番外編【ミカエル】
ミカエルはなんとか婚約をした。お見合いを数度繰り返し疲れていたときに、夜会で友人の親戚の子を紹介された。デビューしたばかりの子でミカエルよりも一つ年下だった。
王都から離れたところに領地がある伯爵家の次女。
ジゼル・ランバード伯爵令嬢。
王都にはまだ馴染んでいない様で、あどけない笑顔がなんとなくホッとすると言うか、肩の力が抜けるような感じがした。
出会いは友人の紹介。
ダンスに誘い踊っているととても楽しそうで、どうしてそんなに楽しいのかと聞くと、ダンスの練習の成果が出ているような気がします! と言った。
その後、彼女は他の子息ともダンスをした様だが足を踏んだそうで、しょぼんと肩を落としながら友人と僕のいるところに戻ってきた。
「おかしいですわ。ロンゴ様とは楽しくダンスが出来ましたのに……」
すると友人が笑いながら言った。
「ダンスにも合う合わないがあるんだ。ミカエルとはダンスの相性が良かったのかも知れないぞ。ミカエル、ジゼル悪い! ちょっとすまん。離れるぞ。実は狙っている子がいるんだ。声をかけてくる」
そう言ってジゼルを置いて行ってしまった。困ったな……
「何か飲もうか? 取ってくるよ」
「ありがとうございます」
デビューしたばかりだと言っていたので、アルコールはやめておいたほうがよさそうだ。
無難に果実水でも渡しておこう。
「お待たせ。立ち話もなんだしあちらに掛けるところがあるから移動しようか?」
「は。ヒールを長時間履くのに慣れていなくて、そろそろ限界でした」
まるでネタバレをする様に笑い、飾らない子なんだなと思い好感を持った。
「ランバード嬢は、入学したばかりだったよね」
話題がないと間が持たない、学園の話は無難だがお互い学園に通っているのだから鉄板のネタだろう。
「はい。やっぱり王都は違いますね。ロンゴ様は殿下と同じ学年ですよね。王太子殿下の婚約者様がいたり、隣国の王族の方も居られますし、凄い学年ですね」
目をキラキラとさせて言ってくる。殿下はイケメンだし成績優秀で人気がある。
それに目立つ方が沢山いる学年ではある。
「そうだね。Sクラスはやはり特別という感じがするよ」
シャノンも殿下と婚約をしたし、爆弾娘マリも神殿に居るから学園生活は穏やかだ。
入学後は殿下と話をしたい令嬢たちがどんな手を使ってお近づきになるかと、あちらこちらで作戦会議をしていたのが懐かしい。
「やはりそうなんですね。殿下は婚約者様をとても大切にされているとわたくし達の学年では憧れの的です。王族から侯爵家に婿入りされるなんて……ロマンスですわ! お話はされたことはありますか?」
憧れね……。あれは大切とかそういったいいものではない様な気もする。
殿下の執着? 執念と言った感じだけど、言わないでおこう。
殿下に知られたところで、そうですよ。とさらり言われそうだし。だから何か? なんて言われそうだ。しかし、そんな軽口を叩く勇気もない。
でも王族から侯爵家に婿入りするというのは凄いことだと思う。
王太子殿下の御代になったとしたら王弟だもんなぁ。
シャノンがますます遠い存在に思えてきた。
「あぁ、何度か会話をさせてもらったことがあるけれどクラスが違うから、あまりお会いする機会は無いんだ」
それ以上聞かれたくないから、この辺でこの話をやめて貰いたい。と思った。今まで見合いをしてきた令嬢たちのように、しつこく聞いてこられたら面倒だな……。
「そうなんですね」
ジゼルはそう言って笑い、話題が変わった。授業の話や学園の先生の話になった。
話しやすい子だと思った。
「ロンゴ様は、」
「同じ学園に通う仲間だ。ミカエルでいいよ」
「え、えぇっと……ミカエルさま、は」
急に顔を赤くするランバード伯爵令嬢
「ランバード嬢、どうした?」
「わ、私のこともどうか名前で呼んで、くだ、さい」
耳まで赤くして下を向いた。色が白い子だから赤くなるその姿はとてもかわいいと思った。
「ジゼル嬢、そう呼ばせてもらうよ」
「は、はい」
遠くから友人がこちらの様子を見てニヤニヤしていることに気が付かなかった。
これを機にジゼルと学園で挨拶をする様になり、友人を交えてお茶をしたりする様になった。
「ミカエル、明日は用事あるか?」
友人に聞かれた。
「あぁ、明日は……例の……」
久しぶりの見合いだった。釣り書きが寄せられてきているので会うことになった。
子爵家の令嬢だったはずだ。僕よりも年上の美しく色気のある印象の姿絵だった様な……?
