第一章 人間、櫻井朱矢
「科世葉ー!科世葉!科世葉!」
「あばべっ!?」
友達の奈田技科世葉を起こしながら、先生の視線がこちらに向いていないか確認する。無事、向いてないことを確認して、二度寝しそうな科世葉を起こした。
小学校で出会ってから約8年、ほぼ日常とかしている二人の5限のルーティーンだ。
「寝ないでね〜、確かにめんどいしだるいしつまんないし面白くもないけど、」
「多分昼寝より怒られるの確定なセリフだね。」
まあそんなことは一旦おいておいて、と朱矢は言ってちょうど見つけた眠気覚ましを科世葉の前に出した。
成績表という名の眠気覚ましだ。
数学と社会の成績がすこぶる悪い科世葉は成績表を開いてすらいないと言った。だが朱矢は容赦なく開く。
そうこうしているうちに5限の終わりを告げるチャイムが鳴った。
「次は理科だね。ロッカーに教科書取りにいk」
「私はトイレ行ってくる。」
「ガーン。」
「セルフ効果音やめい。」
ちょっと笑いながらツッコミをして、科世葉に手を振った。科世葉もまた後で〜、と言って手を振りながらロッカーの方へ駆けていく。
朱矢は科世葉を見送りながら、休み時間始まったばかりで空いているトイレへ入っていった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「きゃああああああああああああ!!!」
悲鳴、それもただ事ではない、人間が命の危機に晒されたときに出るレベルの悲鳴。教室にいるであろう科世葉に関わるものではないかと心配になった朱矢はすぐさまトイレを飛び出た。飛び出た瞬間、首に何かを突きつけられた。
ヒヤリとした金属の感触と、視界の端に映る木でできた持ち手。
包丁だ。
「動くな。」
視線だけをどうにか動かして、包丁を突きつけてきた相手を見た。
人間の中ではあまり見ることのない赤い眼、口から飛び出す二つの鋭い牙、そして何より髪の毛の間から生えている2本の角が“人間”ではないことをものがたっている。
視線を正面に移すと扉越しに教室が見える。いつもは先生が立っている教壇には、炎を吐く狐。
“怪物”の襲撃だ。
⭐︎⭐︎⭐︎
“怪物”。
ときに人に化け、ときに人を喰い、約6000年前から日本の歴史の傍に存在し続けた異形の化け物。
4000年前から始まった研究で分かってきたこともあるが、それでも不明なところがが多い。
怪物は日本にしか存在せず、親子といった概念はなく自然発生。人智を超えた力を生まれつき持っており、限られた方法でしか殺すことはできない。
約4000年もの間研究してもこの程度しか分からないのは異常と言っていい。最近では、当の怪物達でさえ自分たちの出自は知らないんじゃないか、という説まである。
⭐︎⭐︎⭐︎
包丁を突きつけられたまま教室の中に入れられた朱矢は何よりも先に確認しなければいけないことがある。
(…?)
しばらく教室を見回してみたが、何回見直してもいない。
「科世葉…?」
どれだけ探しても、教室に親友の姿は見当たらない。最悪のパターンを想像して青ざめたが、すぐにそれを否定した。
(科世葉はまだ生きている。)
ただ信じていたいだけかもしれない。それでもそう信じないかぎり朱矢は理性を保てる自信がない。
(大丈夫、まだ生きてる…大丈夫、大丈夫。)
焦る意識を落ち着かせ、目の前の“怪物”達に動きがないことを確認する。
(今だッ!)
急いで教室を出て階段の踊り場まで走る。一息ついて追っ手がいないことを確認してまた走り出す。
(違う、これじゃない。この匂いも違う。どこにッ—-)
凄まじい速さで前へ後ろへ交互に出ていた足が止まり、辺りを見回していた目が一つの教室に釘付けになった。
「見つけた。」
朱矢は確信を持った声で言った。
なぜこんな空き教室に?などという疑問は科世葉の無事を確認してからだ。
ドアノブに手を伸ばして開け…ようとした。
「ガッ!?」
金属でできたドアに穴があき、朱矢自身の腹にも何かが突き刺さった。
廊下の壁に叩きつけられる感覚と目に映る赤黒い液体。
…違う。朱矢の目に映っているのは赤黒い液体じゃない。
その奥、ドアに空いた穴の奥。
“怪物”に捕まって気絶した科世葉だ。
自身の腹に空いた穴などお構いなしで怒りを露わにして叫ぶ。
「科世葉になにしたああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
⭐︎⭐︎⭐︎
『◼️◼️…?なんで…?』




