簡単な対策されど効果は抜群
『あれ?発動したのは『広域の闇』?それだけ?』
『『広域の闇』って?』
『学園で早めに習う魔法なの。それこそ中級の初歩の初歩って感じ』
『へぇ~~、効果は?』
『光を通さない黒い煙を広範囲に出すだけで触れても吸っても対して意味がない、本当に目隠し目的だけの魔法ね』
『え?それだけ?』
『それだけ』
周囲を黒い煙に包まれている最中、二人の会話が聞こえてくる。その声からそれだけで状況が変わるのかという疑問符が浮かび上がっているのが想像できた。
『いえ、それだけで十分よ』
また次には断言するクラリスの声が聞こえてきた。
「おい、クラリス」
『言おうと思ったけど、バアルが声を上げたから、止めておくわ』
こちらの声が届いたのかクラリスはそう告げる。
(さてこれからどうす――)
シュル!!
黒い煙により、数メートル先ほどしか見通せない中、何かが蠢く音が聞こえる。
「『天雷』」
音のする方に手を向けて『天雷』放つ。雷は黒い煙を切り裂き、地面を這っていた触手を焼き焦がす。そして『天雷』が通り抜けた部分の煙は晴れていたのだが、すぐさま元に戻っていく。
(ちっ、魔法を継続して発動しているのか)
普通の『広域の闇』なら、時間を置くか、魔法を与えることで煙は消滅する。そのために、一度きりの目隠し目的で使われることが普通だ。だが一度消えたのにも関わらず、すぐさま修復されているところを見ると、継続して魔法を使用しているか、何らかの工夫をしているとしか思えない。
(触れても息をしても、体に差異がない。となれば、継続もしくは消滅しても元に戻る工夫をしていると考えるのが普通か。そしてその目的だが)
シュルシュル
思考の途中再び、何かが蠢く音が聞こえてくる。
「『天雷』」
そしてその方角に向かって再び『天雷』を放つ。結果として、再び触手と煙が消滅して、空間が払われるのだが。
シュル!!×5
天雷を放った直後、周辺から再び何かが迫る音が聞こえてくる。それらを視界にとらえると、鋭利な棘のようになった触手が襲い掛かってきていた。
「『放電』」
体まであと少しという部分で『放電』を使い、触手と周囲の煙すべてを払う。その結果、襲い来る触手と煙が消え周囲の空間が開ける。だが、結局はそこまでだった。次の瞬間には再び黒い煙が広がり、視界を塞ごうとしてくる。
「……これが準優勝してまで願った戦いか?」
このままではいつまでも後手に回ると判断し、オーギュストに誘いをかける。
「正直、ワガハイが望んだ戦いとは少し違うであるが……今はワガハイの方が弱者で、バアル殿が強者である。そうなれば強者に策を仕掛けるのもまた普通である」
「ああ、そうかよ」
神前武闘大会の様に真正面からやりあうのがオーギュストの趣向だと判断していたが、返答で、今回は策を駆使しようとしているのが分かった。
(あっちが姿を見せる気がないのなら、埒が明かない)
おそらくは『飛雷身』対策に『広域の闇』を使用したのだろうが、その選択が俺にとって最悪だった。
まず、『飛雷身』だが、これは視界が通っている中でしか発動できない。雲の中という例外も存在するが、アレも偶然大丈夫だと分かったに過ぎない。そしてそれらの実験は自分の身を犠牲にして行うため、気軽に行えないため検証できていない。つまるところ『広域の闇』が存在する中では『飛雷身』は使用できなかった。
そして最悪な点は此処からだった。オーギュストは本戦でも見せていたが、離れていても触手や魔法、悪魔を生み出すなどといった遠距離攻撃が可能。もちろんここまでならこちらもできるのだが、それは敵を観測で来ていることが前提だった。それに対してあちらは先ほどの触手を這わせることで大体の位置の確認が可能、それどころかオーギュストが何らかの方法で感知出来ているのなら、一方的な攻撃が可能となってしまう。
シュル
「ちっ」
それから触手は様々な方角から襲い掛かってくる。右や左、真上、斜め上や斜め下、場合によっては同時に。そしてそれらを何度も切り払うがそれでもすぐさま『広域の闇』により煙が満たされて、いくつもの触手が這い出てくる。
