ep90 戦犯(White underwear)
「さて、あちらも始まったようですし、こちらもとっとと終わらせてしまいましょう……。――妾も久し振りの戦闘……。如何に無知蒙昧な獣と言えど、妾の日頃から溜まりに溜まった鬱憤を晴らす事くらいは出来ようものよ……な?」
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「こぉんのバカ者共がーーーーーッ!!ふしゅるるる〜」
「まぁまぁ、おかみさん。落ち着いて落ち着いて。コイツらだって悪気があったワケじゃあないんだから」
「あ……姉貴……」
「バカ妹ッ!アンタは黙ってなッ!」
――ぐすんッ
二人が発った日の昼頃に漸くエレは帰って来た。それこそ空間拡張機能かばんにこれでもかッと言うくらいに獣の素材やら、宝石類、希少な装備品などのお宝が、それこそパンパンになるまで詰め込まれていた。
それでも取りこぼしが多かったと言うのはエレの談。
エレは「魔の酒場亭」にディアがいない事は熟知していたが、イシュとアマテラの二人がいない事を訝しみ「アタシがいない内に何かをやらかして遂にクビになったか!」と喜んだものの、「おかみ」の口からギルドの依頼で鳥竜種の討伐に行った旨を聞かされ、多少の悔しがりを見せた。
どうやらがめついエレはあと半日帰って来るのが早ければ、リソグラフィカの報酬もゲット出来た機会があった事を知り、それをも取りこぼした事で悔しがっている様子だった。……なので、多少ではなく、ある意味で本気だったかも知れないが、それはそれ。これはこれ。
帰って来た早々にエレはパンパンに詰まった中身の整理を終わらせ、器用に獣の素材の解体から加工まで終わらせると、「おかみ」との商談に取り掛かった。一応、今回の地下迷宮攻略は「魔の酒場亭」からの所用だからこそ、最初に「魔の酒場亭」が四割の素材を受け取る事が出来る。
宝石類や装備品などのお宝は交渉次第だ。そちらには「魔の酒場亭」に優先権はない。獣の素材はまた同じ獣を狩れば手に入るが、宝石類や装備品などは同じ物が手に入る保証はない。そしてそれらの中には唯一無二の逸品もある。
故に共通ルールとして、依頼人側と冒険者側の力関係に優劣はない。あるとすれば交渉力が問われるコトくらいだ。
交渉が粗方纏まり、ホクホク顔のエレと「おかみ」だったが、この直後にアーレの城下町にまで届く途方もない爆発音が鳴り響いた事で、「おかみ」の顔は引き攣っていったのである……。
「あのさ……おかみさん……」
「それ以上は言わないでおくれ……。悲しくなる……」
さて、賢明な諸君は何が起きたのかもう分かっている事だろう。――戦犯はアマテラである。
アマテラは「おかみ」から権能の使用は禁止されていたが、それ以外の力の行使は禁止されていない。故に、光属性の戦略的対軍用極大魔術“太陽を落とす女”をリソグラフィカの群れ目掛けてぶっ放したのだ。
結果から先ず言わせてもらうと、リソグラフィカは欠片も残さず燃え尽き、広大なセーリアス森林はほぼ全てを焦土と化した。その場にいたアコウパーティとイシュ、アルカディアも本来なら燃え尽きていたコトだろう――
だが空から落ちて来る燃え盛る太陽を見留め、その異変を察知したイシュがアコウパーティ四人を『火事場のクソ力的なナニカの力』で強制的に抱きかかえ馬車に戻った結果、事無きを得たのである。
イシュはアルカディアが言っていた、「この周辺で一番の安全な場所」に避難したと言えるだろう。ちなみに、イシュが四人を抱えて滑り込みセーフをした際、アルカディアはもう車内にいた。
その表情はニヤニヤと下卑た目をしており、その唇から這い出た舌はニョロニョロと舐めずっている。その視線の先には色々とはだけて、ある意味で妖艶なあられもない姿になったイシュがおり、その容姿を隅から隅まで脳内保管するが如くに見詰め回していた。
その後アルカディアが何かを呟いていたが、イシュの耳にその声は入らなかった――
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「まったく、ギルドに貸しを作るハズが、借りを作っちまうなんて、とんだ誤算だねぇ……。エレ、アンタはアマテラの戦闘スタイルを知っていたかい?」
「あれ?疑似惑星の時の一部始終をおかみさんに伝えたと思ってたけどなぁ……。――あん時は確か……アマテラが開幕早々に強力な戦略的魔術と権能を使い過ぎて、最終的にガス欠起こしてダウン……じゃなかったか?言わなかったっけ?」
「聞いてたね……はぁ……」
――リソグラフィカ討伐から数日経ったある日――
今回、報酬を受け取れる状況にはなかった。例え受け取ったとしてもそれは銀貨7枚だけ。どこにも所属していないセーリアス森林を消失させた損害によって発生した賠償はないが、アマテラの戦略的極大魔術の余波はアーレの城下町に被害を出した。それの賠償請求は「魔の酒場亭」の元に続々と届いている。
国に対してはギルドが執り成し、大事にはならないで済んだが、請求書の数は日に日に増え、塵も積もって小高い山となった今、「おかみ」を悩ましている――




