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ドワーフの首領

 ガラガラガラ


「領主には話していないのか?」


 無駄に豪華な領主館を後にすると、ある場所に向かう途中の馬車の中で問いかける。


「ええ、馬鹿真面目にそちらの技術を貰いますと言うつもりですか?」


 ユリアはそういうと柔らかく微笑む。


(正式な要請ではないわけか、だが、それなら……)


 ユリアに不審な点があることが浮かび上がり眉を顰める。


「聞くが、ドワーフの独断か」

「正確には鍛冶組合からの要請ですね。ただ、先ほどの通り、ドミニアの領主は人族です。しかもユルグは王家の言いなりなので、ほとんど王家直轄地と言えます。より、正確に言えば領主というよりかは代官と言い表した方がいいでしょう」


 ドミニアは有力な武器の生産地となれば、当然、王家の注目度は高く、それなりに扱いやすい人材が当てられているという。


「どうやって技術を渡してもらうつもりだ?まさか、往来の目がある中で堂々と製法を教えてもらうのか?」

「いえ、表向きは見学や、技術や依頼に関しての相談ということにして、裏で密かに情報を渡してもらいます。ああ、横やりの心配はありませんよ。鍛冶組合はギルドとは違って、完全にドワーフの工匠たちが独自で運営している組織ですから」


 それからユリアは説明する、あのユルグは管理はするが、ドワーフ達の直接的な危機には鈍いと言う。その点、ドワーフたちは同胞の飢餓の可能性を考えると、飛空艇という新たな輸送手段が出てきた今、その恩恵を早くに受けたいと願っている。だがそれをユルグが許すかというと別問題だと言う。それこそ多くの技術の流出がある事に、人族は反対と考えているのはごく自然な事だった。


「何だったら、監視するのを邪魔してくれるというわけか」

「ええ、それに情報の受け渡しがなければバアル様の機嫌も損ねるでしょうし、渡されないということはまずないと思いますよ」


 以前聞いたユリアの話でが、ドワーフの目的は飛空艇を使って欲しいとのこと。そして交渉のためにユリアは俺をこの場に招待したが、それは交渉の席に着かせるだけで、すでに報酬は確定しているという。そしてその報酬さえ払わなければ俺が飛空艇を使用しての補給はまずありえないと踏んでるらしい。


「なら、せいぜい交渉を頑張るとしよう」

「ええ、そうしてください」


 ユリアは余裕の笑みを浮かべているが、こちらにはその笑みがとても不安定にしか見えなかった。














 馬車はドミニアの町の中を進みとある山の中腹まで続いている区画まで訪れる。そこでは一般的な居住区画よりもはるかに大きな建物が連なる場所となっており、様々な大小の倉庫が建ち並んでいる。また、ほかにも使いやすいようにトロッコやそのためのレールが置かれていた。


 そして俺達はその中で中心部に工房に訪れており、キンコンカンコンと金の打つ音が微かに響き渡る中、俺達は工房の横を通って特別に作られている応接間に入るのだが。


「お~~う、ようきおったなぁ」

「親方、お客さんに悪人面はまずいです」

「誰が悪人面じゃぁ!!」


 部屋の中にいたのは、盗賊もびっくりするほど人相の悪いドワーフと、普通のドワーフよりもしっかりと身を整えている、言うなれば文官風のドワーフがいた。


「すまんのぅ、ああ見えて歓迎はしておるから気を悪くしないでくれ」


 そしてもう一人、知り合いと呼べるドイトリがこの場にいたのだが、普通ではドワーフも顔が怖い部類に入るのだが、目の前の人相の悪さと比較して何とも普通の面に見えていた。


「まぁ、人相の悪い親方は置いておいて、ご挨拶を。私は、ジアルドと申します。そしてこちらが――」

「おう、ここの鍛冶野郎どもをまとめているドゴエスっつうもんじゃ、以後よろしく」


 ジアルドは普通に笑顔を浮かべているだけで何も問題ないのだが、その横のドゴエスの笑みは完全に悪人の笑い顔でしかなく、ジアルドの優しい笑みが強調されてしまっていた。


「お久しぶりですドゴエス様」

「おぅ、嬢ちゃんも元気そうで何よりだ、でお前が」

「ええ、バアル・セラ・ゼブルスです。初めまして」


 相手がいかに凶悪そうな人物でも俺達は笑顔で接する。


「バアル、そんな口調をせんでいいぞ?正直、普通に話してもらった方が気楽でいい」


 ドイトリがそういい、ジアルドとドゴエスに視線を向けると二人とも頷く。


「そうか、ならそうさせてもらおう」

「そうしてください。それでは立ち話もなんでしょうから、こちらへ」


 その後ジアルドの言葉で全員が椅子に座り話し合いの場を整える。


「さて、和気藹々とした話をそちらは望んでいますか?」


 全員が席に着き、話し合いの姿勢を取ると、ジアルドが率直に聞いてくる。


「仲を深めるのは仕事の後でいいだろう」

「こちらとしてはどちらでも。この後の交渉はほとんどがバアル様が行うための物ですので」


 ユリアの言う通り、俺を連れてきたため、ユリアは報酬を貰うことが確定している。そのため、すでにユリアの仕事は終わってると言えて、後はどんな種類の冶金技術を貰うかという部分だけだった。


「そうですか、ではバアル様にお話があるのですが」

「飛空艇に関してか?」

「すでにお話は伺っていたようですね」


 ジアルドの視線がユリアに向くがユリアは素知らぬ顔で微笑んでいる。


「詳細の方は?」

「そこまでは知らされていないな」

「そうですか、ではユリア様、先に私が工房内をご案内いたしますので」

「……できれば一緒に話を伺いたいのですが?」


 ユリアはジアルドの提案をやんわりと断ろうとする。


「いえ、受け渡す報酬は種類によっては時間のかかるものですので……早めの内に伺っておきたいので」

「そうだな、15種の内、5種は、俺がもらうことになっているが、希望する報酬の中には時間を掛ける物もあるだろう、先にそちらの手配をしておけばスムーズにいくだろう」

「……そういう事ならば」


 ジアルドの言葉と俺の言葉でユリアは渋々腰を上げて、ジアルドと共に部屋を出ていく。だが同時にユリアはやや不信な目を部屋の中に残る全員に向けるのだった。

カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224

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