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ロタとイリカ 独居老人、彼女を造る。  作者: KIZOOS
第三部 クミマル編(ロボット外見の章)
49/83

48 イリカ製作チーム、集結。

  百十九、


 翌朝。週末の連休、初日。

 ロタは早起きし、始発の列車で出発。

 首都圏を離れて、南方の遠い地方にあるマノウの会社へ向かうのだ。

 ついに、その日が訪れた。


 途中で、高速列車に乗り換える。車窓からは、午前の日差し。初夏を思わせる、強い光。

 来週辺りから梅雨入りのようだが、この週末は晴れるようである。ロタの住む首都圏も、マノウの住む南方の地方でも。

 ロタの服装は、グレーのブレザー。生地は薄め。仕事用よりはラフな格好。が、ネクタイは締めている。


 ハヤミも今頃、飛行機で同じ場所を目指しているはずである。

 一部をコピーされ、小型サーバー一個分のみ分離された、人工知能イリカを持って……。

 クミマルは、マノウの住む県の、近隣の地方都市において、昨日まで別件の仕事もあった。

 今日は、そこから直接向かうという。


 これまで、イリカ製作に携わってきた主要メンバーが、本日、いよいよ一堂に会するのである。



  百二十、


「遅いぞ、ロタ!」

 第一声は、ドワキに迎えられた。


 夕方、マノウの会社(町工場)にロタが到着すると、マノウのほか、ドワキ、ハヤミが既にそろっており、作業を進めていた。


「いやあ、やっぱり飛行機は速いもんだな」

 ロタが大声を上げる。

 コンクリートの床の工場は、室内が広い。入り口をくぐっても、ドワキたちがいる場所は、まだ十数メートルはたっぷり離れていた。

 また、旅先のテンションもあり、つい声もでかくなる。

 ドワキが返す。

「そうとも。お前さんも飛行機乗れよ」

「乗ったこと、ないんだよなあ。何か怖くてさあ」

 親友のドワキは、もちろんそのことを既に知っている。もっとも、ロタも、そこまで怖がっているわけでもなく、公私ともに乗る機会がなかったという事情もあるが。


「えー、どういうビジネスマン生活を送れば、飛行機を避けて通れるんですか?」

「そりゃまあ、ハヤミさんは連日、国際会議で世界中を飛び回ってますからねえ」

「別に連日じゃないですよ」

 軽口っぽいロタとハヤミのやり取りに、マノウとドワキが笑っている。ハヤミも、いつもより陽気な感じだ。


 ロタは、三人の方へさらに近づいていきながら、

「じゃあ、あれですか、皆さんもう、だいぶ前に到着されて?」

「ええ。ドワキさんが午前中、ハヤミ先生はお昼前にいらっしゃいました」

 マノウが答える。

 いつもの青い作業着姿、もしゃもしゃした豊かな黒い髪の毛。静かな声音。

 マノウは今日、短時間に、初対面の人を二人も出迎えたわけだ。電話等では何回も話している相手だが、多少ストレスだったかもしれぬ。

「そりゃ早いですな。何か、済みません、お待たせしちゃいましたかね」

 今さら、ロタは頭をかいて会釈をする。

 ドワキは、

「お陰で、作業がはかどったよ。もっとも、僕が来ても手持ち無沙汰で余りお役には立てなかったけど、ハヤミさんがいらっしゃってからは、」

「とんでもないです。そもそもの見積書はドワキさんがお書きになったのですから。詰めの話し合いが出来ました」

 マノウが、かぶりを振って口を挟む。


 まさにそうだ。

(マノウさんと最初にコンタクトを取ってくれたのだって、元はといえばドワキなんだし)

