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第40話 暗く、重苦しい議会室 下

 ミリアムを乗せた車は程なくして連合本部に到着する。

 そして彼女は休む間もなく会議室に直行する。

 議会は大体想定通りに進行している。

 前回の議会と同様に穏健派は残っていたが、アランが記録した聖王の宣戦布告とも取れるミサでの言動と、ジルベルト機の交戦記録の映像を流すと穏健派の者達が騒めき出した。

 強硬派の者達も一機に対して六機で襲いかかる容赦無い攻撃に恐れおののき、より一層危機感を露わにして声を上げる。

 会場は進行が困難になる程パニックに陥っている。

 あらかじめ資料は配布しておいた筈だが、半信半疑であった者も多いのだろう。

 恐怖は伝染するかのように議会の空気を淀ませる。

 六機のARKHED(アルケード)が相手となると自分の星の防衛力を不安視してしまうのか、次はどの星が狙われるのかと憶測まで飛び交う。

 どうにかこの場を収める為、ミリアムは木槌を叩いて発言を慎むよう呼び掛ける。


「静粛に。我々がここで取り乱してはかの星の思惑通りとなるでしょう。今は手を取り合い堅牢なる砦を築くべく協力すべきです」


 理想的で綺麗な言葉を並べて結束を呼び掛けるが、不満を口にする者が現れる。


「アストリアは良いでしょうなぁ、連合軍本部もあり、ARKHED(アルケード)が手元に在るというだけで心配はいらないでしょう」

「それを言うなら私兵を囲うヴィルト・ルイーネの方が良い状況ですな。任務でARKHED(アルケード)が離れる事もありませんし」

「いやいや、我々の星の所有機ではありますが、彼らはこちらの言う通りには動きませんし、ただの名ばかりですよ」


 再び会場はざわめきだして収拾がつかなくなる。

 ARKHED(アルケード)を保有しない星から文句が出るのは仕方ない事である。

 その不満を解消する狙いで、ソフィーリヤ機とクヴァル機は常にアストリア外の任務に赴くように配備し、ジルベルト機はアルヴァルディで星団連合の星々を巡っている。

 連合所属のとある人物の所有機は動かせぬ状態で在るが、ミリアム機は迂闊に起動できない代わりに抑止力としての機能は果たしていた。

 それでも一機も保有していない星からすると不安はぬぐい去れないのだろう。

 他人事だと思われていた辺境の星の消滅。それは今や自分達に迫る身近な恐怖として疑心が募る。

 しかしこのままここで不安を口にしていても話は進まない。

 危機は身近に迫っているのだと焦る者は声を荒げる。


「議長の言う通りです……! このままここで言い争いや腹の探り合いをしていても埒が明きません。ここは一刻も早くかの星を無力化する事が先決ではないでしょうか?」

「そうだ! 無抵抗な星を一方的に滅ぼす星など生かす価値は無い!」

「滅んだ辺境の星の生き残りが新たなARKHED(アルケード)操縦者だそうではないか。その者に御旗を立てさせれば我々の大義名分となるだろう」


 ミリアム議長は徹底抗戦するとは一言も口にしていないが、話は戦う方へと転んでいく。

 口々に戦うように声を上げるが、その様子をミリアムは心の中で冷めた目で見ていた。

 彼女は気を取り直し、議題を先に進める。


「テレンティアは六機のARKHED(アルケード)を保有しています。それに対して我々は前線で戦う事が出来る機体はたったの三機、エーデル・シュタインのバルニエール商会の力を借りて一機、ヴィルト・ルイーネのニ機を合わせれば全部で六機となります」

「いや、しかし我々の所のARKHED(アルケード)操縦者は先ほど申し上げた通り、とても戦列に加えられる状況では――――」

「説得はこちらで行います」

「我々としては連合に名を連ねている以上、協力は惜しまないつもりですが、あの者達を説得など出来るのでしょうか?」

「任せて下さい」


 揺ぎ無い自信を見せるミリアムの言動にヴィルト・ルイーネの代表者は頭を垂れてお任せしますとARKHED(アルケード)操縦者の処遇の全権を譲渡した。


「それでは各星は防衛の強化を、テレンティアとの距離が近しい星には連合軍から防衛部隊を派遣いたします。それから、内部でテロが起こらないとは限りません。交通機関、並びに主要施設、公共機関など人の集まる所での警備を強化し、充分注意して下さい」


