現状把握
「さて、どういう事か聞きましょうか。」
サリヤ達が帰ってきてオークの襲撃は一先ず収束した。敵の数が増えなくなったのだ。外からの襲撃は収まり、転送してくる事もなくなった。兵を集めて周辺の警戒はしているが、追加のオークは見つかっていない。そして俺達は屋敷に集まっている。
「それが全容は僕にもわからないんだ。」
「わからない?では何故貴方はあの洞窟にいたのですか?」
サリヤ曰く集まったオークを追っていくと洞窟に入っていったようだ。時間が経っても誰も出て来ないので入ったところ、中でランシュウさんが縛られていたらしい。
「お姫様達と別れた後暫くして、インフィ君の様子がおかしくなったんだ。誰かに呼ばれてるって言い出したんだよ。」
「呼ばれている?」
「そう。頭の中に誰かの声が聞こえて語りかけてきたんだって。集まれ、って。それが気色悪くて体調も悪いからあの洞窟で休んでたんだ。奥に広い場所があったからね。そしたら杖を持ったオークが他のオークを引き連れる様に入ってきたのさ。」
「引き連れる?私達が追っていたオークには杖を持ったオークはいませんでしたが。」
「ああ、そのオークが来たのは結構前の事だよ。ずっと洞窟の中にいたから正確ではないけど、一昨日くらいかな?」
「私達が行く前にもオークが集まっていた?」
「そう。後ろのオーク達は色んな所から集められたみたいで統一性はなかった。僕達は抵抗したけど捕まっちゃったんだ。抵抗したインフィ君を見て、杖のオークは「ここまで抗う同胞は初めてだ」って言ってたね。」
「抗う?」
確かに他のオークと比べてインフィさんの様子はおかしかったような?
「そしたら杖のオークがインフィ君の頭に杖をかざしたんだ。杖から触手が出てインフィ君の耳に入っていったのさ。」
「触手!?それってさっきインフィさんから出てたやつですか?」
「そうだよ。それを入れられてインフィ君は余計に辛そうだった。けど、杖のオークに従う様になっちゃったんだ。ずっと杖のオークを睨みつけてたけどね。」
「なるほど。あれほどの数のオークが集まり、魔獣のように侵攻してきたのはその杖によって操られていたから、ということですか。」
「うん。でもインフィ君は完全には操られてはいなかったみたいで、僕が殺されそうになったら助けてくれたんだよ。今生きてここにいられるんはインフィ君のおかげさ。杖のオークはインフィ君が他のオークから僕を助けたことにもかなり驚いていたよ。」
ランシュウさんの顔が険しくなった。
「さっきも俺と戦いながらも何か抗っているようでした。他のオークは容赦なく俺に攻撃してきたのに。」
「でしょ?だから多分インフィ君は他のオークと違って、完全には操られてはいないんだ。」
「それで?その杖のオークや他のオークはどうしたんですか?」
インフィさんの話には興味がないと言わんばかりにサリヤが話を急かした。
「ああ、インフィ君を操った後に魔法陣を描き始めたんだ。結構な時間をかけていて、全部で十個描いていたよ。そしてそれぞれの魔法陣で転送を始めたんだ。転送が終わった魔法陣は勝手に消えていっていたよ。そして全てのオークを転送した後に杖のオークは僕を殺そうとしたんだけど、そのタイミングで入口の方から音が聞こえたのさ。」
「それって、私達ですか?」
「そう。それを聞いた奴は残ってた魔法陣で何処かに行ってしまったよ。」
「なるほど。国の中に転送なんてどうやったのかわからなかったですが、時間をかけて魔法陣を描いていたのですね。しかもこの国に近い洞窟の中で。」
「そんなに転送って大変なんですか?」
俺の中では魔法があれば気軽に転送が出来るイメージだった。
「ええ。手間がかかり、発動条件が難しい魔法です。まず詠唱とは別に転送の魔法陣を描く必要があります。更に魔法陣を描く場所は魔力の流れが少ない屋内が適しています。そこまでして描いても転送できる距離と数にはかなりの制限があるのです。」
「じゃああんなに多くのオークが転送されるには凄い準備がいるんですね。」
「それに転送される場所にもきちんと魔法陣を描き、魔力を込めなければなりません。少なくとも入ったこともない他国に転送なんて事は出来ませぬ。」
そういうとサリヤとルプスさんは考え込んでしまった。
「でもインフィさんは凄いですね。他のオークと違って抗うなんて。」
「そうだろう?自慢の親友さ。だから次にあったらあの杖の洗脳から解放してあげないとね。」
ランシュウさんに少し笑顔が戻った。
「それでは貴方はそのオークを助けたいと?」
