それぞれが得られる物
この反乱は、俺とユリア、ドワーフたち全員が得をする。その言葉にユリアはようやく事態が見えてきたらしい。
「まず、反乱云々の前に、この……そういえば国の名前を聞いていなかったな」
ドミニアでもいいが、反乱で独立するのであれば国の名前があると思い問いかける。
「グウェルド、かつての国の名前であり、今ここに蘇った名前だ」
ジアルドは誇らしそうに告げる。
「まずグウェルドが反乱を起こすと何が必要になるかだが」
「兵糧ですね。この周辺の土地であれば、武器に関しては文句なく、そして十分な作物は期待できません。なので、通常では交易で武器や工芸品を売り、食料を手に入れるのが常套手段」
ここまで来た風景を思い返すがどう考えても食料を作り出す環境ではない。そのために食料を手に入れるためにここで武器を作り、金に換えてから食料を手に入れるというサイクルが通常だったのだろう。
「なぜ反乱したかは置いておくとして、反乱するには食料が必要だ。だが」
「300年目ならともかく、周囲はネンラール一色、どこに戦争時に敵国に兵糧を与える国がある?」
ジアルドが続きの言葉を発する。
「なるほど、だから私にバアル様を招待すればと条件を付けたのですね。それも目的が利用ではなく、知るためだと錯覚させて」
ハルジャールで話は聞いていたが、例の合金に関してはユリアは仲介しただけで報酬がもらえることになっている。ただ、この時のユリアもそんなうまい話があるかと警戒はしていたらしい。だがその目的が飛空艇の原理を知るためにバアルと知己になりたいが故の報酬だと錯覚させられたらしい。
「ああ、実際合金の受け渡しはネンラール王にも許可を取っていたからな」
どうやらユリアと同じ誤解をネンラール王にも行っていたとのこと。ネンラールからすれば飛空艇の秘密を握れるかもしれないなら、止める意味がない。
「だが、実際はそうではなく、反乱のための輸送路として使用したいがため、でしたか」
「その通り、飛空艇を、空路を通じてグロウス王国と直接取引できる存在になり、私たちはそちらの伝手を使って食料を手に入れると言うことです」
そうすることで、グウェルドの食糧問題は解決できる。
(ネンラールも食料でうまくドワーフたちをコントロールしていた様子だからな)
もしドワーフが反抗的な姿勢を見せてもドワーフへの食糧供給を断てば、勝手に干上がってくれる。そうなれば弱ったところを取り押さえることは軍事国家なら難しくないだろう。
「しかし、飛空艇が作られたのはほんの少し前だ。それが無ければどう動くつもりだった?」
「それを聞く理由は?」
「単純に気になったからだ。飛空艇が無ければ耐え忍ぶつもりだったのか、それともほかに何かしらの策を用意していたのか」
もし飛空艇が出来上がっていなかった時の事を疑問に思い、ついでとばかりに聞いてみる。
「その場合はアジニア皇国と協力して、農産地を強奪、それでもたりなければ戦争で略奪を行うつもりでした」
「なるほど、アジニアとぶつかって苦戦しているうちに、か。相当不満が溜まっていたんだな」
軽くそう言ったが、実際は目の前のジアルドから怒気が出てくるほどだったらしい
「グロウス王国は直接的にグウェルドと取引できるようになり、確実に食料を売れ、そして金属を買うことが出来る。そしてグウェルドも新たな食糧の供給元を手に入れて、ネンラールと手を切ることが出来るようになる。また、バアル様は飛空艇を使用せざるを得ないため強制的にこの取引に噛むことができるそういうわけですか」
端的に言えばユリアの言う通り。
グロウス王国はネンラールの意思に関係なく高い技術を持つグウェルドと直接取引が出来るようになり、グウェルドはネンラールではない場所から食料を集めることが出来るようになる。そして俺も飛空艇を使う手前、俺のさじ加減でいろいろと変えられる立場になる。
「ですが、それではグロウス王国とネンラール国の関係悪化は免れませんが?」
様々なものが見えてきているユリアが問いかけてくる。
