第十杯 俺たちの追放はこれからだ!
「──えっ?」
カウンター席で沈む冒険者の前にマティーニのグラスが置かれる。
「あの、俺こんなの頼んでないですけど……」
それは店長からのサービスだった。
彼のパーティーから累計10人の追放が
達成された記念として出されたものだ。
「ははは、喜んでいいんですかねこれは……」
魔法剣士アルディンは流れ者で、貿易都市には先月着いたばかりだ。
彼が新参と知りながらも仲間になりたいという冒険者が後を絶たず、
それに比例して変な人間まで引き寄せていた。彼は美男子だった。
「そっか、10人も追い出しちゃったのか…
みんな俺と一緒に冒険したがってた人なのに
なんだか悪い事しちゃったなあ……
やっぱり俺にリーダーなんて無理だったのかなぁ」
グラスの中でオリーブを転がしながら語るアルディン。
なんとか笑顔を取り繕ってはいるが、その声には覇気がない。
この憂いを帯びた表情にグッと来るのだろう。憎い奴だ。
10人も追い出したから酷いリーダーというわけではなく、
追放現場を観察した従業員も「納得できる理由」だと語った。
彼のパーティーには現在5人の女性冒険者が在籍しており、
男はアルディンだけである。いわゆるハーレムというやつだ。
戦士、暗殺者、回復術士、攻撃術士、付与術士…と、役割が分かれており
決して性欲を満たす為の要員ではない事が窺える。ちなみに全員美少女だ。
そんな彼のハーレムに群がる者がいた。男性冒険者たちである。
おこぼれに与ろうとする者、新たなボスの座を狙わんと画策する者、
アルディンはその手の男性冒険者とは上手く人間関係を築けなかった。
アルディン目当てで参加する女性冒険者もいるようだが、
なぜか謎のケガを負ったり原因不明の病気に見舞われたりと
不幸な出来事が続き、現在の女性メンバー5人から変動はない。
彼のハーレムでは特化型の仲間たちが戦闘の実働隊として動き、
バランス型のアルディンは指示役やら雑用やらをこなしていた。
その光景をメスライオンの狩りと嘲笑う者もいる。
オスライオンはサボっているのではない。体力を温存しているのだ。
それに鬣が目立ちすぎて小型・中型相手の狩りには適さない。
オスライオンはキリンやゾウ、バッファローなど大型専門のハンターだ。
一般的に百獣の王の名で知られるライオンは強さの象徴として、
国旗のデザインや国獣として扱われる事が多い。
そんなライオンには意外なライバルが存在する。ハイエナだ。
ハイエナといえば他者の利益を横取りする、卑しいイメージを
持つ方も多いだろう。しかしそれは大きな誤解である。
実際には群れで連携して自分たちで狩りをするハンターだ。
狩る獲物がなく、屍肉を漁っている姿が世間に誤解を与えたのだ。
サバンナでは常に過酷な生存競争が繰り広げられている。
他の動物が狩った肉を横取りするのは、なにもハイエナだけではない。
ライオンだって横取りをする。むしろハイエナは“される側”でもある。
体格が違うのだ。それでも群れを守る為には格上のライオンだろうと
立ち向かう勇気を持つ、誇り高き動物こそがハイエナなのだ。
ハイエナが誤解される原因は発達した顎と消化機能にもある。
他の動物では噛み砕けない、硬い骨を彼らは食せるのだ。
その骨までしゃぶり尽くす姿が悪いイメージを持たせるのだろう。
しかし彼らがいるおかげで食べ残しが散乱しない事から、
“サバンナの掃除屋”の異名で呼ばれる事もある。
このようにハイエナは悪い動物どころか有益な動物であり、
サバンナの環境にとって必要不可欠な存在なのだ。
自ら労せずに利益を求めて群がる人間を「ハイエナ野郎」と
揶揄する事があるが、それよりもマルオジリスのほうがイメージが近い。
マルオジリスは砂漠に住むジリスの一種である。
日中は日陰で過ごして余計な体力を使わずに温存し、
ある動物を尾行しようと待ち構えているのだ。
同じくジリスの仲間、ハリスレイヨウジリスである。
ヒートダンピングと呼ばれる裏技で体温を調整しながら
灼熱の環境下でも自ら餌を探しに行く動物だ。
栄養豊富なサボテンの花をハリスレイヨウジリスが採り、
抱えきれず落としてしまったものをマルオジリスが拾う。
文字通り「おこぼれ頂戴」状態である。
リスという生き物は適応力が高く、世界中に広く分布している。
大抵の野生動物は人間を警戒して近寄って来ないものだが、
リスの中にはその愛くるしい外見を利用して人間に近づき、
餌を貰うことで生存している個体も存在するようだ。
人間と共生関係にある生物といえば蚕が思いつくだろう。
カイコガという蛾の一種であり、幼虫が分泌する繭糸を
人間が絹として利用しているのだ。その歴史は5000年にも及ぶ。
蛾の一種と聞いて警戒する方もいるだろうが、
成虫の姿は可愛らしいので安心してほしい。
しかし、白く目立つ外見のせいで外敵に狙われやすく
飛翔能力が退化しており野生環境下では生存できない。
彼らは人間の世話なしには生きられないのだ。
人と動物、誰しもが共存共栄の関係にある。
この世界に不必要な生命などない。
弱者にも強者にも役割がある。
それを忘れてはならない──。
話をアルディンに戻そう。
「Zzz……」
「お客さん、閉店ですよ」
魔法剣士アルディン:初めてのお酒だったそうです
十子メモ
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