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千年の恋の物語~運命の二人~  作者: 宝槻錬果
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神官の苦労とレオの贈り物

 観月祭は無事に終了し、神城家の杏那専用応接室には豪と理世、さらには祭事の片づけを終えて駆け付けた神官の周一の姿もある。三人は杏那とレオの帰りを心配そうに待っていた。そこへようやく杏那とレオが帰ってきた。


「お嬢様、レオ様、お帰りなさいませ。ご無事で何よりでございます。」

「杏那様、レオ様がついていてくださるとは言え心配しておりましたわ!お顔を見て安心いたしましたわ!」

豪が安堵の表情で出迎え、理世も杏那に駆け寄る。すると豪と理世の後ろから周一が顔を出した。

「無事で安心したよ、杏那ちゃん。それじゃ僕は無事が確認できたからもう帰りますね。」


 周一にとって神殿の外では杏那は可愛い姪っ子の一人である。呼び方も”杏那様”から”杏那ちゃん”に自然と変わるのだ。杏那からすると、もともと”杏那ちゃん”と呼ばれていたところ、神殿にいるときには太陽の乙女として”杏那様”と呼ばれる方が慣れない。


「叔父様、わざわざ心配して来てくださったのですか?」

「あぁ、杏那ちゃんなら大丈夫だとは思っていたのだけど、ここ数日でいろいろあったからね。」

「ご心配ありがとうございます。また詳しくは明日、ご報告に伺います。」

「うん、待っているよ。それじゃあ、今日は杏那ちゃんも皆さんもお疲れ様でした。」

周一は杏那の顔を一目見ると、すぐに帰っていった。

「ご丁寧な方ですわね。」

理世は杏那に微笑みかける。

「さぁ皆さま、お疲れでしょう。夜ご飯もまだですわね。月城様、お食事にいたしましょう。食後には私が皆さまにハーブティーをお淹れいたしますわ。」


 四人はダイニングルームへと向かった。食事も進み、食後のハーブティーをみんなで味わっていると、今日の作戦会議のときの話になった。


「それにしても今日の神官様、いつになくやつれていらっしゃいましたわね。」

「急な神占に、舞の代役調整にといろいろお願いしてしまったせいよね。」

「いやいや、お嬢様、その程度なら通常の神官の務めですよ。今日の彼は初めて人のお姿のレオ様にお会いして緊張していたのでしょう。」


 杏那は神殿の控室でのやりとりを思い出す。


―神官が控室に入ると、見知らぬ男性=レオがいる。杏那が周一にレオを紹介しようとすると、レオは自ら周一に自己紹介をした。

「私が神獣・白虎のレオである。昨日は世話になった。これからはこの姿で会うことが多くなるだろうが、神獣が人の姿を持っていることは伝承には残さないでくれ。毎回お願いしていることなのだが、人の姿が伝承されると、後々私を模した偽物が出てくると困るのでな。それと、この姿の私が神獣だということは、太陽の乙女のことを知る者以外には内密に。部外者には、そうだな…私は杏那の遠い親戚で杏那の護衛騎士ということにしておいてくれ。よろしく頼む。」

 神獣・レオが人の姿を持っていて言葉も話せるという新たな情報を知り、驚くのも束の間、“伝承には載せるな”など一通りの注意事項を纏めて話すレオに周一は少々面食らっていたのだ。杏那もレオのこの説明を聞いて、“レオ様は人の姿を持っていることや言葉を話せることはご自身の認めた相手にしか明かさないのね。だから周一叔父さんにレオが言葉を話せるのか聞こうとしたときその話題を避けさせたのね”と内心で納得していたのだった。

 さらには、いつもならもう少しじっくり策を練るものの、今日は祭事の進行と太陽の乙女の務めを並行して進める必要があり、周一も人一倍神経を使っていたはずである。作戦会議ではいつもの倍速で神占を出してもらい、浄化対象の位置を特定してもらったのだった。―


 森神がいたのはまさにその位置だった。周一の神占は毎回良く当たっている。手前の三体についてはおそらく、万が一にも浄化対象が暴走して神殿に入り込もうとした場合は、仕掛け人自らの手札で場を収めるために配備していた保険だろうという見立てになり、おおよそ当たっていたようだ。食事中に豪から聞いた話では、祭事の終盤、森の中から悪しき気配が消えると、まもなく三体の妖怪の気配も消え、豪がこっそり三体の気配を感じていたところを見に行ったが、物証は一切残っていなかったということだったのだ。


 杏那が一人考えを巡らせていると、その様子に気づいた豪が声をかける。

「お嬢様、今日はもうお疲れでしょう。明日は学校もありますし、本日の任務についての情報共有は明日の放課後にするとして、本日はお早くお休みください。」

「ええ、そうね。そうするわ。」


 立ち上がろうとしたとき、杏那はふと今朝のことを思い出した。

(今朝って私レオ様と一緒に寝ていたわ!レオ様のお部屋ってどうなるの!?)


