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霧の朝、小村の門をくぐったリオとカイルは、村人たちの視線に気づいた。
恐怖と不安が入り混じった目で、二人を見ている。
「……みんな、昨日の影のせいで怖がってるんだろうな」
リオは無言で村の広場を歩き、住民の中で最も勇気を振り絞ったように立つ村長の前に立った。
「リオさん、お願いします……この村を守ってください」
村長の声は震えていた。背後には、怯えた子どもや老人が隠れている。
「条件は?」リオは静かに訊く。
「村の周辺を巡回して、影の出現を阻止してください。報酬は……これだけですが」
村長が差し出したのは、銀貨数枚。普通の通貨だ。
リオは一瞬ため息をつき、しかし口元にわずかな笑みを浮かべる。
——この程度の報酬でも、契約の面白さには変わりはない。
「契約成立」
リオの言葉と共に、カイルは手をかざす。幽霊の体から微かな光が放たれ、村の周囲に結界のような線が描かれた。
「……え? なにその線?」カイルは驚きながらも楽しそうに笑う。
その時、影が再び現れた。
黒い霧の塊が、村の外れの森からゆっくりと歩み寄る。
普通の人間なら恐怖で動けなくなるが、リオは冷静だった。
手のひらから光の糸を出し、影を縛る準備をする。
「カイル、あの影を追い込め」
「おう!」
カイルは喜々として影の前に飛び出す。幽霊の体で壁をすり抜けながら、影の足を掻き乱す。
影はただの幻影ではない。何か意思を持ち、カイルの動きに反応して逃げたり攻撃したりする。
リオは糸を巧みに操り、影を結界内に封じ込める。
「これで一時的には安全だ」
しかし、影の消え際に赤い光がひとつ残った。
リオはそれを見逃さなかった。
——ただの小物ではない。
その光は、影を操る者の存在を示す痕跡だった。
村人たちは恐怖から解放され、少しずつ安堵の表情を取り戻す。
村長が礼を言い、銀貨を手渡すが、リオの目は影の残した痕跡に向けられたままだ。
「……奴ら、遠くから監視している」
リオの声は低く、カイルには少し怖く響く。
「面白くなってきたね!」




