#バズったこともないのに炎上した令嬢、平民の恋人と二人で一人のインフルエンサーになる(1/1)
後日。
今日のはちみつキッチンは、ひときわ多くの客で賑わっていた。
「ねえ、今日のトレンド見た?」
窓際の席に座っている、MNSの書を操作する小柄な女性が、連れ合いの赤毛の女性に声をかけた。
「見た見た! 結婚式の話題一色だよねー!」
飲んでいた『ローズ・マイアランジティー』から顔を上げて、赤毛の女性もMNSの書を取り出す。
「『身分違いの二人、ついにゴールイン!』とか、『インフルエンサー夫婦の誕生!』とか、皆盛り上がってるね!」
二人の女性が見ているトピックの欄は、今この帝国中が注目している、あるカップルの結婚式の様子を撮影した念写で埋まっていた。
「そうだ、これ見て」
小柄な女性が、カバンからあるものを取り出す。赤毛の女性が目を丸くした。
「『聖女レジーナ』と『ハニー』のコラボグッズのブックカバーじゃん! あれ、発売から秒速で売り切れたんでしょ!?」
「私、使用人を一週間前からお店に並ばせたもの」
友人が大事そうにMNSの書にブックカバーをつけるのを、赤毛の女性はうらやましそうに見ていた。
最近は、インフルエンサーが商店なんかとタイアップして、雑貨品等を作るのが人気になっている。そんなグッズを持っていることは、流行に敏感なことを示す指標の一つだった。
「あっ、『聖女レジーナ』のことも、トピックに載ってるよ」
やっとブックカバーから目を離した赤毛の女性が、自分のMNSの書を見て口を開く。
「えっと……『インフルエンサーカップルの晴れの舞台に、お忍びで参列していた皇帝陛下。彼と鉢合わせた聖女レジーナは、失神して病院送りになった』……? えー、嘘だぁ」
下らない、とでも言いたげに、赤毛の女性は鼻を鳴らした。
「私も、ちょっとでいいから、結婚式、覗いてみたかったなー。ここでの様子をMNSに上げたら、絶対にたくさんの反応があるじゃん? こんなにトレンドライクな話題って他にないよ!」
「トレンドライクって言ったら……」
小柄な女性が、ふと思いついたように言った。
「私ね、実は今、気になってる平民の男の子がいるんだけど」
「本当に!?」
赤毛の女性の目が輝く。
「告白しちゃいなよ! 貴族と平民の組み合わせとか、バズ間違いなしだよ!」
「やっぱり!?」
盛り上がる二人が見つめる先には、トピックのトップを飾る、何十万ものいいねがついた投稿があった。
その念写の中では、新たな流行を生み出したインフルエンサーの夫婦が、幸せそうに笑っている。
『私たちのこと、これからもずっとよろしくお願いします』
投稿には、『#末永く一緒に』というハッシュタグが添えられている。
それはまるで、『これからも二人で一人であり続ける』という、あの時恋人同士だけで交わした約束を、今度は全国民の前で宣言しているかのようだった。




