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デバッグ・アウト! 〜自作乙女ゲーの悪役令嬢に転生したけど、クソバグだらけでセルフ尻ぬぐいしてる件〜  作者: 上園 千紗


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第16話 デバッグ・アウト!(後編)

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「吉沢さん、キャラの顔が笑ったまま戻らないバグだけど、早めにプログラマーに調査依頼しておいて」

「わかりました、すぐやります」


 使い慣れたデスクとコーヒーの香りに囲まれて、私は今日もバグ対応に追われていた。


 伸び切ったネイルを邪魔に思いながら、キーボードを叩いた。


 あの世界から戻って、はや三ヶ月が経とうとしていた。


 カイルとテストマップを塞いだあと、無事に元の私――ゲームプランナーの吉沢由梨として目を覚ました。

 会社員として、毎日あくせく働く日々にもようやく慣れた。


「あーバグが多いなあ」

「ほんとね。吉沢さんも、残業しすぎてまた倒れないようにね」


 隣の席の先輩が言った。

 あの世界では一年近く過ごしていたが、現実世界では寝不足で倒れて一日入院しただけだった。

 幸い、三日休んですぐに復帰できた。


「もっと発売日の余韻を味わいたかったわ」

「ですよねー」


 仕事で携わっていたゲームは、先週無事に発売された。

 ソフトを買って、最後までプレイして、スタッフロールで自分の名前も見た。

 売り場の視察もできた。


 満足できたものの、開発現場ではお祝いムードもそこそこにDLC制作へ突入している。


「金曜だし、もう一息がんばろう」

「はい!」


 ぬるいコーヒーを飲み干して、先ほど頼まれたバグの確認に取りかかった。


 そこへ、小走りで上司がやってきた。

 いやな予感がした。


「吉沢さん、Sバグ! キャラが街の入り口で突っかかって進行不能って!」

「すぐやります! 多分コリジョンです!」


 私は肩をグルグルと回して、マップデータを開いた。


*    *    *


 18時。無事に定時退勤した。

 さすがに倒れるまで働くのはやりすぎたと反省した。

 命あってのクリエイターだ。


 今日は華金だし、Sバグも直った。

 心おきなく帰れる。


 家に帰って爆速で風呂を済ませ、私はパソコンに向かった。


「お、今日もダウンロードされてる」


 エルザのゲームこと『悪役令嬢の心得』は、仕事の合間を縫ってなんとか完成させた。

 先日公開し、毎日ポツポツとダウンロードされている。


「会いたいな……」


 ゲーム画面を見つめて呟いた。


 ニーナにレオ、そしてカイル。

 時々思い出して、あのにぎやかな日々が恋しくなる。


「元気かなあ」


 あの世界が何だったのか、結局わからなかった。

 今もどこかでカイルたちは生きているかもしれないし、眠っている間の私の夢だったのかもしれない。


 しかし、たとえ夢だったとしても、あの時、あの場所に私たちは確かに存在して、一緒に過ごした。


 積み上げた時間は、私の中で静かに巡っている。


 そう思えるようになったのは、最近のことだ。

 戻ってすぐは心にぽっかり穴が開いたようで、高架下で酒をあおって一人で泣いていた。


 そのうち店の常連たちが代わる代わる私を慰めてくれるようになり、今では私も常連入りしている。


「あっ。そうだ、お酒!」


 その店で飲んで気に入った日本酒を、先週通販で買った。

 金曜だし、開けてしまおう。

 スキップで冷蔵庫に向かった。


「たっかい~おっさけ~」


 鼻歌を歌いながら酒を用意して、パソコンの前に戻った。


「かーっ、うまい!」


 おちょこをあおりながら、ゲームエンジンを起動する。

 ゲームを作るためのソフトだ。

 本業はいまだ修羅場だが、そろそろ新しいゲームを作りたい。


「次はRPGとかいいなあ」


 新しいプロジェクトを開いて、テストマップを作った。

 そのまましばらく、何もないその画面を見つめていた。


「閃いてしまった」


 キャラクター素材の入ったフォルダを開いて、検索窓に文字を打ち込む。


『Kyle』


 エンターキーを叩くと、よく知ったガラの悪い顔の男が出てきた。

 ニヤリと笑って、私はその素材をテストマップに入れた。


 ゲーム作りに欠かせない、大切な相棒だ。


 私はペチペチと頬を叩いた。

 急速にやる気がわいてきた。


「よーし、やるぞー! その前にスルメだー!」


 つまみを取ろうと立ち上がり、そして――。

 床に投げ出していた腹筋マシンにつまずいて転んだ。



デバッグ・アウト! ver.乙女ゲーム

~完~


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

気に入っていただけたら、感想等いただけると嬉しいです。


新作『似たもの夫婦の恋日和 ~冷徹騎士団長は無口アホ令嬢を読解してみせます!~』もよろしくお願いします。

RPG編はそのうち出るかもしれません(笑)

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