八歳のナセル
「シャノン!」
シャノンはマルガリータを震える体で抱きしめていた。シャノンのドレスには血飛沫が染みを作っていた。
そのあとにマルガリータがシャノンに信じられないほど酷いことを言った。
つい頭に血が上りマルガリータの頬を叩いた。するとマルガリータは、シャノンの顔を見たくない。お兄様なんて大嫌い! と言って走り去った。
私のせいでさらにシャノンの心の傷が深くなった。
そのあと両親にマルガリータに手を上げたことが報告されて、怒られた。
誘拐されそうになったマルガリータをあの小さな体で震えながら守ったシャノンに対して言うことではない。と両親に言った。シャノンは体を張ってマルガリータを守ったんだ!
「マルガリータはまだ子供でことの重大さを理解していません。今回のことは王宮の中に手引きをしたものが必ずいるはず。犯人を捕まえてからマルガリータに言い聞かせます。王族に生まれたからには、こう言ったことはまた起きるかもしれません。まだ子供だと思っていましたが、この機会にしっかりと心得を植え付けさせます。貴方たちの幼いころにも誘拐未遂はありました。何度も何度も警戒していても手引きする者が出てきます。もっと策を練らなくては……。マックスとナセルには剣術を習わすことはできますがマルガリータは王女。護衛の数を増やすしかないけれど、誰を信頼していいのか……」
母が珍しく弱音を吐いた瞬間だった。
「母上、私の護衛を一人マルガリータに付けてください」
「ダメよ、ナセルに何かあったらどうするの!」
「私はもっと強くなります。一人の女の子を守れるくらいにはなりますから!」
震えているシャノン見て思った。絶対強くなると。兄上と話をしたら、兄上の護衛もマルガリータに付けることになった。
シャノンはあの日以来、王宮に来なくなってしまった。
侯爵に聞いたら、熱が出て寝込んでいると聞いた。そりゃそうだろうな。八歳の女の子が、あの場面にいて震えていたんだから。お見舞いを渡して欲しいと伝えて花と手紙を渡した。
「お気遣い頂きありがとうございます」
毎回言われた。見舞いに行きたいと言っても
「まだ体調が良くないのです。たまにあのときのことを思い出すのか寝付けないこともあり、あの子が眠れるときにゆっくり寝させてあげたいと思い、約束は出来ません。私たちはあの子の心が壊れないか心配なんですよ」
そう言われてしまったら会いに行くこともできなかった。
「しばらく王宮に連れて行くことはないと思います。もしあの子が来られるようになったときはまたよろしくお願いします」
せめて手紙は送っていいだろうかと聞く。
「お預かりしますよ」
それから学園に入るまで会うことは叶わなかった。だから再会したときは嬉しくて気持ちを抑えるのに必死だった。
学園でシャノンに会えることは分かっていた。ルイズも会えることを楽しみにしていた。
シャノンの生活はあの事件があった前の様になっていると聞いた。外出もするようになったし、友達もいるようだ。
男だったけど……。
シャノンが好きだったバラ園には新たに植えたバラが咲き誇っている。いつかシャノンに見せたいと思っていた。
入学式の日、断られたらまた日を置いて誘えばいいと思ったら意外とあっさり来てくれた。これには拍子抜けしたけれど、母も兄も喜んでいた。
母は驚き一瞬固まったが、すぐにシャノンを見て喜んだがここで時間を取るわけにいかなかったから、とっておきのお菓子を提供してくれるだけですんで良かった。
兄は忙しいから、お茶を一杯飲んですぐに戻ると思ったのに一時間もいるなんて。兄も相当嬉しそうだったけど、そんなに仲が良かったっけ?
あとはマルガリータに会わせていいかと言う問題。
侯爵は構わないと言っていたし、これから社交するにあたり会わないと言う選択肢はないのだから、会わせてやってほしいと言われた。あんなにシャノンに甘い侯爵が神妙な顔つきで言った。思うことがあるのだろうな。
しかし母や兄の様にサプライズで会わせるのも違うと思った。
それでカルロスとレイレに相談したら、私たちがお茶会を開きその場に呼んだらどうだろうか。と言われた。
カルロスとレイレを信頼しているし、シャノンとマルガリータの話をした。レイレはマルガリータと仲良くしてくるし、ここは二人の好意に甘えようと思った。
騙すような形になるが、今度のお茶会でシャノンはマルガリータに会うことになる。




