第5話「服従アルテミス」
現在のお話。話数でいうと第2話の続きです。
サンクスマンとの会話で残ったもやもやを頭の片隅に置いて、私はネプチューンの研究室に来ていた。歩いている私の目の前では、満足そうな彼女の姿が。
「あれ、ガイアは?」
「ボスは今急用で手が離せない。で、何の用だよ」
「マジかぁ。ま、しょうがない。あいつもいろいろと忙しいんだろうからな。ああでも、デートの約束くらいはしたかったな。…そうそう。実は、頼まれていた物が完成したぜ。早速渡そうと思って呼んだんだよ」
彼女がそう言って渡してきたのは、三叉の爪が備わった黒い金属製の籠手のような物だった。手首よりやや肘側の部分にあるウインドウには、雲に隠れた月を表しているらしいマークが表示されている。
「どうだ、なかなかカッコいいだろ? 名付けて『月哮変身ブレス・ウルムーンクロー』。私達が持ってる『観測変身手甲・ホロスコーブレス』の機構を簡略化させただけだけど、雑魚連中とやり合うだけの能力はあるぜ?」
「…中二病くせぇ名前だな」
「なんだよー、人のネーミングセンスに文句つけるのか?」
「…わかったよ」
「んじゃ、そういうことで。…んお?」
彼女が話を区切ろうとしたとき、ホロスコーブレスからボスの声が聞こえてきた。
『緊急会議を行う。会議室に集まってくれ』
「緊急…か。これは行くしかないよな?」
「ああ」
秘書の私にさえ言わずに始める会議…何かあったのだろうか?
…まあ、おおかたの予想はつくけれども。
◆
私達が会議室に入ったとき、他の部長達は既に着席していた。
「みんな、聞いてくれ。ついさっき、密為碧葉がここに侵入してきた」
「また!?」
「また来…はっくしょん!」
「彼女も懲りないねぇ」
密為碧葉。前に私達の組織に一般人として接触したが、それ以来「危険人物」として、いわばブラックリスト入りしている少女。なぜこんなにも慎重に扱われているのかというと、Mr.サンクスマンへの連絡先…はあいつ自身が教えいたから良いのだが、どういうわけかこの拠点の場所と構造を彼女は知っているからだ。そのせいで度々ここを襲撃してくるものだから、私達も常に警戒しなければならない状態にある。
「やはり、彼女は我々の脅威だ。ここはグロリアス・リリー全員の力を結集させて挑むべきではないのかい?」
「「「「「「「…グロリアス・リリー?」」」」」」」
「サンクスマンが新たに考案した言葉だ。気にしないでくれ」
「あれ、前に『ユリリアント』って単語聞いたことあるんだけど、違いは何?」
「『ユリリアント』は百合好きの人間。それに対して『グロリアス・リリー』はその中でも驚異的な百合脳を持ち、かつ変身能力を備えた者のことをいうんだよ。前者は男女を問わないが、後者は女性限定の言葉なのだよ。例を出すなら、私は『ユリリアント』だが、ガイア君は『グロリアス・リリー』、といった具合だね」
「ふーん」
「そ、それよりも、私達も何か対策を考えないといけないんじゃないんですか?」
「マーズの言う通りだ。そこで…だ。ネプチューン、何か新しい武装の案はないか」
「相変わらず、生け捕りにする方針は変わんないのな…。ないこたないけど…たとえ完成しても、まだ使えないぜ?」
「はわ。どうしてですか?」
「私が作った、マーキュリー、ヴィーナス、ガイア、マーズ、ジュピター、サターン、ウラノス、ネプチューン、八つ全てのクリートスターリングの能力が解放されてないからさ。みんな変身はできるけど、固有能力の発揮にまでは至ってない。ガイアは天性の適応力でプロトクリートスターリングの頃から扱い慣れてるし、私とウラノスはアンロック済みなんだけど、他のメンバーがねぇ…。まあプロトだけは、私が作ったわけじゃないけどさ…」
「はっくしょん! …ずず。じゃあ、何したらいいの?」
「ん? ああそれで、これから五人にはそれぞれ『思い入れのある場所』に行って、感情レベルを上げにいってほしいのさ。今までの傾向からして、それが能力解放の一番の近道だから」
「『思い入れのある場所』って例えばどこ?」
「んー、人生で一番泣いた所とか、ガイアと初めて出会った所とか…かな」
「私達がいない間、組織はどうするのさ?」
「いいんじゃない? 文武両道才色兼備の大首領様に任せておけば」
「俺は首領じゃないが…いいだろう。各自、行動を開始してくれ」
ボスの言葉のあと、それぞれのメンバーは各々の目的地へと歩みだした。それを見送った彼女とその隣に立つ私のそばに、サンクスマンが近づいてきた。
「ガイア君、ちょっといいかね」
「どうした」
「ちょっと調べたいことがあってね。少し外に出ていっても構わないかね」
「…何を調べるつもりだ」
「エイチャーのことについてだよ。以前会ったエイチャーの声が、知り合いのそれに似ている気がしてね」
「…やめろ、とは言わない…が、お前はそれで良いのか」
「ああ。自らの過ちにケジメをつけたいんだ」
「…わかった」
「ありがとう」
サンクスマンの姿を追わず、ただ黙って彼の乗ったエレベーターが動く音を聞いているボス。そんな彼女に対して、私こと大三日月流勿が抱いていた疑問を言うことにした。
「いいのですかボス。あいつ、何かよからぬことを考えいるのでは…」
「…流勿、それは杞憂だ。俺はあいつを信用している」
「ですが…」
「俺の言うことが聞けないのか」
今まで私を見ずに会話していたボスが、急に鋭い視線をこちらへ向けた。私は、それに思わずたじろぐ。
「め、めっそうもありません!」
「なら、これ以上は気にするな。…密為碧葉との戦いで少し海水を浴びた。俺はこれから風呂に入る」
「わ、わかりました! バスタオルを用意してお待ちしております!」
「ああ、頼んだぞ」
そう、余計なことなんて考えなくていいのだ。
今はただ、目の前の楽しみに心を躍らせるだけで…。
どうも、壊れ始めたラジオです。
流勿の役職が、スカウトマンなのか側近なのか補佐役なのか秘書なのか、自分自身でもわからなくなってきました。まあ…ガイアのためになんでもやっている、ということにします。
ここで、ここまでに登場してきたこの小説におけるイメージボイスを紹介しておきます。各声優さん俳優さん方、今回もお世話になります。それと、名前の誤字脱字があれば、感想欄にてお知らせしていただけると嬉しいです。
・Ms.ガイア|種田梨沙
・Ms.アルテミス(大三日月流勿、月夜見往乎)|大坪由佳
・Mr.サンクスマン|中田譲治
・Ms.マーキュリー|植田佳奈
・Ms.ヴィーナス|斎藤桃子
・Ms.マーズ|米澤円
・Ms.ジュピター|高山みなみ
・Ms.サターン|豊崎愛生
・Ms.ウラノス|こおろぎさとみ
・Ms.ネプチューン|佐倉綾音
・Ms.シーカー|白石涼子
・Ms.ブラックアウト|竹達彩奈
・小倉井弥宵|巽悠衣子
・冴草浩司|船越英一郎
それでは。




