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Lost19 二人の魔王  作者: JHST
第四章 終わりの始まり
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⑤底辺の男を想い続けた末

「エコーはいつも俺が欲しい意見を、必要な時に言ってくれる」

「有難うございます………ですが、隊長は私が欲しい言葉を、必要な時に言ってくれない事が多いので困っています」

「そ、それはっ………むぐぉ!」

 タイサが慌てて起き上がろうとしたが、エコーがそれを許さず、再びタイサを強く抱きしめた。


「隊長の性格は分かっているので、このままの体勢で結構です。私としては、今聞きたいのですが………お願いしても宜しいでしょうか?」

 彼女は頬だけでなく、耳まで赤くなっている。顔から火が出るかのような一瞬の時間を、エコーは待ち続ける。

 だが、中々タイサから簡単な言葉が出て来ない。


「隊長?」

「す、すまん。今何て言えばエコーが喜んでくれるのかと、その………良い言葉を考えて………ぎゃぁぁぁ」

 エコーは恥ずかしさを通り越して、爆発した感情に身を任せるように、全力でタイサの頭を絞めた。

「ど、どこまで不器用なんですか!? もう、単語で良いですから! 文章とか別に要りませんから! 一言で簡潔に、お願いします!」

「わ…分かった! 分かったから!」

 僅かに力が緩み、タイサはエコーの胸の中で小さく咳ばらいをすると口を開けた。


「え、エコー」

「はい」

「あ、愛してるぞ?」

 再びタイサの頭が絞められた。タイサの頭の中から聞こえてはいけない軋みが反響している。

「何で疑問形なんですか! これが普通の女性だったら終わってますよ!? あぁ、もう、絶対に『はい』って答えますから、もう一回言って下さい!」

 エコーの力が再び弱まる。


 タイサも、自然と体の力が抜けていった。

「………愛している。エコー、俺にはお前が必要だ。これからも俺の傍にいて欲しい」

「はい。それでいいんです」

 エコーがようやく聞けたとタイサを抱きしめる。タイサも胸のつかえが取れたのか、彼女に体を預ける事にした。



 数分後、二人はようやく体を起こした。エコーはコートの襟を正しながら冷たい空気を体に入れ、手すりを背に座るタイサの前に背中を預けるように座る。

 タイサは何も言わずに彼女を迎え包んだ。

「しかし、俺が言うのも何だが、こんな流れで良かったか?」

「何言ってるんですか? あそこまでしないと、隊長は一生言わないじゃないですか」

 エコーの言葉に、タイサは何も言えなかった。


「隊長。次はチューですからね」

「うぐぅ」

 エコーが自分の指を口に当てて音を立てると、タイサは耳を赤くしながら顎にしわを寄せる。

「覚悟してください。これからも私が支えてあげますから」

「むむぅ」

 唸るしかないタイサに、鼻歌交じりの彼女が満面の笑みで時間を過ごしている。


 タイサは彼女の後姿を見降ろしながら、全てに感謝するしかなかった。自分の迷いを洗い流し、自分の性格を分かった上で、一緒にいてくれる女性が目の前にいるのだ。

 その安心感と、彼女を守ろうとする沸き上がる気持ちを『愛』と呼ぶには短すぎ、何かに例える事も出来なかった。

 タイサは情けなくも、ようやく全てを理解した。

「エコー。俺なりに考えた案があるんだが………聞いてくれるか?」

「隊長。ここで仕事の話ですか? 本当に不器用ですよ………でもいいですよ、聞かせて下さい」

 困った顔で口を尖らせるエコーが振り向き、しかしすぐに笑顔で答えてくれる。

 

 その日は何時まで起きていたか覚えていない。

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