人違いだった!
神殿預かりになったマリさんは幼いころ、どういった環境で過ごしてきたかの調査をされた。
平民だったマリさんはいつか貴族のお姫様になるって周りの人に言っていたらしく。子爵家に引き取られる前までは変わった子だと言われていたみたい。
間も無くして、異世界の記憶を持った少女が今年現れると言う予言を聞いた賊が王宮に侵入した。
間違えられたのはマルガリータ様だった。特徴がマルガリータ様に似ていたから。
マルガリータ殿下は陛下譲りの黒髪の美少女。黒真珠の君と言う二つ名があるほどだった。
そのときはマリさんはまだ平民だったからマルガリータ様に記憶持ちだと思われた。
マリさんが神殿預かりとなったことは噂が広がっていて、長い間口を割らずに捕らえられていた賊が異世界の記憶持ちが自ら名乗り出たと噂を耳にして、看守に言ったんだそうです。
マリさんが【異世界の記憶持ち】名乗り出てから数年経った頃。
囚人に噂が回る頃にはもう既に時は遅し。
「あれは人違いだった……」と
拷問されても口を割らなかった賊が今頃になって自らの口で話をしたんだそうです。
【この国に黒髪の記憶持ちの少女が現れる】
【この国】=王女と思い込んだのだそう。
賊は北の国出身で、北の国は戦に負け貧しい国だった。
たまたま北の国に来た有名な予言師から聞いた情報だったと言う。
記憶持ちが国にいるだけで、国が栄えると思っていたようだった。だから犯行に及んだんだそう。
間違えで攫われそうになったマルガリータ様のことを考えるとなんとも言えない気持ちになりましたが、ナセル様と結婚してあのときのことを思い出してみると……色々と思うところがありました。
いくらマルガリータ様が五歳だったといえ酷くない?
あのとき私は怖くて悲しくて後悔しかなかったし、自分が悪いんだと言い聞かせて殻に閉じこもってしまいました。
初めは謝罪をされて聞き入れましたが、それは上部だけだったのかもしれません。
心の底ではずっと引っかかっていたから。
たまたま流れてきた剣が腕を掠って傷を負ってしまったけれど(今は傷跡なし)八歳の女の子にしては良くやったと今では思います! そう思えるほど時間がたったのです。
もしうちの娘が同じ目に遭ったのなら、いくら子供の言ったことでも許せませんもの。うちの可愛い娘になんてことを言ってくれたのですか! って怒鳴りに行きたいくらいですわ。
きっとお父様もお母様もそう思われていたに違いありませんわね。今になってわかる両親の気持ち。
私のことを今でも溺愛し、孫にも同じように愛情を惜しまないお父様とお母様ですものね。
最近知ったことですが、お父様は王宮に抗議に行ったみたいです。(この後日談は後ほど)
『可愛い娘を持つ親ならわかる事でしょう? 王女は小さかったとは言えシャノンに暴言を吐いたの。許せると思う? ナセル様も会いたいとしつこくてあのときはやんわりお断りを続けていたの。でもお手紙は欠かさず届けられるし誠意は感じたから、徐々に許して差し上げたの』
徐々に許して……
『王女とも事前にお会いして、更生していたからこれならシャノンちゃんに会わせても問題はないって判断したの。だからあとはナセル様にお任せしたの』
お母様がそう言いました。親バカだと思ったけれど、たくさん心配をかけたので今では感謝の気持ちしかありません。お母様が王妃様にお茶会に誘われてマルガリータ様にお会いしたのだそうです。
ナセル様もお父様の顔を見るたびに私の様子を聞いてくださったみたいです。
「シャノンここに居たのか?」
「あら、ナセル様おかえりになっていたのですね。気が付かずに申し訳ありませんでした。シャルロッテが急にぐずりだして寝かしつけていたの」
可愛い我が子の寝顔を見ていた。私たちは結婚後、すぐに子宝に恵まれました。
「どれだけでも見ていられるほど愛しく可愛い寝顔なんですもの」
シャルロッテの寝顔を見て癒されているとナセル様が近寄ってきて私の肩を抱いてきた。
「本当可愛いよねぇ。日に日にシャノンに似てきてシャルがいつか嫁に行くことになると思うと、相手を殺してやりたくなるよ……」
シャルが生まれた時にお母様から聞いた話によると、お父様は私が生まれた時にどうしてもお嫁に出したくなかったんですって。
私に家にいて欲しかったから二人目を作る気にならなかったらしいです。
『お父様のわがままなんだけど、わたくしもシャノンちゃんが可愛くて同意したの。妹や弟がいたらシャノンちゃんも良かったのかもしれないけれど、私たちの我儘に付き合わせてしまってごめんなさいね』
お母様はそう言ったけれど、愛情をたくさん注いでくれた両親には感謝しかないもの。妹や弟がいなくても全然寂しくなんてなかったから。
大きくなってきたお腹をさすりながらナセル様に聞いた。
「また女の子だったらどうする?」
もうすぐ第二子の出産を控えている私の大きく突き出したお腹をナセル様が愛しそうに触れてきた。
「嬉しいよ! でも嫁には出したくないな。はぁ。悩みは尽きない。この子が男の子だったらシャルを嫁に出さなきゃいけなくなるのか? 辛くて死にそうだ。どうしよう」
この世の終わりのような顔をするナセル様。親バカな所はお父様にそっくり。私の愛おしい旦那様だ。
「男の子だったらお嫁さんをもらうことになるのね……それは考えただけでも辛いわね。この子がナセル様に似ていたらどうしよう。お嫁さんを虐めたりしないかしら」
よく考えてみるとお父様はなぜナセル様との結婚を許して、しかも爵位まで譲れるんだろう? 気になって聞きにいくことにした。
お父様は爵位をナセル様に譲ってからは領地に住むと言って一度は領地に帰ったのだけど、シャルが産まれるとシャルから離れたく無いと言って、別館にお母様と住み始めた。
別館と言ってもお隣だからすぐに行ける距離で執事に今から会いにいくと伝えて欲しいと伝言を頼んだら、お父様とお母様がすぐに私たちが住む本館にやってきた。
「シャノン、パパに会いたいときはすぐに飛んでくるから大人しくしていて欲しい!」
「そうよ。そんな大きいお腹で転んだりでもしたらどうするのよ! ママ心配で仕方がないわよ」
相変わらずの親バカです。
「シャノンが言うにはお腹が大きくても、少しは体を動かさないと、」
両親の厳しい視線に負けたナセル様は口を閉ざした。
「シャノン、パパに会いたかったのか? 別館に移ってくるかい? シャルも一緒に移っておいで! 一緒に暮らそう」
これにはナセル様も驚き私の腰を抱き寄せ、口調を荒げた。
「移りませんよ! やめてくださいよ!」
お父様とナセル様はこうして仲良くしてくださっています。
その姿を見るお母様がすごく楽しそうで、私も嬉しくなります。




