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街の石畳に、朝の光が斑に落ちる。
小さな露店が軒を連ねる商人街。香辛料の匂い、焼き立てパンの匂い、湿った石の匂いが入り混じり、今日も街は目覚めていた。
リオは静かに歩きながら、露店の間に立つ少女に目を留めた。
銀色の髪を風になびかせ、どこか浮遊しているように見えるその姿は、普通の人間ではない――そう直感した。
「……やっぱり、魂か」
声は出さなかった。ただ、手のひらに微かな波紋を走らせる。空気の密度が少しだけ変わる。
魂を感知する――リオの商人としての本能は、この街で最も重要な力の一つだった。
その時、少女の足元に突然、黒い影が落ちた。
影は人型だが、形が歪み、目だけが不自然に光っている。
「ちっ……またか」リオは呟いた。
その存在は、街の裏で魂を狩るならず者だ。まだ小物だが、見過ごせば他人に害が及ぶ。
「危ない!」
少女の声と共に、黒い影が少女に向かって飛びかかる。
リオはためらわなかった。足を踏み出すと、空気の中で微かな光の糸が走り、影を縛り上げる。
瞬間、影は断末魔のような声を上げて消えた。
「……あなた、魂の扱い方、心得てるね」
少女は目を丸くしてリオを見上げる。
「そう見えるならそうなんだろう」リオは淡々と答えた。
その夜、リオは少女と街の小さな酒場で向かい合った。
「名前は?」少女が訊く。
「リオ」
「私は……カイル。……死んでる」
リオの眉がわずかに動く。
「……死んでる?」
「ええ、でも意外と気楽。誰も見えないし、好きなところ行けるし」
カイルは楽しげに笑ったが、目はどこか寂しげで、深い影を感じさせる。
リオは黙って酒場の壁を見た。
——この少年には、何か大きな未練がある。
そして、街に現れた影の件も、単なる小物ではない。
どこか大きな渦の端が、この小さな事件に触れている気がした。
リオは思った――
「面倒くさいことに、巻き込まれそうだ」
しかし、その面倒くさいことこそが、リオの長い不死の人生に、久しぶりの刺激を与えることになるのだと、この時はまだ気づいていなかった。




