエール商会会長のバジーリオ・バルニエールよ」


 不思議そうな視線に気づいたカルラは鳴鳥を解放して説明をする。

 堂々とした態度と身に付けている物からそれなりの地位の者だとは分かったが、アリーチェの父親という部分はにわかに信じられなかった。

 仲は良さそうであるが、二人の容姿は似ても似つかない。

 母親がアリーチェ似なのだろうかと考えを巡らせていると、アランが説明をした。


「アリーチェさんはバジーリオ会長とは血の繋がりはないそうですよ」

「え? と言う事は奥さんの連れ子ですか?」

「いえ、バジーリオ会長の奥さんは何十年も前に亡くなられています」

「そう、ですか……」

「アリーチェさんがARKHED(アルケード)に乗ったまま漂流していた所をバジーリオ会長が救助したことが切っ掛けらしいです」

「……漂流」

「記憶を失っていたんです、彼女は」


 天真爛漫。その言葉が良く似合ういつも元気なアリーチェが、そのような過去を抱えていた事を初めて知った鳴鳥は驚き声を失う。

 アランは事もなげにアリーチェの過去を明かしたが、当人はどう思っているのだろうかと鳴鳥は気になる。

 鳴鳥は人を見た目で判断しないよう気を付けてきたつもりだが、まだまだ甘い事を反省した。

 どんな人でも何かしら抱えている。それを肝に銘じておく。

 けれどもそんな心配は必要なかったようで、アランは笑いながら言った。


「ほら、彼女なら心配ないようですよ」

「あ」


 アランの目線の先にはこそこそとこの場を後にしようとするジルベルトが居た。

 その姿に目を付けたのは彼だけでなく、バルニエール親子も目を光らせていた。


「おお、ジル坊。話は聞いたぞ、一人でARKHED(アルケード)を六機も相手にしたそうじゃないか」


 任務の報告書と戦闘データなど、収集した情報は前もって転送されている。

 その内容に協力者の権限で彼も目を通したのだろう。

 バジーリオは面倒事から逃げようとしたジルベルトを捕まえてわしわしと頭を撫でつける。

 鳴鳥にとってはジルベルトは凄く大人に感じていたが、バジーリオ相手では彼は子どもの様な扱いであった。

 無遠慮に撫でつけられ、ジルベルトは心底うんざりとした表情を浮かべるが、バジーリオは気づいていないようだ。

 彼はガハハと笑い、まるで我が子の手柄のようにジルベルトを褒め称えた。


「やはりワシが見込んだだけの事はある。お前にならワシの愛娘を任せられるわい」

「あらお父様、アタシが駆けつけなければジルは危険な目にあっていたのよ。ね? ジル」

「まぁ……、確かにそうだが……」

「うふふ! なら報酬も上乗せね」

「アリーチェ。いっそのこと祝言を挙げるというのはどうだ?」

「やだ、お父様ったら! こんな皆の前でそんな大胆な!」

「……」


 当人を置いてきぼりで話を進めるバルニエール親子に、ジルベルト以外の人達も苦笑いを浮かべる。

 血の繋がりは無いが、バジーリオとアリーチェは紛れもなく親子であるようだ。

 任務を終え、その結果が大手を振っての帰還ではなかったが、彼らバルニエール親子のお陰で場は和やかなムードに変わった。

 だが、後から艦より降りてきた難しい顔をする男、グェンダル大将は彼らのやり取りを見て大きな溜息を吐く。


「相も変わらず騒がしい奴らだ」

「おお、グェンダル。久しぶりだな! そちらのお嬢さんは娘っ子のソフィーリヤちゃんか。久しぶりに顔を合わすがべっぴんさんになったのう」

「お久しぶりです、バジーリオ会長。ご健在であられるようで何よりです」

「相も変わらずよく出来たお嬢さんですな。いやーこの男の娘だとは信じ難い」


 バジーリオはソルニエール親子とも親交があるようだ。しかし、満面の笑みを浮かべるバジーリオと対照的に、グェンダルは忌々しげに顔をしかめた。

