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神龍の娘  作者: ゆなりん
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神様の娘 残されたもの

秋が終わる頃、母は美織伯母さんの力があっても、もう起きることができなくなっていた。


もうすぐ母の誕生日が来る。

去年は、昼間2人でこっそりケーキを食べに行って、弟2人に怒られた。


父は兄とわたしの2人だけを呼んで、2つの選択肢があることを話した。


兄も、わたしも、全く同じ答えだった。父も同じ答えを選んでいる。


冬の初め、父は自分の親兄弟と、母の親兄弟を集めて、2人の寝室に案内した。


これが両親の親族になる。


父は自分の2人の弟と、母の2人の兄、そしてそれぞれの配偶者も集め、話を始めた。


「突然、皆さんに集まっていただき、すみません。本当は、まだ、もっと後になるはずだったのですが。」

父は、言葉を切って下を向いた。


ベッドの上の母の呼吸が、かなり細くなっている。


「陽織を、連れて、行きます。」

父がそう言って、母の両親に頭を下げた。

「本当に、申し訳、な、い。」

父は泣いていた。


そんな父の肩を、母方の祖父が抱きしめた。

「ありがとう。黎人くんは、頑張ってくれたんだ。」

父はずっと涙が止まらない。


意味がわからない弟たちは、わたしの服の裾を引っ張って、わけを教えてほしいと、目で訴えている。


わたしは、父を見ていられず、下を向いて唇を噛む。兄は、父をしっかりと見つめている。


「子どもたちのこと、よろしくお願いします。」


父が頭を下げて、兄の方に向く。

「会社のことは、お前に任せた。わからないことは、悠人叔父さんと、湊人叔父さんを頼りなさい。」

と言う。


次にわたしの方を向き、わたしを抱きしめて

「ごめんな。姫花のお母様、連れていっちゃう。ごめん。」

そう泣いて言った。


弟2人には

「お兄様と、お姉様の言うこと、よく聞くんだぞ。ちゃんと見てるからな。あとは、お祖父様やお祖母様の言うことも。」


そう言って、頭を撫でて、ギュッと抱きしめた。

母も顔だけ横を向き、泣いていた。

母が手を伸ばして、美織伯母さんに、消えそうな声で、

「おねが、い、ね。」と一言。


どんなに若く見えても、やっぱり父は父だった。

母は母だったのだ。


そして、父は最後に母を抱き上げると、ブワッと形を変えて大きな龍の姿に変わった。


そして、そのまま2人は、光に包まれるように、輝き。


気づくと、2人の姿は、もうなかった。

驚きと、突然の別れを理解できず、弟2人は母のベッドの中や下を見て、母の姿を探す。


兄はギュッと目を瞑ると、悠人叔父さんに

「社葬の準備をお願いします。」

と言った。

「社葬?」

一瞬、兄が何を言っているのかわからなかったが、確かに2人が神界へ行ってしまった、と言うことは、この世界では、死を意味するのだ。


それからの大人たちは、悲しみを紛らわすように、バタバタと色々な手続きや、今後の話などを話し始める。


その時、美織伯母さんがわたしを手招きし、母の衣装箪笥の前に連れて行った。


美織伯母さんが手にした鍵で、箪笥の扉を開くと、そこにはたくさんの日記帳があった。


「陽織から、頼まれていたの。この時が来たら、姫花ちゃんに、渡してくれって。」


それは、母が高校一年生の時から、25年以上つけていた日記だった。


年月を追って開いて行くと、


神様の花嫁と言われて嫌だったこと。

大好きなスケートをやめさせられて、悲しかったこと。


テストで赤点をとったこと。

(え?赤点?)


初めて霊と対峙したこと。


父との出会い。


父を拒否するためにとった色々な対策。


あまりにも、面白過ぎて、わたしは泣いているのに、思わず笑ってしまった。


わたしが笑ったのを見て驚いた弟たちがそばに来る。


弟たちも覗きこんで、いつのまにか一緒に読み始めていた。

時折、

「父上、ダッセー。」

とか

「ぼくたちのこと、言えないじゃん。」

と、いいなが、2人も笑い出していた。


すると、そこから2枚の写真が落ちてきた。


一枚はまだ中学生くらいの母が、スケートを滑る美しい姿。


そして、もう一枚は父と出会った高校生の時の、2人の写真だった。


母は、父の頬にパンチをしていた。


しかしどちらの母も美しく、そして、幸せそうだった。


きっと、母は神様の花嫁になれて、幸せだったのだと、わたしはそう思う。




あれから一か月。

一月の初めに、両親の社葬が行われた。


社葬、と言っても会社の人だけでなく、両親の知人や友人たちも来ていた。

2人の写真を見て、多くの人が涙する姿に、わたしたち兄弟も、両親がいなくなったことを、改めて感じた。


あの日、父はわたしと兄に聞いた。

このまま、母だけ命を閉じてしまうことを選ぶか、父が母を連れて神界へ行き、父と母の2人が消えるか。


母は、自分が亡くなったあと、新しい花嫁を探して欲しいと願ったそうだ。


しかし、父はそれだけは譲れなかった。

そして、わたしたちも、父がたとえ残っても、父と母を引き離す選択はできなかった。

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