不思議な令嬢マリさん
「ごめんなさいっ」
ガサガサと木の枝をかき分けてリンゴを取りに来る令嬢。制服や髪の毛に葉っぱがついていた。
ガサガサと枝が揺れ、葉の擦る音が聞こえてびくっとしたら、ナセル様が音のする方から私を庇うように背中に隠してくださりました。
「君は……昨日の花瓶の?」
ナセル様が言った。あ……昨日の人? 顔を見ていないから分からなかった。
ひょいとナセル様の背中から顔を出して、つい……じぃっ~と花瓶の人を見てしまいました。
目が合うと彼女は──
「そのお顔は怒ってらっしゃるのね……私が花瓶の水を足にかけてしまったから。謝りますから、どうかお許しを」
ペコペコと頭を下げる花瓶の人。
「いえ、怒ってなどおりませんよ。それよりこのリンゴを取りに来たのでしたね、はいどうぞ」
立ち上がり転がってきたリンゴを拾って渡すと、彼女は一旦受け取ったにも関わらず、リンゴを落とした。そしてまた勢いよくりんごが転がり側溝にハマった……
なんで受け取りを拒否するのかしら? 私が触れない方が良かったのかも?
それをみんなで見ていたら、彼女が言った。
「酷いです。水をうっかりかけてしまったくらいで嫌がらせでリンゴを落とすなんて……食べ物を粗末にするなんて……」
「シャノンおいで」
そう言ってナセル様は私の肩を抱きながら、深いため息を吐いた。
「言っている意味が分からない。まず彼女は花瓶の水を掛けた相手が君だとは知らないし、リンゴを受け取らなかった君に非があるように思える……。私たちはランチ中だから邪魔をされたくないんだ。用がないのなら戻ってくれると助かる」
私をベンチに座らせ、ナセル様は当然のように隣に座る。
「リンゴが可哀想で、食べ物を粗末にしてはならないと母の教えで……」
「あなた、確かロルシー子爵のご令嬢でしたわね?」
「はい、ルイズ様!」
「あら、わたくしの名前もご存知のようね? あなたはそんなにリンゴがお好きなの?」
「はい!」
「リンゴでしたらわたくしが代わりのものを子爵家に届けさせます。勿体無いのはわかりますが側溝に落ちたリンゴは諦めてくださらない?」
「は? はい」
「近くに人がいるとは思いませんでした。これからはわたくしたちも気をつけますわ」
ルイズ様はちらりと木の後ろに視線を遣る。まだ誰かいるようでした。
「制服や髪の毛に葉っぱがついているから、それを取り除いた方がいいですよ。貴族令嬢なのですから身なりはきちんと整えた方が良いですからね」
ナセル様がお茶を飲みながら言うと
「え! 葉っぱが! どこですか! ナセル様取っていただけません、か……」
ナセル様を見てさぁ~っと顔を青褪める花瓶の人。ナセル様は冷たい視線を向けていた。
「先日も言いましたが、私の名前を気安く呼ばぬようお願いしたはずです。それにどうせ戻るのならまた葉っぱの一枚や二枚つくでしょうから、どうか気にせず元の場所にお戻りください」
「は、はい」
ガサガサと木の枝を掻き分けて元の場所に戻る花瓶の人。わざわざ木の枝をかき分けなくとも、別のルートがあるのに、近道が好きなのかもしれない。なんだか不思議な方でした。
「シャノン大丈夫か?」
「えぇ。それより昨日の花瓶の人はあの人だったのですね」
「そのようだね、何か企んでいるのかもしれない。気をつけよう」
後日談ですが、ルイズ様が子爵家に大量のリンゴと子爵宛に手紙を送ったそうです。
慌てた子爵がすぐに手紙の返事を送ってきたそうですが、内容までは教えていただけませんでした。
次の日のランチは、ランチルームへ行きました。
カルロス殿下とレイレ様もお誘いしました。レイレ様はお話をさせてもらうのですが、カルロス殿下は他国の王族で話しかけることは恐れ多くて、挨拶以外はお声かけ出来なかったのですが、
「シャノン嬢、気軽に話してくれ。同じクラスの仲間だ。名前で呼んで貰いたい。私もシャノンと呼ばせてもらって良いか?」
「はい。それではわたくしはカルロス様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ。もちろん。レイレから話は聞いている。これからも仲良くしてやって欲しい。同性の友達というのは大事だ。なぁレイレ」
「えぇ。ルイズ様やシャノン様とはもっと交流を深めたくてお茶会にお誘いしましたの」
レイレ様は隣国の公爵家の令嬢でシルバーのストレートヘアー紫の瞳の大変お美しいお方です。色も白くて、スレンダーで同性から見ても憧れという感じです。
そんな方が私に微笑みかけてくださるなんて。
「レイレ様にそう言って頂けるなんて……光栄ですわ」
頬が赤くなるのがわかった。
「ふむ。シャノンは可愛いな」
「えぇ。ナセル様やルイズ様が構いたくなるのも納得ですわ」
「な、何を仰って」
「ほらね。シャノンそろそろ私と婚約するって言った方が良いよ。もしかして私のことをキープしているわけではないだろうね」
「してません!」
このロイヤルな人たちの前でなんてことを言うんでしょうか! 王族に公爵家……よく考えるとすごい集まりだ。
「楽しいですわね。シャノン様」
ルイズ様に声をかけられた。楽しいですけど気後れはしてしまいます。と言えません。
「はい」
無理して笑顔を作るとナセル様は
「何を思っているかは何となく分かるんだけど、もうすぐ社交界に出るんだから慣れてほしい。隣にいるから」
小声で諭すようにナセル様が言ってきた。そうだ。私は変わらなきゃいけないのだ。




