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街を出る決意をしたのは、翌朝のことだった。
リオは荷物をまとめ、カイルを見下ろす。
「……本当に、ついてくるのか?」
「当たり前じゃん! あんたの旅、面白そうだし!」
カイルの笑顔は無邪気だが、その目の奥には、昨日見せた影の存在に対する微かな恐怖が隠れていた。
リオは無言で頷き、二人は街の外れにある石橋を渡った。
橋の下の川は静かに流れ、霧が朝日に照らされて銀色に光る。
——こういう世界の端っこに、危険が潜んでいるのだ、とリオは感じた。
その直後だった。
「うわっ!」
カイルが突然、背後に振り返り叫んだ。
黒い霧が石橋の先に立ち込め、ひとつの人影が浮かび上がる。
影は人の形をしているが、手足がねじれ、目だけが赤く光っていた。
「また、奴らか……」リオの声は低く、冷静だった。
手のひらに微かな光の糸を走らせる。光の糸は影に絡みつき、動きを制する。
「なにこれ、面白そう!」カイルは嬉々として影に飛びかかる。
しかし、影の攻撃は即座に反撃を返す。カイルは壁をすり抜けて避けるが、笑っていられるほど余裕はない。
「無闇に突っ込むな、カイル!」リオは糸を強め、影を縛り上げる。
影は苦悶の声を上げて消えたが、その後に残った黒い煙が小さく震え、逃げ去った先を示していた。
「……奴ら、街だけじゃなく、周辺まで見て回っているな」リオは静かに呟く。
カイルは息を弾ませながら、リオに目を向ける。
「ねえ、リオ。あの影、僕が知ってる“未練を利用する奴ら”と関係あるのかな?」
リオは答えず、ただ影の残した痕跡に手をかざす。光が痕跡に沿って揺れ、逃げた方向を示す。
「……面倒くさいが、追うか」
二人は影の後を追いながら、最初の小さな契約のために立ち寄った小村に到着した。
村は、影に怯える住民たちで活気が失われていた。
リオは村長と短く言葉を交わし、契約条件を確認する。
「村の周辺を監視する代わりに、少額だが報酬を支払う」
リオは契約の詳細を読み上げ、カイルは契約の魔力の補助役として手をかざす。
影が再び姿を現した。
村人たちは恐怖で震えるが、リオとカイルは落ち着いて対応する。
リオの糸、カイルの幽霊能力、二人の力が絡み合い、影を捕縛。村人たちの安全は守られた。
「やれやれ、これで少しは刺激になったか……」リオはため息をつく。
カイルは笑いながら、リオの肩を叩く。
「もっと面白くなりそうじゃん!」
だがリオの目には、影を操る者の気配がかすかに残っているのが見えた。
——あの影は、単なる手下ではない。
何か大きな計画の一端だと、リオは薄々感じていた。