ここでルプスさんが話に入ってきた。とても神妙な面持ちをしている。
「はい。他のオークは完全に操られていますが、インフィ君はまだ抗っていて、助けられると思います。」
「だが、話を聞くに魔法で操っているのではなく、直接何かを頭に植え付けられているのであろう?それを取り除くのは不可能なのではないか?」
「それは・・・」
ランシュウさんの顔が一層険しくなる。
「それに仮に救う方法があったとしてもそのインフィだけを殺さずに捕縛することは不可能だ。先程の襲撃で死者は出なかったものの、負傷者が多く出ていて、皆報復を望んでいる。オークの潜伏先がわかったら報復の戦いが始まる。まだまだオークが多くいると考えると、その中から特定は不可能だろう。」
「じゃあ、僕も戦いに参加させて下さい!最前線で戦えば判別ができます!」
「それも難しいでしょう?」
次はサリヤが言い放った。
「貴方の弓はあの洞窟で壊されたでしょう?」
「うっ。」
「貴方は魔法が使えず弓がなければ戦えない。そんな貴方を戦いに加えても直ぐに死ぬだけです。」
「うう。」
ランシュウさんは反論ができずうつむいてしまう。
「失礼します。」
重たい空気のザーガさんが入ってきた。
「どうした?」
「二つ報告がありまして。よろしいでしょうか?」
「ああ。」
ザーガさんの表情は大分強張っている。
「一つ、先の襲撃から逃げたオークが向かった場所がわかりました。奴等は森の中の遺跡に向かった模様です。匂いから察するに、その遺跡には先の襲撃に参加したオークと同数程度のオークがいるようです。」
「むぅ。では第二波があるかもしれんな。先に手を打たねば。それで二つ目は?」
「二つ目は、」
ザーガさんの声が止まる。
「ザーガさん?」
思わず声をかけてしまう。
「二つ目はオークが投げてきた袋の中身がわかりました。・・・中身はオークの子供でした。」
「・・・え?」
まさかの情報に言葉が出ない。あの小さな袋に子供が詰められて、投げ込まれたってこと?
「し、しかしあの袋から転送の魔法陣が表れオーク達が転送されてきました。その袋に子供が入っていたなんて・・・。」
「まさか。」
シルビアの震えた声を聞いて、思いついてしまったことがある。
「子供に転送の魔法陣を描いて、子供の魔力で転送させた・・・なんてことはないですよね・・・?」
頭の中の仮説を恐る恐る言ってしまった。
「有り得ない、とは言い切れませんね。それなら途中で転送が終わった理由も説明がつきます。」
「と、いうと・・・。」
「子供に魔法陣を描き、子供の魔力でそれを維持していたのかもしれません。そして子供が力尽きたら魔法陣も消える、と。子供を調べても魔法陣の痕跡は残りません。」
サリヤも言葉を選びながら話している。
「袋の中の子供は、全員息を引き取っていました。有り得ない話ではないかと。」
ザーガさんも拳を握りしめながら現状把握をしている。
「で、でもそんな非道な戦略をとるでしょうか?」
シルビアの言葉に答えたのはルプスさんだった。
「オーク達が編み出した戦法ではないのかもしれません。オーク達を操っている黒幕が非道な戦略を思いつき、操られているオークは異議を唱えられないのかもしれません。」
「・・・今は全てが仮説に過ぎません。その見つけた拠点に向かい、真実を確かめましょう。第二波を想定し戦略を分散しましょう。ルプス殿、振り分けを任せてもよろしいですか?」
「承知致しました。」
「私とレイトは拠点に向かいます。シルビアさんはここに残ってください。」
「わかりました。気をつけてください!」
俺達それぞれの手を握り目を見て必死に伝えてくれるシルビア。
「うん!」
返事も思わず力が入る。
「レイト君。」
手を離すとランシュウさんが近くにやってきた。
「はい?」
「一緒に行っても足手まといになるだけだから、僕は残らなきゃならない。インフィ君の事をお願いしたいんだ。」
「・・・はい。」
「他のみんなの総意では、インフィ君を助ける事は出来ないって意見だ。さっきはまだ抗っていたけど、次会ったら容赦なく攻撃してくるかもしれない。そうなったら自分の身を守ってほしい。」
「はい。」
「でも、もし!もしまだ抗っていたのなら、助けてくれないか!お願いだ!どうすれば助けられるのかは僕にもわからない!でも!」
両肩に手を置かれ懇願の表情が目に映る。
「頼む!唯一の友達なんだ!」
その目には薄っすらと涙も見える。
「わかりました。」
ランシュウさんの手に自分の手を重ね、誓う。
「絶対助けてきます。」




