第54話 「よぉくお考え下さいませ」
「よぉくお考え下さいませ」
紗栄子はそれ以上のことは言わなかった。
「まさか」
「祭さん、これ以上は」
紗栄子は具体的なその件にかかわりたくない、と言っているのだ。あくまで西条家が独断でやった事にして欲しいと。
「そろそろお屋敷に戻られてはいかがですか?」
紗栄子はもう帰れという態度だった。仕方なく祭は嬬森家を後にした。
元々は嬬森家の、というか嬬森紗栄子の本心を質しに行ったつもりだったのだが、とんでもない提案を受けてしまった。
直接紗栄子から言われたわけではないが、彼女の希望を完全に叶えようとすると伶佳を西条家内に幽閉するしかなかった。
精神を病んでしまったとかの理由を付けて表には決して出さないようにするのだ。死にだことにして、ということもあり得る。
いずれにしても以後伶佳が表舞台に立つことは一生無い。
確かに紗栄子は直接伶佳を幽閉するよう言ったわけではない。だから西条家が勝手にやった事になってしまう。
ただ太田にはちょっかいを出させない、ということは伶佳が自由に動けるのであれば無理な話だった。伶佳が結婚しても止らないだろう。
伶佳の自由を社会的にも物理的にも奪ってしまわないと目的が達成できないのだ。
「私の一存ではどうしようもないわ。とりあえず御館様にご報告をしなければ」
それにしても紗栄子はどうしてしまったのだろう。太田も巻き込んで西条家の悲願の邪魔をするつもりだと思っていたのだが、贄をすべて用意できるとは。
「まさかね」
用意できると安心させておいて星辰が揃うタイミングで裏切る、というつもりだろうか。確かにそれが一番効果的ではある。
「途中経過をこの目で確認する必要がありそうね」
全てが揃うまでは逐一確認することが必要だと思った。並行して方波見家や神崎大警視にも保険として動いてもらう。贄が重なってしまっても仕方ない。
いずれにしてもあの大人しい紗栄子の提案だとは思えなかった。西条家を裏切るとしても協力するから伶佳を排除して欲しい、という提案も。
「あれがあの子の本性なの?」
祭の問いには誰も応えてくれなかった。
「遅かったわね、ちゃんと紗栄子に言い聞かせて来たんでしょうね」
戻るなり伶佳に大声で叱責される祭だった。今から監物に提案しようとしている事への罪悪感が少し薄れた気がした。