「見合いか!」
「おい! ジゼル嬢の前でそんな生々しい表現をするなよっ!」
正直言って恥ずかしい。それだけだけど。
「ミカエル様お見合いです、か」
なぜかジゼルの声のトーンが下がった様な気がしたのは気のせいだろうか……思い違いだろうな。
見合い当日
「ミカエル! もういい加減にお相手の方を定めて頂戴な。わたくしとしても無理強いをしたくないのよ。でも何度もお見合いをすると相手の方に失礼でしょう?」
母に言われた。そうだよな。そろそろ……とは思っている。シャノンは殿下と婚約をした。仲良さそうにしているし実際お似合いだと思う。二人を見ていて辛いとか悔しいとかと言う気持ちはとうにない。
「はい。行ってきますね」
母に一言だけ告げて家を出た。見合い相手と会うと姿絵より美しくて尻込みした。
なぜこんな美女が結婚していないんだと不思議に思うくらいだった。そして会話もスムーズだ。
「何か思うことがありまして?」
やばい! 顔に出たのだろう……
「えっと、なぜ貴女のような素敵な方が見合いをと思いまして」
正直見合いなどせずとも男は放っておかないだろう。何か欠陥があるとか?
いやいや。それはない。話している限り思いつかない。
「正直ですわね。ふふっ。お見合いの席で言うお話ではありませんが、わたくしには想っている人がいるのです。ですが今はどこにいるのやら……」
まさか失踪? とか? 夜逃げ?
「あら? ふふ。お顔に出てますわよ。わたくしの想い人は冒険者ですの。傍に魔獣ハンターもしていて。いつ戻るか分からなくて。次に無事に帰ってきたら、わたくしをもらってくれるようですの。だから申し訳ないのだけれどこうやって時間稼ぎをしています」
なるほど。合点がいった。
「冒険者ですか。勇敢な方なんでしょうね」
「えぇ。イカツイんですのよ彼。少し不器用なところが可愛らしくてわたくしから告白しましたのよ。今回は魔獣ハンターの仕事で結構手こずっているようですけど、無事に帰ってくると思いますわ。ミカエル様にも想い人がいるのではなくて?」
「え?」
「時間を気にしているようですもの。ミカエル様は素直な方ですね。それに自分で言うのもなんですけれど、わたくしはこんな見た目ですから男性からお声をかけていただくことも多々ありますし、いやらしい目で見られることもあります。でもミカエル様はその方たちとは違いますもの。お約束があったのではなくて?」
約束というか友人がジゼルと街に散策に行くから一緒にどうだ? と誘われた。
それが……気になるだけだ。
「ご自分の気持ちに素直になられてはいかがですか? 他の男性に取られてしまいますよ。ふふっ」
取られる? ジゼルを? それは……嫌だと思った。
「申し訳ございませんが、」
「えぇ。この話は無かったことになりますわよ。お時間を取らせてしまって申し訳ありませんでした。もし次お会いするときはお互いパートナーがいるといいですわね」
めちゃくちゃいい人だ……。
「はい。彼が無事に戻ってくるといいですね。それでは失礼します」
見合いをした店を出た。街はすぐそこだ。どこだ、どこだ? キョロキョロしながら走った。本屋の角を曲がり令嬢の好きそうな店がある。新しい雑貨の店だった。店の前に友人がいた。
「お。ミカエル! 見合いはどうした?」
「はぁはぁ……ジゼル嬢は?」
ハァハァと、息を整える。友人は、にやにやとしながら言った。
「店内だよ。俺、本屋にいるからジゼルの買い物が終わったら二人で迎えにきてくれ。その後カフェに行く予定だからな」
そう言って友人はすぐそこの本屋に向かった。ジゼルが買い物を済ませる間に汗を拭いて息を整える。しばらくすると買い物を済ませたジゼルが驚いた顔で僕を見た。
鳩が豆鉄砲を食ったような目? をしている。そんな姿もかわいらしい。
「買い物は済んだかい?」
「は、はい? ミカエル様がなぜ? お見合いでしたよね……」
「フラれたよ。好きな人がいるらしい」
「え! それなのにお見合いを? ミカエル様に失礼です」
プリプリと怒るジゼル。僕のために怒ってくれているのか?
「まぁ、彼女にも理由があって仕方なく見合いをしたようだよ。彼が戻ってきたら恐らく結婚するだろうから僕は彼女を応援したいんだよ」
「理由はどうあれミカエル様は優しすぎます! 変な女の人に付き纏われたらどうするんですか!」
変な女の人で、マリを思い出してしまった……あれは困った娘だった。
「そうか……それならジゼル嬢が一緒にいてくれたら変な女の人は僕に近寄らないよね」
「そうです! わたくしが……え? ミカエル様、それって」
「僕ではダメかな。君のことが気になって見合いどころではなくて探しにきたんだ」
「……嬉しいですけど私の一存では決めれません。お父様にお話をしてもいいでしょうか?」
「いいよ。返事は保留ってことだね」
保留って言って笑ってみた。
これ自分で言うから笑えるけどもしジゼルから返事は保留です。なんて言われたら……傷つくよなぁ。僕の存在ってなんだろうとか考えそうだ。
「はい。前向きな保留です!」
「なんだよ、それ」
「婚約は家との関係もありますから……でもお父様はわたくしの気持ちを尊重してくださると思います」
あぁ。良い子だ。僕もそう返せば良かったんだ。
今更ながら学んだ。この子と将来を共にしたい。そう思った。




