ep89 お守り(Talisman role)
「あれが……鳥竜リソグラフィカ?」
「雄一匹に雌が五匹……。まぁまぁお盛んなこって。じゃあ、アマテラ後は宜しく頼む。アンタらパーティはアマテラの邪魔をしないようにな。それと周辺の警戒を今から抜かりなく頼むぜ」
「イシュさん、貴女は戦わないのですか?」
「あたしは、おかみさんからアンタらパーティのお守り役を仰せつかってる。だからアンタらがアマテラとリソグラフィカとの戦いに巻き込まれたり、他の獣から襲われても死なないように命だけは守ってやんよ」
イシュの「お守り役」というセリフは少なからずセルンとエリスのプライドを傷付け、反感を買った様子だった。しかし、アコウパーティに本来、龍種は疎か竜種であっても戦うだけの力は無い。本人達も実力不足なのは重々承知している。そしてアコウパーティ単体で竜種と出会ってしまったら、それこそ命懸けで戦っても命は失われるだろう。
しかし、竜種との戦闘感覚を安全な状況で尚且つ、肌で感じる事が出来るならそれは良い経験になる。このまま見学だけで済めば、今後の勉強にもなる良い機会と言えるだろう。
「で?アンタはなんでここにいるの?アンタは馬車の護衛じゃなかったか?」
「大物新人のギルド内ランクの査定に来ただけだが?決して邪魔はせん。それに馬車にはギルド謹製の結界を施してきた。アレは龍種の吐息をも弾く。そのお陰でこの周辺で一番安全な場所になっている筈だ。だからこそここで、じっくりとお前達を査定させてもらう」
アルカディアは大層、イシュとアマテラにご執心の様子だ。馬車での攻防に於いて完全なるガードを二人が為した事がより一層の興味を引いているのかもしれない。ちなみにセルンは完全ガード出来ず、文字通りアルカディアの魔の手の餌食となっていた。
だからこそアルカディアはどうしてもなんやかんやと言い訳を付けてでも二人を見ていたいらしい。一体何が見たいのか?それはご想像にお任せするが、アルカディアの中身が「おっさん」なら言わずとも行動は知れるというモノである。
ちなみにこの場にいるのがアコウパーティだけなら、アルカディアは本当に馬車にて待機していた事だろう。
「それでは妾は参ります。鳥竜以外は全て任せました」
「「「「へっ?!」」」」
――がざがざッ
「さぁて、お出ましだぜ。ほらコイツらは、アンタらパーティの出番だ……ぜッ。――よっと。ほらほら、早く戦闘態勢を取らないと……。アンタら四人を守ってやれるのは、あたし一人だけなんだ。早く準備しないと腕や脚の一本くらい喰われっちまうけど文句は言うなよな?」
周辺に獣達が潜んでいる事を理解していたのはイシュとアマテラ。そしてアルカディアの三名だけだったようだ。意表を突かれたアコウパーティは全員が全員、臨戦態勢すら取っていない。
よって初動の遅れはそのまま命取りになる……が、獣の奇襲からエリスを助けたのはイシュだった。まぁイシュがいるので命だけは守ってもらえるらしいが、「腕や脚は喰い千切られても勘弁しろ」なんて言われた日には死に物狂いで戦うしかないというモノである。
「鳥竜リソグラフィカだけじゃなかったのかよッ!こんなヤツらがいるなんて聞いてないぞッ!」
「リソグラフィカ達が後からやって来た「異物」だ。元々ここら辺はコイツら、大狼種達の縄張り。それくらい勉強しておけ、このアホウ!」
アルカディアはアコウに対して叱責を飛ばしながらも、悠々と大狼種の攻撃を避けている。本当に避けるだけで一切の攻撃はしない事から、先程話していた通り邪魔はしないスタンスらしい。そして、その視線は全てイシュに向けられている。拠って、気配だけで狼達の攻撃を躱している事になる。大した技量、そして執念と言えよう。
逆にイシュは後衛であるセルンとエリスに対して狼達を近付けないようにする事で手一杯になっており、ギンとアコウの二人にまで手が回っていない。更にはアルカディアの視線までをも気にする余裕など……即ち、めくれ上がるスカートを押さえる余裕も、今にもはだけて露わになりそうな豊満過ぎるワガママバストに手を回す余裕などあるハズもない。
そもそもイシュはこういった戦闘に向いていないし、格好からして全てが裏目に出ていると言っても過言ではないだろう。戦闘に夢中になればこそ、肌が露出しようと気にはならないが、アルカディアの視線があると思えばこそ、気にはなる。……が、現状ではどうにもならないジレンマの中にいると言えよう。
この場に襲って来た大狼種の群れは全部で五匹。アルカディアの元に二匹。セルンとエリスを狙っているのが二匹。最後の一匹はアコウを襲ったが、大盾使いのギンがそれを防ぎそれ以降膠着している。お守り役のイシュはセルンとエリスに近付く二匹を牽制しているが、二人の距離がある為難儀な様子だ。
しかし皮肉な事に現状で何よりの救いは、役立たずのアルカディアが二匹引き付けている点だろう――