「そうだろうな、通常なら」
ここで、グロウス王国が手を貸したのなら、どう見てみネンラールから見れば敵対行為に他ならない。
「通常なら…………っ!?バアル様、もしや」
「俺達の身柄と引き換えに要求されたのなら、仕方ない、そう思わないか?」
グロウス王国だって、できれば取引したくはない。だが飛空艇の秘密を握る俺の安全を条件に出されれば話は変わってくる。ネンラールも歯ぎしりをするだろうが、一応の理解は得られるはずだった。
「ですが、それは、バアル様が捕らえられてしまうという汚点を残してしまうのでは?」
「アルバングルの件で今更だ」
「あの時とは状況が違います。今回の警備はアルバングルのことが無いように万全にしています。ですが、それでも捕らえられてしまうのならば今回の汚点はバアル様に起因すると思いますが?」
ユリアの言葉に一理ある。だが―――
「本当にな、信用していたのだが」
「そうですね、捕らえられたはずのバアル様が、ドワーフに悪感情を持たないわけが――」
「まさか、ユリアの招待に危険が潜んでいるとは思いもしなかった」
被せるように告げた発言にユリアは固まる。
「何を――」
「ネンラールに詳しいはずのユリアからの招待に危険が潜んでいるなんて、誰が予想できる?こちらも不安視するような情報は掴んでいたが、まさかユリアが知らないなんてな」
「っっ、擦り付けるつもりですか!!」
こちらの意図を理解して、ユリアは怒りの形相になる。
「何を!!バアル様は全てご承知だったじゃないですか!!」
「いや、全て予想の域を出なかった。だが、ユリアが問題ないと判断しているなら杞憂と思っていたのだが……」
残念だと言う表情でうつむく仕草を行う。
「っっ」
「まぁ、俺はユリアを信用し、ユリアはネンラールを信用したという事なのだろう」
暗にそうしておけば楽に収まると告げる。
「っ、ふぅ~それで私への得とは何でしょうか?」
「わかるだろう?」
「……グウェルドの基盤ですか」
ユリアの言葉に頷く。
「ネンラール王の動きを見ていると、徐々にジェシカにネンラールとのパイプを移そうとしてるのが分かった。じゃあ、その時、ネンラールの基盤の大元であるユリア、お前の存在はどう映るだろうか」
「端的に行っても邪魔ですね。そしてそこでこのグウェルドですか」
ユリアの言葉に頷く。
「ユリア、俺はグウェルドが本格的に動き出したのなら、その仲介役にユリアを推そう」
「……その条件が先ほどの悪評先を受け入れることですか?」
ユリアの言葉に笑顔だけを浮かべる。
「先に言っておくが、飛空艇を運用する観点から、俺がその役目を兼任しても問題はない」
「……ここで話を断れば私は何も得るものはないというわけですか」
ユリアがこの反乱で手に入れられる物は、グウェルドの基盤。それはネンラール王が徐々にジェシカに移そうとしているネンラールの基盤、正確にはそちらに移ろうとしている貴族の牽制になり、そしてユリアがネンラール王の意思とは関係なく持つことになる基盤でもある。
だが、ここで得るにはグウェルドの中でもそれなりの地位に居なければ話にならない。もしこちらの言葉を断り、大使の推薦を蹴るとなると、飛空艇を扱う俺が最有力の候補になる。そして俺が立候補すればおそらく陛下はそれを受け入れる。
「さて、ユリア、この独立に賛成しないわけは?」
「……私たちの安全の保障は?」
「私たちにとって、バアルは生命線、それを手放すことが有ると?」
ジアルドの言葉で、ユリアは様々なことに納得の表情を浮かべる。
「さて、実用的な話に移りたいのだが、双方いかがか?」
「俺は問題ない」
「私もです」
ユリアは両手を上げて、反意はもうないと示し、ようやく実用的な部分の話し合いに移るのだった。
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
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