ep85 シビア(Click tongue)
「それで、ギルドはこのリソグラフィカ討伐の報酬をどれだけ出せるんだい?」
「銀貨7枚だ」
「鳥竜だよ?紛いなりにも竜なのに随分と安く見られたモンさね」
「仕方あるまい。この討伐にはスポンサーがついていない。ギルドの独断で被害が出る前に討伐を自発的に行うのだ。それに今、ギルドは財政難でな……」
財政難……恐らくこれはエンが去った事による平和の代償だろう。アコウパーティは根っからの財政難だが、それに追い打ちをかける財政難は所属する組織から蔓延り始めたという事らしい。ギルドは国が運営を行っていない以上、財源となるスポンサーがいなければ残る財源は獣の素材になる。
どうやらそれらの財源が底を尽きかけているのだろう。だからこその「独断」であり、「自発的」なのだ。そこには討伐し狩り取った鳥竜リソグラフィカの素材全てを、まるっとまるごと丸儲けの魂胆がある。
「それなら銀貨7枚の代わりに素材を6割貰うさね」
「な……なぁ、俺達にも報酬はあるのか?」
「足手まといのアホウにやる報酬はない!……と言いたいところだが、足手まといになる事前提で銀貨3枚が限度だ。――それでおかみ、素材は5割で勘弁願え……」
「ないよ、残念ながら。それが嫌なら他を当たるこったね」
「ぐぬッ」
こうなった以上、アルカディアが折れる以外に「おかみ」を説得するコトは難しい。金額面で折り合いが付かなければ素材面で折り合いを付けるしかない。
獣の素材とは思った以上にシビアなのである。剥ぎ取りから加工、保管に流通。全てに卓越した技術が問われる。どれか一つでもミスれば海千山千の猛者に安値で買い叩かれるからだ。そうなったら命懸けで獲得した素材なら尚更、直視出来ないないほどの、微々たる金銭に化けるのを我慢するしかない。
しかしミスさえしなければ、大金をゲット出来る可能性は残されている。故に博打と言えば博打であるものの、その「おかみ」も海千山千の一人と言える……。
要するに「おかみ」からすれば現金よりも素材の方がよっぽど利益率は高い。故に譲れるポイントではないだろう。
ただこの「おかみ」、大罪因子の一つである「強欲」が取り憑いているのではないかと思うほど、したたかな時がある。よって、銀貨7枚と素材6割を獲得する事を前提としながらも更に、アルカディアに対して交渉を行う事にしたようだ。
「アンタのところに眠ってる装備はないかい?それをそこのアホウパーティに譲ってやる気はないかい?」
「倉庫の肥やしとは言え、流石にギルドが保有する財産をタダでくれてやるワケにはいくまい……が、財産と言っても二束三文にもならない逸品揃い。好きなだけくれてやる。どうせなら、そこの二人にもくれてやるが?」
「あ……あたしは遠慮しとく。下手になんやかんやとこじつけられて着替えとかさせられても困るし」
「それなら妾もイシュと同じで行きません」
――チッ
どこかからか舌打ちが聞こえたような気がしたようなしなかったような……といった感じだが、その張本人と思われる人物は「そこの二人にもくれてやるが?」辺りで両の掌で空気をワシャワシャとニギニギとモミモミしていた。
よってイシュもアマテラも丁重にお断りした次第である。それがなければ仕込みをサボる口実になったので喜んでくっついて行ったハズだ。
そこら辺はブレない二人である――
「それならアホウ。仲間を連れてギルドに来い。可哀想だから恵んでやる。セルンとエリスのサイズならどんな防具でも着れるハズだ」
イシュとアマテラの二人にフラレたアルカディアは大層機嫌を損ねたようだ。よって八つ当たり的な被害に遭ったアコウであり、「おかみ」のお陰で装備を一新出来る機会に恵まれながらも、素直に喜べるハズもなかった……。
そして更に付け足すと、アルカディアの最後の言葉が何やら引っかかるアコウだったが、その「何か」を言えるハズなどない――
「それでおかみ、リソグラフィカ討伐は明日の早朝で良いな?」
「早朝?これまた随分と急かすねぇ。まぁ、あの森林地帯までは歩きで早くても半日。夜の営業ギリギリだと思ってたが、早朝からなら願ってもないね」
「明日はギルドが保有している馬車が使えるからな。大物新人二人の為に使わせてやろう」
斯くして話しはまとまった。徒歩ではなく馬車での移動なら二時間もあれば現場に着く計算になる。それは「おかみ」にとって願ったり叶ったりだ。しかしイシュは、どことなく大層な不安が身体を駆け巡り、アマテラもまた嫌な予感が終始背中を這いずりまわっていたのである――