 と、ロタは思い出す。

 ドワキとマノウは、直接顔を合わせたのは今日が初めてだが、既に打ち解けているようだ。


 ドワキは、スーツと作業着の中間のような服装だ。

 レンガ色の上着。背広よりは体に密着しており、光沢もある。動きやすそうだし、少々の汚れなら目立たなそうだが、改まった来客にも対応できるデザイン。

 下はネイビーの細身ズボン。


 マノウはドワキより十歳ほど若いが、やせ型の男性という点では共通していた。

 ただ、イメージで言えば、マノウは堅物かたぶつ、ドワキはソフトな社交家であろうか。男性陣三人の中で、ドワキが唯一ひげを生やしているのも、自由な感じがする。

 実際、ドワキが教授として勤務している大学においても、このあごひげは学生たちからトレードマークとして認知されている。


 そのあとも会話は続いた。

 行きがかり上、ロタは聞き役となった。

 三人の話を総合すると、どうやら、マノウとドワキが見積書を確認しつつ、傍らのロボイリカを眺めて、それなりに話が進んだところへハヤミが到着した、ということのようだ。


「それ、お一人で運んでこられたんですか?」

 床に置いてある台車を手先で示しながら、ロタがハヤミに尋ねる。

 台車は見るからに堅牢そうな銀色。キャスターの周囲にも部品が様々取り付けられており、防振仕様となっているようだ。でこぼこした悪路で押しても、上に載せた物体は無事であろう。

 今は、キャスターにはロックが掛けられ、台車は床に固定された状態だ。


 台車の上には、直方体が一つ、横置きにされている。大きい。

 ぱっと見の印象は、銀色の巨大な段ボールといった感じである。

 大人が二人がかりでようやく持てそうなサイズ。もっとも、内部は回路や金属部品の集積なので、人の手では持ち上がらない。

 サーバーであった。

 中は人工知能である。「脳イリカ」の一部分のみをコピーした物。


 ロタの質問に、ハヤミは軽く首を振り、

「いえ、一人ではないです。脳イリカちゃんの件を知ってる研究員はごく一部ですが、そのうちの一名に手伝ってもらいました。あと、おっとにも頼みました」

(うわあ、そうだったのか。同僚のみならず、御家族まで駆り出されて)

 と、ロタは恐縮し、

「じゃあ、お三方で飛行機に乗られて?」

「はい。もちろん、このサーバーは、同じ機内にある専用の輸送庫で運びました」

「お手伝いいただいた他のお二人にも、ごあいさつしたかったですな」

 ハヤミに対して残念がるロタへ、

「まあ、お二人はすぐ帰られたし、僕らも会釈したくらいだけどな」

 とドワキ。横でマノウもうなずく。


「なるほど。じゃあ、帰りも?」

 ロタがハヤミに問うと、

「はい。明日の午後、同じ二人に、この近くまで迎えに来てもらう手はずになっています」

 ハヤミがほほえんだ。

「何か、色々申し訳ない」

 ロタが頭を下げると、

「いえいえ」

 ハヤミが歯を見せて笑う。


 ハヤミは、幅の広いズボン。いわゆるワイドパンツ。膝の曲げ伸ばしもスムーズに行くであろう。やはり動きやすそうだ。黒。

 上は白ブラウス。カフスにはフリルが付いており、長袖もモコモコしていて、全体的にふわっと女性らしい。

 大きめの丸眼鏡と、後ろで一つ結びにした黒い長髪は、いつも通りだ。


 台車に載せられたサーバーからは、何本ものコードが伸びており、そばにあるロボイリカへ接続されていた。

 新たに改良されたロボイリカだ。

 最近出来たばかりの、試作第三号である。

 例の、金属製の巨大な椅子に座らされていた。


 新ロボイリカの外見は、既にロタも、ネットを通じて見せてもらっていた。

 イメージ的には、試作第二号を二回りほどスリムにした感じだ。金色の全身、だ円の飛び出た透明の両眼、まだ頭髪のない丸い頭。

 基本、外見は変わっておらず、いまだ、人間のような姿はしていない。

 ただし、今回からは服を着せられている。

 紺色のワンピースである。


(そうか。既に、脳イリカとロボイリカはつながれているのだな。電源とかは、まだこれから入れるのだとしても)

 ロタは、緊張で胸が高鳴るのを自覚した。


 その時であった。

 工場入り口のドアがあく音がし、


「あー、もう全員そろってるよ。少なくともロタさんよりは早いかと思ってたのになー」

 若い女性の声と、

「あら、本当ねえ。私たちが最後でしたかあ」

 のんびりした、年配女性の声。

「おお、そろったね!」

 振り返ったロタが叫ぶ。

 リモリとクミマルが入ってきたのだ。

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