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過去は想像できても見ることはできない

 ドイトリが去ってからは穏やかな時間が過ぎる。ドイトリが去る頃には昼時になっていたので全員で決められた量の食事をとり、その後は自室で持参した本でも読んで、ゆっくりとする。傍ではイオシスが昼寝をしており、その周囲には女性陣、それも主要なメンバーだけでなく非番の女性騎士も詰め寄り、全員でイオシスを可愛がっていた。そして男性陣はというと、やる事がないためか空いた中庭で模擬戦を続けていた。もちろん全員がそうというわけではなく、警戒中の騎士は宿泊所を守り、非番の騎士は宿泊所に置いてあったテーブルゲームや、訓練の勝ち負けでギャンブルを楽しんでいた者もいる。





 そして日が落ちると、夕食を済ませて再び自室にて、のんべんだらりとする。


「へぇ、そんな理由があったの」


 テーブルを挟んで対面にいるクラリスと酒を酌み交わしながら、ドイトリの一件を話す。


「私に話してよかったの?」

「別にこれぐらいなら問題ないだろう?」


 クラリスの疑問に答えながら、ややアルコールが強めの酒を飲む。


「けど、面白い話だね」


 そしてもう一人、このテーブルを囲っているロザミアがそんなことを漏らす。


「そう、私は、何もおかしく感じなかったわよ?」

「いやいや、面白いじゃないか、だって、話が本当なら、ネンラールは50年前からどうしようもない時限爆弾を抱えていたことになるよ」

「確かにな」


 ロザミアの言葉に頷く。


(和解の道もあったが、疑心(・・)でこうなったとは)


 当時のネンラールの状況、大飢饉であることを考えればドワーフに対して弱みを見せられないため、何の返答もしなかったのも理解できる。それこそ王子を差し出して謝るとしても、それは一度殺してしまったと認めることに繋がる。それこそ食料が乏しい現状で付け入るスキを与えてしまえば、取られかねないので認めることもまず難しい。


 かといって、放置もできない。なにせそこまでの慕われている女性をどんな理由であれ、殺してしまったのだから当然不満は募るだろう。それこそ王族の末裔とも言えるジアルドが懸想するほどの相手となればなおのこと。


(俺なら、事故が起こり死亡してしまったという体裁を取るが…………それもしなかったということは死体を無造作に捨てたのはその王子だろうな)


 もし当時のネンラール王がこのことを知っていたのなら、角が立たない方法で死んでしまったと処理する。それこそ違和感のない事故死とかでだ。


(だが、そうしなかったということはドワーフに事実を知られた後で事態を察知して隠し様が無くなったからか?そんな状態なら、俺はその王子を縊り殺したくなるな)


 当時のネンラール王の心境を想像しながら酒を進める。


(そして、当時の状況では謝ることが出来ず、想像以上にアールネナが慕われていた、だからドワーフたちから予想以上に、反感を買ってしまった。そのため今度は、反乱するための力を取り上げる方針に舵を取ったわけ、か?)


 想像でしかないため正確な答えは得られない。だが大体の路線は間違っているとは思えない。


 だが、同時に飢饉が落ち着いたのち、調べてからその通りだったと謝罪すればいい話でもあった。なのに何の返答もしていないと言うことは、まだ白黒はっきりしていなかったとも取れる。


(結局は過ぎたことだな、だが、ネンラールの王族が直接関わっているなら、いろいろとわかっていると思うが…………いや、わかっているから、か)


 グラスを傾けながら考える。今回の件、50年前からのドワーフの不満の高まり具合を考えるとネンラールとしては十分に反乱について理解できるはずだった。


(だからカーシィムが今回の策を考えられたのか?それともネンラール王は承知のうえで泳がせているのか?)


 カーシィムが策が巧妙だったのか、それともネンラール王は仕方ないと判断したのかはわからないが、ドイトリの話で反乱を暗に容認しているようにも思えてしまった。


「……結局は、この後の展開によるのか」

「何か言った?」

「いや、何でもない」


 その後は、二人と談笑して、夜が更けると、クラリスはそのままベッドに乗りイオシスと一緒に寝入り、ロザミアは自室へと戻っていった。












 そしてその日の真夜中、グラスからの連絡が来て起こされる。


『健勝か?バアル(・・・)


 やや不機嫌な状態で通信機を取ると、その相手は陛下(・・)だった。


「はい、わざわざご足労をおかけして申し訳ありません」


 俺は寝ていた長いソファから降りると窓辺に移動する。


「それでご用件は何でしょうか?」

『なに、簡単だ。先日にグラスから色々と言われたそうだな』

「ええ」


 グラスには多少不満が集まりすぎていると聞いている。


『その件についてだ』

「……陛下もこの件には反対でしょうか?」

『ん?ははは、バアル、私はお前の才を認めておる。騒動に巻き込まれようが最終的に自分の利益にしてしまう、その才をな』


 通信機の先から、楽しそうな声が聞こえてくる。


『そして、今回も期待しておるのだ、バアルならこの状況下で最大限に利益を持ってこれると』

「……過分の評価に痛み入ります」


 グラスから先日の不満を聞いていて、不満を述べられると思ったが違った。


『さて、バアル本来なら、儂もグラス同様に言う立場にある。だが、これだけは言おう。気にするな(・・・・・)


 厳かでしっかりとした声が聞こえてくる。


『お前の不満など、私が抑えつける。だから、全力で事を行い、成果をもぎ取ってこい』

「……かしこまりました、このバアル・セラ・ゼブルス、陛下の応えるべく行動することを誓いましょう」

『うむ、期待している。国内は私が抑える。そっちは全力を尽くせ』

「かしこまりました」

『では、頼――ごほ、ぐほっ』


 お互いに会話を終えようとすると、通信機の先から咳き込む音が聞こえてくる。


「大丈夫ですか、陛下?」

『なに、大丈夫だ。最近よく出るがなんの問題もない』

「そうですか……陛下も是非、健康でいてください」

『ああ、もちろんだとも』


 こうして、通信を切る。


(最初は予想通りの展開だったが…………)


 今回の通話はグラスの言っていた不満を陛下が念押しするためか、もしくは(・・・・)、グラスが嫌な役を演じて、陛下の好印象を与えやすくするためだと思っていた。本音の部分もあるのだろうが、結果的には後者のやり方を行ってきたとしか考えられない。だが、問題はそこではなかった。


(今、陛下が倒れれば、冗談抜きで国が割れる)


 現在、グロウス王国では二人の殿下がバチバチどころかお互いを殴り合っている状態だ。そんな状態でストッパーとなる陛下が倒れたとなれば、当然起きるのは内乱一直線の行動だろう。


「たくっ、なんで、こう何かが終わりそうになれば、新たな何かが出てくるのやら」


 窓から月を見て、吐き捨てるように呟くしかなかった。

カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

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