④底辺の隊長と呼ばれた男
「俺はただの騎士団長、いや今は団長ですらない。硬さだけが取り柄で底辺だと馬鹿にされ続けてきた男が、どうして世界の決断を任される事になったのか」
「………隊長」
エコーは初めてタイサの心の弱さを見せられていた。アリアスで戦った時は、ルーキーの死で落ち込む事はあっても、ここまでの表情を見せてはいなかった。
「………黒の剣をさっさと手放してしまえば、どれだけ楽になる事か」
タイサは震える手を握りしめ、強く目を閉じる。
「隊長………失礼します!」
「エコー? どわっ!」
瞬間、エコーはタイサに飛びかかった。
彼女はタイサの頭を抱えるように両手を回すと、そのまま自分の重心を後ろにずらして、タイサを引き寄せるように倒す。
「エコー、一体何を………ふがっ!」
エコーを床に挟むように倒れたタイサが急いで起き上がろうとするが、エコーはタイサの頭を抱えた腕を緩めなかった。
むしろ力強く自分のコートへと沈めていく。
「す、すみません。ですが、今だけは許してください!」
エコーは頬と耳を赤くさせながら、大きく深呼吸を繰り返す。呼吸をする度に上下する胸が、タイサの顔の位置を強く意識させる。
「………隊長は、ただの隊長です。それ以上でも以下でもありません。それが、どうして多くの人達の事を、必要以上に意識しなければならないのですか?」
「………だが、俺の決断で、むぐぅ」
「違います」
エコーは自分の体温が上がっていく事、心臓の音が大きく弾んでいる事を自覚していた。だが、それでも腕の力を緩めず、言葉を続けようと両手に力を加える。
「誰が決断しても、決断しなくても、どこかで人は死んでいくのです。今この瞬間でも、世界のどこかで人は亡くなっているんです。隊長は、そこまで人の死を意識しているのですか? 違いますよね?」
世界の死は、単なる言い訳だとエコーは切り捨てた。
「隊長が心配している事は昔から何一つ変わっていません。隊長の迷いは………私達や妹のカエデちゃん、デル団長や王女殿下といった仲間の死を意識されているだけです。単純に。自分の知る人を心配しているだけなんですよ」
「………エコー」
タイサの力が徐々に抜けていく。
エコーも両手の力をゆっくりと緩めた。
「いつも通りで良いんです。隊長の大切にしている人達がなるべく困らない方針を決めて頂ければ結構です。それ以外の人なんて気にしなくていいんです。もしそれを責める人がいるのならば、私がその半分を引き受けます」
タイサは何も答えなかった。
だがその手の震えは止まっている。
そしてタイサの手がエコーのコートを掴んだ。