 何かあれば些細なことでも報告を上げるようにと付け加え、議会は閉幕した。


「(ヒトは戦う事を望んでいる……?)」


 薄暗い議会室。広いその室内にただ一人佇むミリアムは先程のこの場に集った者達の顔を思い起こす。

 脅威に恐れおののく顔、不安要素は早急に取り除けと焦る顔、戦の気配を感じて高揚する顔。

 全てが全て前向きに戦いを望んでいる訳ではない。


「(戦わざるを得ない状況、だから。そう、決してヒトは殺戮など望んでいない)」


 未だにヒトを守るべきなのか測りかねてはいる。

 議会に集まる者達は醜悪なものに見えるが、希望へのきざはしを見いだせる者達も居る。

 彼らに頼り切りな現状は決して良いものとはいえない。

 けれども多くの者を守ろうとするならば致し方ない。

 そう、言い聞かせながらミリアムは次の手を打つべく議会室を後にした。






 遠くに光り輝く星々。近くには青い星や土色の星、氷の欠片で形成された輪を持つ星、様々な天体が漂う宙域を一機の白いARKHED(アルケード)が凄まじい速さで駆ける。

 その一機を追うように追いかける三機。

 黒い三機は散開しては左右からの挟み撃ちを行う。

 白いARKHED(アルケード)は銃弾の嵐を避けつつ、反撃の機会を窺う。

 何度か銃を構えてみるが、狙いを定めている内に背後に回り込まれて邪魔をされてしまった。


ARKHED(アルケード)に弾数制限はない、一発ずつ狙いを定めて撃つんじゃ無く味方が傍に居なけりゃ連射すればいい」

「りょ、了解!」


 白いARKHED(アルケード)のコックピットに座りハンドグリップを握るのは、ひと月ほど前までは普通の女子高生であった奈々塚鳴鳥である。

 彼女は制服ではなくピッタリとした浅葱色を基調としたスーツ、連合軍規定のパイロットスーツに身を包んでいる。

 眼前のモニターに映されたのはぼさぼさっとしたグレーの髪を束ね、無精髭を生やした男、ジルベルトである。

 彼は戦闘中の鳴鳥に指示を出す。そして彼女はその指示に従って行動を移す。

 狙いを定めずに放った弾は敵機の内一機に命中し、撃たれた機体は爆発四散した。

 指示通りに敵を撃破した筈だが、ジルベルトが鳴鳥をよくやったと褒める事は無い。

 逆に彼は怒鳴り声を上げる。


「一機撃破した所で油断するな! 常に気を張れ」

「は、はいっ! ……あぁっ?!」


 忠告は一足遅く、背後からの銃撃を受けた鳴鳥の機体は大きく揺れ、眼前が真っ暗になった。

 そしてけたたましく鳴るブザーと赤く光る状況終了を伝える文字が浮かび、戦闘は終了した。

 開かれたコックピット型の機械から出てきた鳴鳥は、肩を落としながら溜息を吐いた。

 落ち込む彼女に近づくのは眉間に皺を寄せているジルベルトであった。

 任務を終えた次の日。鳴鳥とジルベルトは現在、星団連合本部直轄ARKHED(アルケード)研究機関、通称SARに併設されているARKHED(アルケード)の戦闘シミュレーターが置かれている訓練場に来ていた。