(このまま触手の先を追ってもいいが、罠があると思う方が普通だろうな……なら、こちらも一枚切るとしよう)
触手に対処しつつ、一つの魔法をくみ上げる。
『出てこい、イピリア』
『なんじゃなんじゃ、数日ぶりに呼び負って、いい感じに深く眠るところじゃったのじゃぞ』
『文句言うな。それよりもお前が望む、戦いだぞ』
『それを早うい言わんかい!!』
心の中で苦笑すると、イピリアが背中から回り。右肩に頭、左肩に足が見える形で引っ付いた。
『いつもよりも大きいな』
何時のもイピリアであれば手のひらサイズの一~二倍に対して、今は頭から胴までが両肩にまで届き、左での肘先まで尻尾が伸びていた。
『戦闘となると大きい方が有利じゃからな。それよりも、いいようにやられているようじゃの』
『うるさい』
バベルと様々な技を駆使して、触手に対処するが、肝心の反撃が出来ていなかった。
『視界を隠されるだけで、こうも好き放題やられるとは、情けないのぅ』
『黙れ。それで、イピリアはオーギュストを感知する方法を持っているか?』
『ないこともないが、魔法で作られた煙ならば、無理じゃの』
『お前も言えた口じゃないな』
とは言うが、クラリスもミストガルーダと戦った際には同じような状態だった。魔力で感知する場合、『広域の闇』の様なデコイ伴ってしまう魔法だと意味をなさないらしい。
『しかし、そうなるとどうするか……』
『なんじゃ、対策はあるのか?』
『ないこともない』
脳内でいくつかの反撃のパターンを考えている。
一つは先ほども考えた、触手を辿っていく方法。ただ、これは罠を簡単に張られてしまうし、何より触手に細工をして迷わせたり距離をとおくしたという方法も可能なため不安定すぎた。
二つ目はバベルの『神罰』による広範囲の攻撃。ただこれは一度発動すれば、あとはバベルの技を一定以上使用しなければ、再使用できないため外せない。そして威力と範囲は使用した技の回数によるのだが。
(ここしばらくバベルは使用していないからな、発動できても最小限の範囲となるだろうな)
現在、刃以外の表面に描かれている文字はほんの少ししか反応していない。そのため、発動できても自身とその周囲10メートルほどしか効果は無いだろう。
『三つ目は?』
『魔力供給により効率が悪くても範囲攻撃を行い、制圧していくこと』
『当たればいいが、避けて移動されたら終わりではないか』
イピリアの言う通り、一定の範囲攻撃をできたとしても、その範囲から外れて、その後に移動されてしまえば最初の状態と何も変わらない。また、ほかにも魔力を補充するには一定時間で補給できる魔力に関しては限りがあるため、無尽蔵に攻撃を行うと言うことはできなかった。
『ほかは』
『正直、使用したくないが、俺が探知するための能力を身に着けることだ』
『ほぅ』
脳内で、イピリアにどうするかを説明する。
『それが、一番いいのではないか?』
「なら、変われ」
『よしきた!!【雷鳴恢恢】』
*********---!!!!
以前魔蟲との時に聞いた、言葉にならない音が鳴ると襲い来る触手の先端部分がプラズマに包まれる。
『ほれ、今じゃ』
そして、その間に俺はある物を取り出す。
キュポ
蓋を取る音が聞こえてくると、そのまま取り出した、瓶を口に当てて液体を飲み始める。
「っっ、ぐっ、辛!」
舌の上を這うように走る痛みをしびれを感じる。だが、痛みが過ぎれば、体にある変化が起こる。
シュル
スッ
サッ
今まで聞こえなかった音がよく聞こえるようになってくる。
『見つけたか?』
「ああ、行くぞ、援護を頼むぞ」
『任せろい』
イピリアの返答を聞くと、腕をその方向に向ける。
トッ
『天雷』
先ほどよりも多くの魔力を込めて『天雷』を放つ。そしてその際に聞こえた、微かな音が聞こえる方へ腕を動かす。その結果、煙は多くの部分が消えてなくなり、見晴らしがよくなっていた。
ダッ
「逃がすか『真龍化』」
今度はしっかりとした音が聞こえると、『天雷』を止める。そして今できる最大の強化を行うと、音の方角へ全力で移動した。
「『怒りの鉄槌』」
「むっ」
目標を見つけると、効果が切れた『怒りの鉄槌』を再び発動して、攻撃を仕掛ける。
ドン!!