 娘を褒めつつも自分を小馬鹿にするのだからよく思わないのは当然であるだろう。

 バジーリオはグェンダルの苛立ちを無視しながら話を続けた。


「言っておくがジル坊はワシの娘の許婚だ。いくら良く出来たソフィーリヤ嬢ちゃんと言えども譲れはせんぞ」

「フン。そのような男なんぞ、こちらから願い下げだ」

「おお、そうだったのう。お宅のお嬢さんとは上手くいかんかったのを忘れておったわい!」


 ガハハと勝ち誇ったかのように笑うバジーリオにグェンダルは頭を抱える。

 隣に居るアリーチェも同時に私の方が上よと腰に手を当ててふんぞり返っていたが、ソフィーリヤは困ったように笑っていた。

 バジーリオにがしっと肩を抱かれたジルベルトは一刻も早くこの場から逃げ出したいと視線を彷徨わせるが、誰ひとり彼を助け出そうとする者は現れなかった。

 その後も二人は下らない事で言い争いを続けていたが、見るに見かねたのか、ミリアムが二人の元へと近づいて手をパンパンと叩いた。


「その辺にしておきませんか、お二人とも」

「ミリアムか」「ミリアム議長、私は別に……」

「皆、気を張る任務に戦闘もこなしており疲弊しています。今日の所はゆっくりと休んで頂きましょう」


 議長という立場ゆえにか、ミリアムには頭が上がらないようで、二人の諍いは彼女の一声で収められた。

 ミリアムの言葉通り、彼女とカルラは己が職務の待つ場所へ、任務に携わった各々は身体を休める為の場所へと向かう。

 戦艦ニーヴァレインの面々、ソフィーリヤとグェンダルは久々に実家へ帰省し、クヴァルは連合の宿舎へと戻る。

 アリーチェはバジーリオと共にエーデル・シュタインへの航行便へ。

 アルヴァルディの面々も宿舎に戻ろうとしたが、一人だけ足を止めて立ち止まる者が居る。

 それは行く先の無い鳴鳥であった。

 どうするべきかと表情を曇らせて戸惑う彼女に対して、ミリアムが声を掛ける。


「ナトリさん、今後の貴女の身柄ですが、テレンティアとの全面戦争になるまでは星団連合預かりとなります。それまではそうですね……、こちらで宿舎を用意しましょうか」

「それなら私のとこに帰なよ~。毎日可愛がってあげるわ!」


 ミリアムの提案を遮るようにカルラが二人の間に入ってくる。

 けれども彼女の申し出はあっさりとミリアムに却下される。


「ダメです。貴女、ナトリさんが居るとなると仕事に身が入らなくなるでしょう?」

「そんな事はないわ! 寧ろモチベーションが上がるってものよ」

「この間の会食の際、早めに切り上げたという言葉を耳にしましたが?」

「うっ! ……ぐぬぬ。アイツら……!」


 たった一度くらいなんともないでしょうがとカルラは駄々を捏ねるが、ミリアムは首を縦に振らない。

 それよりも彼女は鳴鳥がどうしたいのかを察しているようだった。

 二人のいざこざを前に鳴鳥はチラリとジルベルト達、アルヴァルディの面々の姿を見る。

 すると立ち止まっていたジルベルトと視線が合った。

 彼は鳴鳥の気持ちを汲んでか、やれやれと肩を落としつつ、ミリアムの元へと近づき申し出る。


「差支えが無ければ我々の船で預かる事は出来ませんか?」

「ジルベルトさん……!」


 ジルベルトの言葉に鳴鳥はパァっと顔色を明るくし、その様子にミリアムも笑顔で頷いた。


「それでは、取り敢えずそのようにしましょう。追って沙汰を下します」

「えぇ!? なによそれー!? あっ、ちょっと!」


 あっさりと承諾し、ミリアムは星団連合本部へと戻る。

 そのついでにゴネていたカルラを警護の者に運ばせていた。

 ずるずると引きずられながら遠ざかる彼女はひらひらと手を振り鳴鳥に対して「暇な時ご飯に行きましょ~!」と叫んでいたが、ミリアムに「仕事が終わらぬうちには駄目ですよ」と釘を刺されて項垂れていた。