「そ、そういえば、爺や。レオ様にはどのお部屋を使っていただいたらよろしいかしら?一番広い賓客用の客室が空いていたと思うのだけど…?」

杏那は平静を装って豪に聞く。すると豪はすぐに笑顔で答える。

「お嬢様、ご安心くださいませ。この神城家本家の離れにはレオ様専用のお部屋がございます。本日、私とメイドたちで掃除を行い、すぐにお使いいただけるよう整えてございます。」

専用の部屋があると聞いて驚く半面、杏那は少し安堵した。

「そうなの?レオ様専用のお部屋って、どこ?」

「お嬢様の隣の部屋でございます。結界を張っている神城家ではございますが、万一の事態に備え、太陽の乙女様と神獣様はすぐに連携がとれるようお隣のお部屋を以前からご用意しているのですよ。」

「と、隣!?あの使用禁止のお部屋ってそういうことだったのね。」

杏那が驚いていると、レオが笑顔で声をかける。

「杏那、もし寂しくなったらいつでも僕の部屋に来るといいよ。隣だからね。」

「お、お気遣いありがとうございます。」

杏那は驚きで若干笑顔が引きつっていたが、理世は「まぁ!なんて頼もしいことでしょう!」と目を輝かせてレオと杏那のやりとりを眺めていた。


 そうこうしているうちに夜も更け、杏那は湯浴みを終えて自室へと戻ってきていた。

(明日、学校なのよね。そういえば理世さんに廉様のこと相談できなかったわ。)

そんな風に杏那が物思いに耽っていると、扉をノックする音が響く。

「杏那、まだ起きてる?」

扉の向こうからレオの声がする。杏那は慌てて立ち上がり、扉を開けた。

「レオ様?どうかなさいましたか?」

扉を開けると濃紺のガウンを来たレオが立っていた。後ろ手に何か持っているようだが、杏那はいつもと違う装いのレオの美しさに見惚れて気づいていない。

「あ、うん。君が一人で、もし寂しがっていたらと思って、これを作ったんだ。」

そう言ってレオは後ろに隠していたものを杏那に差し出した。

「えっ!」

杏那は目の前に差し出されたものに釘付けになっている。

「気に入らなかったかな?」

いつも自信満々なレオがどこか照れくさそうにしている。状況が飲み込めた杏那は急にぱあっと顔を輝かせた。

「かっ、かわいい!!えっ、あの、この虎さんを私がいただいてよろしいのですか!?」

杏那はレオから差し出された子虎の時のレオにそっくりのぬいぐるみを受け取りながら、目を輝かせてぬいぐるみとレオを交互に見つめている。

「気に入ってもらえたかな?」

「もちろんです。とっても嬉しいです!とってもかわいいです!大事にします!ありがとうございます!」


杏那は30cmほどある子虎のぬいぐるみをさっそく抱きしめ嬉しそうに頬ずりしている。

(白くてふわふわでなんだか肌触りも白虎姿のレオ様と同じ!かわいい!)


素直に喜ぶ杏那の様子を見て安堵したレオはもう一つ差し出す。

「喜んでもらえたみたいで良かったよ。あともう一つ、明日から学校だとずっと隣にいるわけにもいかないからね。杏那に危険が迫れば僕がすぐに駆け付けられるように、出かけるときにはいつも身に着けていてくれるかな?」

今度は小さな子虎が駆ける姿のチャームのついたシルバーの繊細なブレスレットだ。子虎のぬいぐるみを左腕に抱っこしながら、杏那は両手で受け取った。ブレスレットの子虎の目のところには丸いサファイアが輝き、可愛いだけでなくおしゃれを両立している。

「かっ、かわいいです!!すごく綺麗で素敵です!こんな素敵なもの、いつの間に?」

「さっき僕の神力で作ったんだよ。イメージするだけだから。」

「えっ!イメージするだけで作れるのですか!?さすがレオ様です!」


 杏那は可愛い贈り物を二つももらい、大変興奮していた。レオの神力で作ったということは、言わばレオの神力の塊である。当然レオには意図があった。ぬいぐるみは杏那の神力の回復を手助けするため、ブレスレットはレオも話した通り、杏那に何かあればその危険を察知しすぐに駆け付けられるように、レオだけに分かるシグナルを発するものである。


「杏那にだけ、特別だからね。それじゃ、おやすみ。」

「ありがとうございます!大切にします。おやすみなさい。」


 部屋の扉を閉めると杏那は机の上にふわふわのハンカチを敷いて、その上にたった今レオからもらったブレスレットを大事そうに置いた。


「ここに置いていれば、朝忘れずに身に着けるわ。」


杏那はブレスレットを眺めながら、明日これを身に着けて学校に行くのを楽しみに思った。そして、かわいい子虎のぬいぐるみをそっと抱きしめて眠りにつくのだった。

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