目標が避けたことに寄り、バベルがステージに衝突する。その際に『真龍化』しているため、衝撃でステージを爆ぜさせる。ただ、目標には当たっていなかった。
「手こずらせてくれるな」
「ふむ……どうやら、目算を間違えたであるな」
目線の僅か2メートル弱のところには悪魔の状態のオーギュストがいた。
「もう逃がさん」
「ふむ、その前に一つ、どうやって見つけ出したのであるか?」
「教える馬鹿がどこにいる」
話は終いだと言う風に俺は再びオーギュストに接近する。
「ふぅ、どうやら逃げ切れない様であるな」
いくら黒い煙で視界が悪いとはいえ、数メートル先が見えているその中にオーギュストを捉え、さらにはこちらの方が速いともなれば逃がすことはない。
「『降魔・戦律之玉体』」
だが、次の瞬間、オーギュストは何かしらの技を発動させる。
「『闇呑み』」
次に、何度も見たことがある技を使用すると、オーギュストは素手でバベルの『怒リノ鉄槌』に横から振れて、僅かに逸らす。
「しっ!!」
バベルはそのままステージに振り下ろされ、そのすぐ後にオーギュストの蹴りが顔面に向かって放たれた。
「っ」
俺はバベルから片手を放し、オーギュストの蹴りを片腕で受け止める。
「『放電』」
そしてすぐさまに避けられない『放電』を与える。
バッ
一通りの『放電』を食らうとオーギュストは後ろに飛び離れる。
「さっきとは、姿が違うな」
『放電』により視界がよくなった空間でオーギュストを観察する。オーギュストの体は悪魔の状態でもその体躯が大きく変わっていた。腕と足は太く長く、そして尾は太く鋭くなっており、また胴には鱗の様な物が生え、頭には頭突きしやすいような角まで生えていた。
(戦闘に入ったからか、『広域の闇』は止まったか)
先ほどなら俺とオーギュストの周辺、煙が払われた空間があれば即座に煙が復元して再び視界が悪くなるはずだった。だがそれが元に戻る様子がない。
「仕方ないのである。先ほどの暗闇で仕留められればそれでよかったのであるが、こうなってしまえば近接戦で応戦しなければいけないのである」
オーギュストはそういうと構えを取る。
オーギュストの答えは正解だった。視界にオーギュストの姿がないのなら、闇に紛れていくらでも攻撃が出来たのだろうが、一度視界に捉えられてしまえば速度が負けている以上逃げることはできない。
(まぁ、暗闇の中でなぜ触手の身でしか攻撃をしなかったのかという疑問はあるが、どちらにせよ好都合だ)
また、この疑問による答えは後から知ったのだが、どうやらオーギュストは本体の位置がばれないように攻撃するために触手のみで攻撃していたらしい。なにせ下手な攻撃では自身の暗闇を消す可能性があったからだ。そしてその一瞬でも視界が確保できてしまえば、その瞬間に俺が移動してくる可能性があるため迂闊な行動は避けたという。
「丁度いいのであるな」
オーギュストはまるでボクシングのリングの様に煙が消えた空間を見ながらそういう。
「それには同感だ」
「なら、行くのである!!」
意を決したのか、オーギュストは突撃してくる。
それを見ると、俺は手をかざす。
「『天雷』」
「無駄である」
オーギュストはそのまま迫る『天雷』に突っ込んでいった。
「本気かよ」
『天雷』を突き抜けてきたオーギュストに驚きながらも、冷静に出てきた瞬間にバベルを振るう。それも『怒リノ鉄槌』が続いた状態でだ。
「何度も見たである『闇呑み』」
オーギュストは『闇呑み』を発動すると、再びバベルの側面を触り、軌道をずらす。
「なんでずらせるのだか」
『怒リノ鉄槌』は触れるだけでその部分が消滅する効果を持ち合わせている。なのにオーギュストはそれに触れていた。
そしてバベルをずらした後、オーギュストは綺麗なストレートを顔面に向かって放ってくる。それを見るとすぐさま片手でガードしようとするが
「『嚙み砕く右手』」
オーギュストの拳が割れ、顎の様になると、そのままガードする腕をかみ砕こうとしてくる。
グガリ
だが、こちらの防御力が高いからか、顎は薄皮一枚だけ裂き、残りは強く腕を揉むだけとなった。
「なら――」
「いや、終わりだ」
次にオーギュストが何かをしようとするが、その前にこちらが動く。
『神罰』
その技を使用すると、次の瞬間には天から光の柱が降り注いだ。
カクヨムにて先行投稿をしています。よろしければそちらもどうぞ。
https://kakuyomu.jp/works/16816452220569910224