 鳴鳥はカルラに手を振った後、ジルベルトに向き直って頭を下げる。


「あの……、またご迷惑掛けてしまいましたね」

「お前が使っていた部屋はそのままだから構わない。それに、開戦までに少しでも鍛えないとな」

「トレーニング、協力して下さるんですか?」

「乗り掛った船だ、致し方ない」

「……ありがとうございます!」

「おう」


 短く答えたジルベルトはドックに停泊してあるアルヴァルディに向けて歩く。

 その背中を追いかけるように鳴鳥は後に続いた。

 彼女の様子にスティングは口角を少しだけ上げて笑みを浮かべ、コンラードは鳴鳥の事を歓迎し、マリアンとアランはジルベルトが鳴鳥に優しくする様を見てニヤニヤと笑っていた。

 後者二人の馬鹿にしたような視線に気づいたジルベルトは二人の首を絞めに掛る。その様子に鳴鳥は自然と笑みを溢していた。


「(私……。ここに居ても良いんだよね……)」


 鳴鳥が心の中で訊ねると、アルヴァルディの面々が自分の方を向いて笑顔で頷いてくれた。






 星団連合議会議長ミリアム・ウーヌ・アストリアには休息が限られていた。

 現状は聖王星アストリアの聖王エドアルド・エルカーン12世が、自星民にのみ宣言した事だが、開戦の意志を窺わせる発言をした。

 それによって連合としては早急に対応策を練らなくてはならない。

 ミリアムは任務を終えた者達への激励を済ませた後、移動の車の中で昼食を取りながら、午後からの緊急連合会議の資料に目を通す。


「(相手は星ひとつ、ですが……)」


 ジルベルトが交戦した六機。それらが全てARKHED(アルケード)という事が懸念要因であった。

 ARKHED(アルケード)の機動力ならば、数機で掛かれば大型戦艦ニーヴァレインを沈める事は造作も無い事だろう。

 こちらのARKHED(アルケード)保有機の中で前線で戦う事が出来るのは、ジルベルト、ソフィーリヤ、クヴァルの三機のみであり、鳴鳥はまだ実戦に出せるかどうか分からない。

 アリーチェの機体はエーデル・シュタインの籍であるが、ジルベルトの名を出せばこちら側に付くであろう。

 連合所属の機体は後二機あるが、片方は訳あって所有者が戦える状態ではない。

 もう一機は自機。ミリアムの所有機であるが、立場上前線で戦う訳にはいかない。


「(望みは薄いですが、彼と彼女にも応援を要請しましょうか)」


 もう二機。連合所属の星が保有する機体があるが、所有者が少々癖のある人物で、軍に属する事を嫌い、基本的に戦闘には参加していない。

 けれども彼らが戦列に加われば戦える状態ではないとある契約者と自分が前線で動かなくて済む。

 上に立つ者が保身に走り他者を利用する。それはそのとある契約者が一番嫌ったやり方であるが、彼を守る為には致し方ない。

 幸いの所、その人物は外部と遮断された場所に居るので情報は操作できる。


「(また、貴方の力を借りる事になるでしょうね、ジルベルト・ジャンディーニ。そして今回は、ナトリ・ナナツカにも働いて貰わねばならぬようです)」


 『心』は痛むが、背に腹は代えられない。

 大切なものを守る為には犠牲なくしては成せない事もある。


「(私もヒトと同じように成れたという事でしょうか……?)」


 無機質で洗練された近未来的な町並みは自分の非常な考えを写したかのようで眺める事が辛く感じる。

 窓の外の風景から目を逸らすように資料が表示されたタブレットへと視線を落とすが、この先起こるであろうことを考えたくはない。

 ミリアムは仮眠をとる振りをして瞳を閉じた。




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