 任務中、衝撃的な出来事に見舞われ、再起不能に陥るかと思われた鳴鳥だが、彼女は前を向いて進もうとしている。

 上からの指示が無い間は自由に過ごしてよいのだが、休息を取ることなく少しでも強くなれるように彼女は訓練に励んでいた。

 普段のジルベルトならば一銭の得にもならない事をする筈がないのだが、鳴鳥が強くなりたいと相談した所、協力を申し出た訳だが……。


「お前、撃墜した時に目を瞑っていただろう」

「え、あ、あはは……。その、すみません……」


 ARKHED(アルケード)での戦闘経験が殆ど無い鳴鳥はやはり素人同然であるので苦労に絶えない。

 それでも持ち前の運動神経の良さと前向きな思考、軍人であり、ARKHED(アルケード)の操作に長けたジルベルトが指導するおかげか、徐々に機体の操作に慣れていった。

 だが、すべてが順調に進むわけではなく、敵の攻撃を避けていくのは上達が早かったが、撃破するのにはどうしても上手くいかないようだ。


「シミュレートだからか? それとも危機的状況に置かれないと引き金が引けないのか。テレンティアから脱出する際には躊躇いなどしなかっただろう」

「あ、あの時は無我夢中でしたので……」

「任務に付く前の射撃テストではそこそこの成績を出している。……怖くなったのか?」

「……」


 訓練場の隣。テーブルとイスが備え付けてある休憩所で身体を休めながら鳴鳥とジルベルトは先程のシミュレートの反省点を話し合っていた。

 彼の言う通り、鳴鳥は攻撃に迷いが生じていた。

 彼女はその原因は何故かという事が自分の中では分かっているが、口には出せなかった。

 言ってしまえばこれから成そうとすべき事が出来なくなる上に、協力してくれるジルベルトを非難しかねない。

 鳴鳥はボトルに入ったミネラルウォーターを飲んだのち、俯いて口をつぐんでいた。

 その様子に苛立ちを隠せないのか、ジルベルトはテーブルを人差指でトントンと叩きながら仏頂面で問いただす。


「お前がやる気無いのなら俺は降りるし、一緒の戦場に立つのは御免だと思う」

「……すみません。でも、私は……!!」

「何だ? 言いたい事があるなら言ってみろ」


 射抜くような、心の奥底を覗くような視線に耐えきれず、目線を再び下ろす。

 だがこのままではいけないと意を決し、鳴鳥は膝の上に置かれた拳を握りしめながらポツリポツリと胸の内を明かしていく。


「テレンティアで、久城センパイと対峙して、相手のコックピットに人が乗っているんだと認識して。それで……」

「フェルスボウデンでは盗掘者相手に撃っていたじゃないか」

「あれは偶々なんです! ほら、ARKHED(アルケード)の思念作動で……」

「ああ、そうか」


 つまりは人を殺すという行為、他者の命を奪う事に恐怖しているのだ。

 そしてそのように感じるという事は、平然とやってのけるジルベルトに対して否定的であるとも取れる。

 不快にさせたかと思いきや、ジルベルトは特に気にしていないようで、どうすればその悩みが解消できるのか考えていた。


「あの……。折角付き合って貰っているのにこんな考えで迷ってしまってすみません」

「いや、少し前までお前は普通の暮らしをしていたんだ。民間人が人の命に手を掛ける行為を恐れたり嫌悪するのは至って普通だ」

「そう……、ですか」

「寧ろクランドの方が異常だ。アイツには迷いが見えなかった。まぁ星ひとつ滅ぼしているのだからもう恐れる事など何もない、か」


 久城に対して辛辣な言葉を述べていたジルベルトは、鳴鳥の表情に陰りが見えた事に気が付き口を閉じる。

 いつもの彼ならば事実を述べて何が悪いなどと悪態をつきそうであるが、今の鳴鳥相手には棘のある言葉は言えない。

 首の後ろを掻きつつ申し訳なさそうに軽く頭を下げ、言い過ぎた事を素直に謝った。

 けれども鳴鳥は謝る必要などないと首を横に振る。


「良いんです。本当の事ですから……」

「……そうか」

「久城センパイは本気でした。だから私も……、本気を出さないと」


 全ての相手を無効化しながら戦うなどというのは無理な話である。

 ジルベルトなら可能かもしれないが、彼はそのような甘い考えを持たない。

 手加減をすればその生き残った兵士は再び新たな機体に乗って戦うだろう。

 すぐに止めを刺さないと味方が危機に晒される可能性もある。

 ならば躊躇いもせずに倒すのが一番であるだろう。

 理屈は分かるが、鳴鳥にはまだ覚悟が足りなかった。

 言葉ではなんとでも言えるが身体は追いつかない。

 そんな彼女の心情を知ってか、ジルベルトは気に病む事は無いと言う。


「お前が出来ないと言うのなら、俺が奴を倒す」

「……でも! 私が……」

「そうか。だったらそうならない為にも訓練を続けないとな」

「は、はい……! そうですね」

「まずはさっきのパターンのやり直しだな。それから近接攻撃の対応も覚えないといけない。やる事はまだまだあるぞ」

「お手数掛けるようですが……」

「……付き合うぞ。お前には借りを返して貰うまで生きていてくれないと困るからな」

「よろしくお願いします……!」


 これまで悩んでいた事を吹き飛ばすように、鳴鳥は「よしっ!」と声を出し、頬を両手でペチペチと叩いて気合いを入れ直す。

 その様子にジルベルトはフッと笑みを溢した。




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